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二人の花嫁

「お前なら分かるだろう。恐らくは…」


「ドロシーだな」


 言われるよりも前にエリザの口が動いた。

パーティを組んでいたエリザはドロシーが刃を振るう姿が想像される。赤い鋸剣を振るう凶悪な勇者。


「ここの所同じようなものが幾つか見つかっている。ドロシーは襲撃こそしてこないが、兵力を集めているかもしれない。俺の部隊が砂漠地方の先でモンスターの亡骸を見つけた際に一緒に採取されたものだ」


 ドロシーが行方不明になった後、ファージはペコーナの住民を集め兵団を作るとドロシーの復讐を案じ、兵たちに周囲を探らせていた。

本人の姿こそ確認は出来なかったが、ドラゴンの短刀とモンスターの亡骸はドロシーが健在している何よりの証拠になった。


 エリザは一度ドロシーを殺すと決め、それを済ますことなく新時代へと移り変わった。

一抹の不安を覚えると、ドラゴンの短刀を手にした。


「メルルにはまだ言ってない。言う時期ではないと俺は思う」


「同感だ。この件はこちらでも秘密裏に進めさせよう」


「俺も兵たちにはまだ内密にと釘を打ってある。また何かあったら教える」


「こちらも何か動きが分かれば伝える」


「あぁ、せっかくの新時代だ。不安な要素は排除したいもんだ」


「…そうだな」


 安心した心に闇が再び纏わりつくような気持ちがした。

手にした短刀を握りしめるとエリザは眉間にシワを寄せた。まだやり残したことがある。

懐に仕舞うと、エリザは手綱を引いて魔王城を後にした。





 いつか夢に見たことをなぞっていた。

メルルは都の神殿の一室の窓から外を眺めたあとに、ガラスに映る自分の姿にまだ夢を見ているのではないかと確かめるようにガラスに手を翳した。

白く薄い手袋をした手に冷たさを感じる。見慣れない自分の姿にメルルは恥ずかしくも嬉しい気持ちで涙腺が緩みそうになった。


『二人でウェディングドレスきよーよ』


 ガラスに映る自分はウェディングドレスを着ている。

どこにでもいる町娘、世界を支配しようとする元魔王、それらを歩いた先に花嫁という自分の姿がある。


「メルル様、ルシール様の準備が整いました」


 神殿に仕える若いシスターが声をかけた。

部屋の扉が開かれると、純白のウェディングドレスを着たルシールが恥ずかしそうに視線を落として頬を赤らめている。


「ルシール、すごく綺麗」


 他に言葉が思いつかなかったメルルは目の前の花嫁に見惚れた。

頬を赤らめるルシールもゆっくりと視線を合わせると、恥ずかしそうに同じ言葉を口にする。


 都に鐘の音が響いていた。

その日ばかりはトンカチの音も鳴らず、作業着から礼装へと衣服を変えた全ての種の民たちが神殿に集まっていた。


 神殿の奥、巨大なステンドグラスを前にラミエルは二人の花嫁に問いかけた。


「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、 真心を尽くすことを誓いますか」


「誓います」


 二人の花嫁は同時に問いかけに答えた。

二人は向き合うとお互いの顔に掛かったベールを挙げて、まっすぐな瞳をして見つめあった。

いつか話した未来、いつか夢見た世界、目の前に叶った現実。

ルシールの頬には一筋涙が伝っている。

そっと唇を重ねて目を閉じた。


 赤いカーペットの上を歩き、二人は神殿の外へと姿を見せた。

礼装をした民、魔族、モンスターたちは二人の花嫁を目にすると、手に持っていた籠から花びら掴み、盛大に空へと舞い上げた。


 色とりどりの花びらが舞う中、二人の花嫁は手を繋いで歩いた。

涙を流す者、祝福の声を上げる者、テンションがあがりすぎて飛び跳ねる者、赤いカーペットの左右に分かれた民たちは思うままに感情を爆発させて二人の門出を祝福している。


 花びらと歓声に包まれながら、二人は道の先にある白馬が引く白い馬車へと乗り込んだ。

繋いだ手を放さないままに二人を乗せ、扉が閉められると馬車はゆっくりと歩き出した。

動き出した馬車向かって民たちは残った花びらを盛大に舞わせ、歓喜の声を投げた。


 照れる顔をしたルシール、メルルはもう一度唇を重ねると、目の前の花嫁との未来を模索した。


「メルル様、これからどうしますか?」


「そうだなぁ…」


 揺れる馬車、運ばれる花嫁二人。

繋いだ手は離さないまま、メルルは二人の未来を考え、答えが出ないままにぼんやりと明日に目を向けると、ルシールの笑顔が優しくメルルを見つめていた。



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