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悲哀を手招く闇、纏わりつく不安

 住民の苦しみ以上にルシールは心を苦しめていた。

本当ならば傍にいたかった。愛しい人を置いて一人自分は避難してしまった。

でも、メルルはそれを望まない。

約束を破った過去があるが故に、約束を破るわけにはいかないと考えれば避難することでメルルとの約束を守ることが出来る。


 だが、傍に居れないが故にルシールは不安な考えが止まらなかった。

もしもメルルが勇者たちに殺されたらどうしよう。

考えてはいけないと意識を反らそうと努めても、どうしても頭から離れてはくれない。


 もしもメルルを失ったら。


 ウェディングドレス姿のメルルが頭の中に描かれた。

世界が平和になったら結婚しようとメルルは言ってくれた。それがどれほどルシールにとって嬉しさと幸せを運んでくれたことか。

しかし、そんな未来は灰となって消えて二度と叶うことがない。


嫌だ嫌だ嫌だ。


 考えただけで涙が出てくる。

住民たちが思うような怒りはある。何故自分たちがこんな目に合うのだろうかと。

そして魔王が自分の恋仲であるが故の不安。

大切なものを失ってしまうかもしれない闇が纏わりついて離れない。


――考えても無駄。


 隣にメルルはいないのだから。

一度約束を破った。夜這いはもうしないと言いながら、メルルの寝込みを襲ってしまった。

なのに、メルルは拒否するどころか、こんな自分を愛してくれた。

ルシールはそれを思うと、どうしようもなくメルルへの愛を溢れさせた。

その愛が今にも消えそうに思えてしまう。


 ルシールは部屋の隅で身体を縮こませて一言も口を利かなかった。

目の前の住民やモンスターたちは感情を抑えながらも不安な空気を醸し出し、怒りの声をあげても今のルシールの耳には入らなかった。


 もし、メルルが負けたら、死んだら。

夢が叶うどころか、一人ぼっちになって後悔に苛まれながら生きていくのだろうか。


「そんなの…そんなの嫌だ!」


 急に叫び声をあげたルシールに住民たちは体をビクリとさせるとルシールに視線を注いだ。

暗い面持ちで頬には一筋の涙が伝っている。ルシールは無言のままに立ち上がると、屋敷の外へと歩き出した。


「ルシール、どうしたの、ルシール?」

 

 スライムが後を追いながら声をかけてもルシールは無言のままだ。

一人扉をあけて出ていってしまうルシール。スライムは反応のないルシールに不安を覚えながら屋敷の中の住民たちへ振り向いた。


「スライム様、きっとサキュバス様は不安なのよ。ここにいる住民たちよりも、誰よりも」


 スライムに話しかけたきたのはいつかの花屋の店員であった。

ルシールがメルルに対して特別な感情を持っていると察していた彼女はスライムの前にしゃがむと頭を撫でた。


「スライムだって…スライムだって不安だもん。魔王様いなくなったらやだもん」


「えぇ、そうね…」




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