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魔剣の抜けた理由

「あ゛ーくっそ暇」


 玉座に腰かけたメルルは寝間着から着替えることもせずにパジャマのまま、のんびりと欠伸をかました。

 新時代が訪れて以来、メルルは新婚生活という名目もありルシールと二人きりの時間を過ごしていた。

そのルシールは新妻らしくあろうと奮闘し、今も一人食材の買い出しへと出ている。

置いてけぼりになったメルルはやることもなくただ玉座で嫁の帰宅を待っている。


「レーちゃん、なんかお話して」


「私カ?」


 今は振るわれることの無くなった魔剣が傍に突き刺さっていた。

ふいに話をしろというメルルに魔剣は何も思いを巡らせるも、お話など聞かせたことなどあるわけもなく魔剣は沈黙した。


「そいやさ、なんで私がレーちゃん引っこ抜けたの?」


「メルルガ女ダッタカラダ」


「そんだけ?」


 女だったからというシンプルな理由にメルルはだらけた体を少しだけ起こして魔剣のほうを向いた。


「先代魔王ガ女以外ニ身ヲ任セルナト言ッタノダ」


「私以外に抜こうとする女の子いなかったんだ?」


「オ前ガ抜クマデハ、男ノ力自慢ノ道具ニナッテイタシナ。挑モウトスル女ハイナカッタ」


「確かに男ばっか抜こうとしてたね、女子が参加する雰囲気じゃなかったわな」


 メルルは半開きの目を泳がせた後、再び魔剣へと目を移した。


「レーちゃんを引っこ抜かなかったらどうなってただろうね」


「サァナ」


「抜かなかったら相変わらず自堕落やってたんだろうなぁ」


 メルルは魔剣を抜く前の日々を思い出した。

魔法学園を卒業後、職に就かずに自堕落に過ごして時間ばかりが過ぎていた。

そのうちなんとかなるだろうと根拠のない自信をもって、現状に甘えていた日々。

 

 魔剣を抜いたことでメルルの人生は極端に変化していた。


「私モ、メルル以外ニ抜カレタラドウナッテイタダロウカト思ウ、オ前以外ニ抜カレテイタラ、平穏ナ日々ハ来ナカッタ」


「でも、その平穏のおかげでレーちゃんは使われなくなっちゃったね」


 くすりと笑うメルル。


「コレハコレデ嫌ダトハ思ワナイ。私ハ私ノ役目ヲ果タセタト、ソウ思ウ」


「まーね。レーちゃんいなきゃこの新時代はなかったよ」


「道具ヲ褒メルカ、悪イ気ハシナイナ」


 それ以降二人は言葉を途切れさせると沈黙が場に広がった。

その沈黙を待っていたように玉座の扉が開かれると、ルシールが網籠いっぱいに根菜や干し肉を詰め込んでスキップするように足を運んでいる。


「メルル様ー♡食材買ってきました♡ごはんにしますか?お風呂にしますか?私にしますか?」


「それあたしが言うセリフじゃねーの?一緒にご飯食べて、一緒にお風呂はいって、一緒に寝てるじゃん」


「そうでした!でも、一回言ってみたかったんです♡」


 新婚らしく帰ってきただけでイチャイチャしだす二人。ルシールはメルルの腕をつかむとさっさと玉座から連れ出していく。

きっとメルルがいったようにこれから一緒にご飯を食べて、風呂に入り、共に寝るのだろう。


 魔剣は玉座に残されると、自分が抜かれた日のことを夢想した。

幾人もの男ばかりが引き抜こうと精一杯の力を込めたが、魔剣は先代の言いつけ通りに抜かれることを拒んだ。

そして現れたメルル。どこにでもいそうな町娘であった。

引き抜いた身体は華奢で頼りなさそうに見えた。引けた腰で辺りを見る目は魔王に見合うものではなかった。


 しかし、それらを上回る喜びがあった。

何年、何十年の時を経て、再び浮世に降り立つことが出来る。今また新しい時代が開かれていくのだろうとメルルを見て思った。


「メルルヨ、オ前ニ抜カレテ良カッタ」


直接言えない言葉は玉座に消えた。玉座の間の向こうからは魔王と名乗ったとは思えない少女たちのはしゃぎ声が聞こえていた。

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