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戦わずに街手に入れたわ

 腹を満たした住民たちは食休みをしていると、先程までは痩せ細ってガリガリだった体に徐々に英気が宿り、たくましい体になっていた。

急な体の変化に住民は隣の人の体を見たり、自身の体を確認した。


「オメェ、さっきまでガリガリだったのに何て体になってるだ!」


「オメェこそ骨みてぇだったのに立派な体格になってるでねぇか!」


「本当だ!さっきまで動くのもやっとだったのに、ヤル気が漲ってるだ!」


「当然ダ。禁断ノ果実ハ即効性ノ回復剤トシテモ用イラレル果実」


「おんやぁ、剣が喋ってるだ!」


「やっぱ魔王様ともなると、持ってる剣も普通じゃねぇべ。にしても魔王様に救われただ。ありがとうごぜぇますだ」


「いいよいいよ。でも、どうしてあんなに皆痩せ細っていたの?」


「いや、それが魔王様、実は···」


 住民は目の前にいるのは魔王というよりも救世主に救いを乞うように今までの経緯を話しはじめた。

 この小さな町は土壌柄、作物が育ちにくく町民たちで食べる分で精一杯の量しか取れない。

だが、街を支配する王により税金として作物を定期的に献上しなければならない。

その結果、自分たちが食べる分を税金として納め、この街は飢餓に貧していたという。


「自分たちが食べるものまで納めるなんて。最低な王様ね!こんなになるまで民を追い込むなんて」


「王様たちは自分の懐のことしか考えてねぇだ。そのせいでオラたちは飢餓に苦しんでいただ」


「あなたたちもそんな苦しい状態ならば一揆でも起こせばいいのに」


「オラたちの街は大した武器もなけりゃ人もいない。一揆なんて起こしたら余計に苦しむのは目に見えてるだ」


 それを聞いてメルルはここに来た経緯を思い出した。小さな街だから攻めやすいだろうと思って自分たちもここに来たのだった。

確かにこんな小さな街の住民が王に反旗を翻したところで負けるのは目に見えている。


「魔王のおねーさん!」


 話し込んでいた中に最初に物乞いをしてきた少女が駆け寄ってきた。

その顔は果実のおかげで生気に溢れ、痩せていた体は年相応にふっくらしている。


「魔王のおねーさんのおかげで腹いっぱいだ!お礼に皮で魔王のおねーさんの剣作っただ!」


 小さな手には果実の皮を切り抜いて作った小さな剣が収まっていた。

とても剣のようには見えないが、メルルは小さな少女の感謝を素直に受け入れると、皮の剣を手に取った。


「ありがとう。嬉しい。って魔王なのに、人間に感謝されちゃった」


「おねーさんが魔王だろうと人間だろうも、オラたちを助けてくれたことに変わりねぇだ!」


「その通りです」


 少女の頭を撫でながら後ろから長く白い髭を生やした老人が現れた。

果実は食べたのであろうが、老人はそれでも細い。だが、その目は活き活きと輝いている。


「私はこの街の町長をしている者です。あなた様が魔王と名乗ったのは驚きましたが、それよりも民を救ってくれたことに感激しました」


「オラの爺様は町長なんだど!偉いんだど!」


 少女は胸を張って老人を褒め称えた。自身の祖父に誇りを持っているのだろう。それが魔王の前であっても。


「これ、エミル。魔王様に比べたら私など非力なもの」


「良かったね、民もお孫さんも元気になって」


「魔王様のおかげです。魔王様が来なければ私達はそのうち皆餓死していたことでしょう。この命、魔王様に救われたのです」


 あまりの感謝にメルルはとても支配しにきたとか、皆殺しにしにきたとは言えなかった。

元気になったら殺すと言った言葉はもうメルルの心の中にはこれっぽっちも残っていない。


「もういいよ。こんな小さな街支配しても仕方ないし、サキュバス次に行こうよ」


「はい、魔王様!」


「お待ちください魔王様!私達はあなた様に救われました。これはもう魔王の領地になったも同然。これよりこの街は魔王様の支配下として扱って頂けませんか?」


 町長の申し出にメルルは耳を疑った。

戦うどころか人間を助けてしまったが、町長はその礼に街を差し出すと言っているのだ。

自ら魔王に土地を差し出すなど聞いたことがない。


「んだんだ!我儘な王様に支配されるくらいなら魔王様に支配されたほうがマシだ!同じ支配なら食える支配のほうがマシだ!なぁ、みんな!」


「んだなぁ。食えない支配よりは腹いっぱい食える支配のされかたのほうがオラ良いだ」


「王様のときはこんなに腹いっぱい食えたことはなかっただ。魔王様に救われた命だ。魔王様のために働くべさ!」


 町長だけではなく、民からも魔王傘下を希望する声が続々とあがりはじめた。

最早こうなってはメルルも止めようとは思わなかった。

メルルの支配したい要求と街の支配されたい要求が合致しているのだから。魔王らしくない行為をしてしまったが、結果として領土を手に入れることが出来るのだ。


「流石魔王様!こうなることを見越して民を救ったのですね!力だけでなく頭もキレてらっしゃる!」


 サキュバスまでもがメルルを称えると、町民たちは支配下におかれることに喜びの声をあげた。


「支配出来タナ」


「こんな事になるとは。私、魔王の才能あるのかも!」


「調子ノ良イ事ヲ」


 鳴り止まない魔王様コールにサキュバスが手にした旗を大きく振りかざしていた。


 喜びに溢れる街に一発の銃声が鳴り響いた。

唐突に鳴り響いた銃声に住民たちは口を閉じて頭を低くした。

メルルたちも何事かと銃声のほうへ振り向けば、拳銃を高らかに翳した女の騎士が一人、馬に跨っていた。

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