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幕は上がった。

 かつては王が治め、魔王によって制圧された都。

勇者と魔王の争いによって全壊まで追い込まれた町は民や魔族、モンスターによる復興が進んでいた。

頭にハチマキをした大工やゴブリンが明るいうちは常に建物の修繕にあたり、町にはトンカチを叩く音が響いていた。


 城壁から町の復興を眺める姿があった。今ではこの都の王へと立場を変えたエリザだ。

王から魔王、魔王から勇者へと引き継がれた町。エリザは今まで纏っていた鎧を脱ぎ捨て、町娘のような質素なスカート姿でこの町を見下ろしていた。


「ドロシー、お前は今どこで何をしている?」


 見上げた空にカラスが一羽飛んでいた。

古い時代との決別を果たした後、ドロシーは姿を消していた。

青い空を飛ぶカラスは徐々に視界から遠ざかるとやがて彼方へと消え去っていった。


「エリザ様!」


 背後からかかった声に振り向くと都にある神殿を預かることになったラミエルが慌てた様子で駆けてきた。

エリザの前まで来ると膝に手をついて荒い呼吸を整えている。


「どうしたラミエル。何かあったか?」


「メルルさんが、…メルルさんが目を…覚ましました!」


「なに!?」


 耳にした途端にエリザは駆けだした。

大きく腕を振りながら城内の廊下を駆ける姿に、兵士たちが何事かとエリザに目を集める。


「メルル…!」





 白い馬に跨り大急ぎで魔王の城へと繋がる橋を抜けた。

かつてオンボロだった橋は今では修繕がなされ、ブロックで作られた強固なものへとなっている。


 馬から降りると手綱も繋がずに投げると、息を切らしながら城内へと足を急がせる。

 

 勇者と魔王の時代を終わらせたメルル。

エリザと肩を組みながら新しい時代の幕上げを宣言すると、そのままメルルは意識を失って目を覚まさなかった。

ドロシーによって切られた傷、人間の身体には負担の大きすぎた先代魔王の魔力、新時代の開幕を見届けたメルルは保っていた精神を切らし、何日も目を開けることはなかった。

 寝室への扉を乱暴に開けると、ベッドに横たわるメルルが目を開いて泣きながら抱きつくルシールの頭を撫でている。

ベッドを囲むようにファージやスライム、ペコーナの町長、エミル、回復魔法を得意とする魔族など盛大な人数が室内を埋めている。


「メルル!」


 ベッドに駆け寄るとメルルは軽く手をあげて、かつての好敵手に挨拶した。


「ラミエルから目が覚めたと聞き駆けつけた!メルル…良かった…もう目を覚まさないかと思ったぞ」


「私も死ぬかと思ったわ。お花畑でひたすら花摘む夢みてたから…あぁ、ここ天国なんじゃねって思ったもん」


「随分と乙女な夢を」


 確かにと言いながらメルルはくすりと笑う。


「とりあえず生きてたようで何よりだ。全く、お嬢ちゃんは周りを振り回してばかりだな」


 呆れたような口調で話すファージではあるが、その口元はエリザが入ったときから口元が上向いている。


「乙女は周りを振り回していいんだよ。乙女の特権だから」


 細めでニヤリと笑う。

 メルルの無い胸に泣きついていたルシールは顔をあげるとメルルの顔を見て、大粒の涙を零しながら口元を震わせた。


「メ゛ル゛ル゛ざま゛…ほ゛ん゛どう゛に゛い゛き゛ででよ゛がっだ」


「死は覚悟したけど生きながらえちゃったよ――ルシール今回は口移しで果実飲ませてくれなかったんだね」


 メルルはわざと人差し指を口元に当てて上目遣いのあざとい仕草をすると、ルシールは涙を流しながらメルルに口づけた。

唇を押し付けては離し、押し付けては離す。周りに人がいようと関係ない。ルシールは今までの不安を消化させるように何度もキスをした。


「やれやれ。こんな濡れ場を見せられてはかなわないな。メルルの無事も確認できたし、私は都へ戻ろう。外に出れるようになったならば都へ来てくれ。皆お前の姿を見たいと願っているぞ」


 口づけされたメルルは手を振って返事をすると、エリザはくすりと笑って寝室を後にした。


 魔王城から抜け馬に跨ろうとした所に、ファージが声をかけた。

先ほどのような笑いはそこにはなく、真剣な表情をしたファージにエリザは何かあったのだろうと、言葉を待った。


「都の様子はどうだ?」


「順調に復興が進んでいる。皆一丸となって町の再興に尽力してくれている」


「それは何よりだ。こちらも何も音沙汰はない。だが…」


 ファージは懐から布に包まれた小さな刃を取り出した。

鱗がついたギザギザの短刀。赤い刀身はドラゴンのものであるとエリザは一目見て思った。

ドラゴンから作られた刃――エリザの脳裏にはドロシーが過っていた。

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