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革命

 丘の上には一つの旗があがっている。黒字の旗に白で角の生えた髑髏マークが見える。


「あれは…」


旗を持つのはルシールであった。

丘の上で旗を掲げると背を伸ばして城を見ている。


「メルル様!メルル様!メルル様、メルル様!何度も約束を破ってごめんなさい!でも私…メルル様のいない未来なんて考えられない!」


 泣き叫ぶような声だった。

 いきなり現れたルシールの姿に勇者たち一行は釘付けになった。エリザに続いてドロシーやホーキンスも城壁から丘を見ると、現れた魔族の旗を訝し気に見ている。


「ヘッ!魔族一人来たところで、何も変わらねぇ!」


「いや、待て」


 ルシールの隣にもう一本の旗が上がった。

スライムの少女が旗を手にして城をみる。さらに反対側にもう一本。今度は住民が、ゴブリンが、ペコーナの住民が。

いつしか丘の上には魔族の旗が大量に掲げられている。


「そんな…バカな!」


 目の前に広がる大量の旗を見てドロシーは拳を打ち付けた。


「メルル様!今助けにいきます!」


「ウオオオオオオオオオオ!!!!」


 丘を掛ける大量の住民とモンスター、その数は雪崩のように丘を下り都へと押し寄せている。


「理解できん、理解できん、理解できん!何故魔王に味方する!何故私たちに歯向かう!ドラゴンよ!反逆者どもを火あぶりにしろ!」


 ドロシーが手を翳すと、地上にいたドラゴンと空を舞っていたドラゴンたちが丘へと向かいだした。



***


 城を前に旗をあげたものたちが一斉に駆けだした。


「俺ァ自分が恥ずかしい!俺たちがしたのはたった一人の少女に自分たちの未来を。自分たちの命を預けた!俺ァ大馬鹿だ!今度は俺が、俺たちが魔王様を助ける!」


「ったりめぇだ!かかってこいよドラゴンども!」


 先陣を切った住人たちが地上を駆けるドラゴンにぶつかる。相手は人間よりもはるかに巨体にも関わらず、住民たちはドラゴンの体を受け止めると、数で圧倒しドラゴンたちを切り崩していく。


 丘の上では絵描き魔法使いアンがその手に筆を何本も持ってモンスターや住民たちの背中に角の生えた髑髏マークを描いて回っていた。


「さぁテメェら!あたしの魔力が続く限りバフしてやる!テメェらち〇こついてんだったら男見せてこいやぁ!」


 描かれた髑髏が光をあげると、筋力と魔力強化のバフがかかった。

描かれたものから前に出るとドラゴンともみくちゃになった戦場へと駆ける。


「この戦いは勇者が魔王に勝つ英雄章ではありません、新しい時代への革命です!さぁ、ファージ!あなたの力を!」


「任せろラミエル!」


 ラミエルは光の魔法をかけると、ファージはオレンジ色のオーラを吹き上がらせて一気に駆けた。

住民たちの間を駆け抜けると、目の前に迫るドラゴンを一振りで切り倒しながら一気に城へとかける。


「魔王だとか勇者だとか俺ァ知らねぇ!借りを返すぜ魔王!」


 ファージの剣がオレンジ色の光を帯びてドラゴンを真っ二つに切り裂いた。



***



「何故だ、何故だ、わからない、何故魔王を助けようとする!」


 人間が、魔族が、モンスターが一丸となって協力する姿を見てドロシーは震えだした。

勇者であるはずの自分たちに刃を向ける。何故、何故、何故。

疑問はあがれど、答えはでない。

自分こそ勇者である、自分こそ正義であると信じたドロシーは目の前に広がる世界を目視出来ずに視線を落としていた。


「ドロシー、お前にはわかるまい。これが、これこそが答えなのだ」


 エリザの刃の切っ先がドロシーの首に向けられた。


***


 倒れて遠のく意識。

メルルは急に刃は向けられなくなったが、背に受けた傷のせいで命が尽きるのだろうと感じていた。


「ルシールに、会いたかったな」


 薄れゆく意識の中、ルシールの声がした。

どこか遠くで自分を呼ぶ声。約束を破ったことを謝る声。何度も見た泣き顔が連想された。


「ルシール…」


 どうせなら泣き顔よりも笑顔を。どうせなら笑顔よりもいつもの姿を。

見るんだったらウェディングドレス姿を。


 再びメルルの体に力が沸き上がった。

呼応したように魔剣が手に収まると、メルルはわずかに痛みを感じながらもゆっくりと立ち上がる。


「何度も約束破ってさぁ…私まで約束破っちゃう所だったじゃん…私は…私はまだ死なねぇからな!」



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