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終わりをはじめよう

 いよいよ城へと向かったドロシーは降り立つと同時に玉座の間へと急いだ。


――これでやっと私の正義が。勇者の伝説が始まる。


 胸に秘めた想い。自分の理想が成就すると恍惚とも絶頂ともいえぬ感覚がドロシーの足を急がせた。

それにホーキンスと、遅れてエリザ、マリアも合流すると、4人そろって玉座の間の前まで足をそろえた。


 巨大な扉は閉められているが、わずかな隙間から闇が漏れて、中を開けてはならないと警戒しているように思えた。


「さぁ、魔王と謁見だ。皆、ぬかるなよ」


「あぁ」


 魔王を倒せると胸をときめかせるドロシーが両手で扉を開く。重たい扉が徐々に開かれると、そこからは闇が霧のように漏れて辺りを暗くさせる。

 ここが最終局面である。エリザはすでにドロシーを殺す覚悟をしている。

魔王を攻撃している隙をつくか、魔王を倒すギリギリの油断した所を仕留めるべきか。

 いずれにせよ、ドロシーが隙を見せた所で殺す。その後はどうとでもなれだ。

 確かめるようにマリアに一度視線を送ると、分かっているとマリアは頷いた。


二人の勇者が違う目的ではあるが、同じ最終地点にたどり着いた。


 玉座にいたのは長い黒髪の少女だった。

目の前に持つ、太く長い漆黒の剣は今までみた魔剣とは形を変え、より禍々しさを醸し出していた。

さらにはその魔剣からも少女からも絶大な闇の魔力が溢れだしている。


 メルルの眼光が闇に光った。


「ようこそ…勇者とその仲間たちよ…さぁ、終わりをはじめようじゃないか」


 メルルの魔力を全開にした衝撃が勇者たちを揺らした。



***


 避難先のペコーナには以前見たときとは打って変わっていた。

干からびて今にも死にそうだった町は180度姿を変えた。古ぼけた家ばかりだったのが、今ではどれも新築となり、少なかった建物は倍以上になっている。

最初に民に渡した果樹はより大きく成長し、いくつもの実をならせている。そればかりか、果樹を中心に同じように実をつけた人の背丈ほどの苗木が何本も植えられ、立派な果樹園へと成長している。


 ルシールは他の民と共に屋敷に避難すると、住民から出された茶を飲みながら、戦いが終わるのを待った。


――メルル様、どうかご無事で。どうか生きてください。どうか負けないでください。


 祈ることしか出来ないルシールは両手を握ると額をつけて祈り続けた。

祈りはルシールだけに限ったことではない。共に避難した民が、魔族が、モンスターが同じ思いでいた。

 自分一人残り、全てを避難させた魔王。

たった一人でドラゴンの群れに敵うのだろうか、勇者のパーティに勝てるのだろうか。

信じるしかないが、誰もがその胸に引っかかりを感じていた。


「畜生!何故俺たちが避難しなきゃならないんだ!」


 痺れを切らした住民が拳を壁に打ち付けた。


「悪いのは勇者たちのほうじゃないか!魔王様に支配されたなんて言っているが、現実は平和そのものじゃないか!そこにいきなり現れて人を襲ったのは勇者たちじゃないか!クソッ…」


「言いたいことは分かる。だが、これも魔王様の命令。魔王様にも何か考えがあるのだろう」


「そうだけどよ!俺ァ納得がいかねぇよ!」


 誰もが同じ気持ちであった。男の言うことは十二分に分かる。

魔王からの命令でなければ、町に残って戦っていただろうと思うと、住民たちは余計に心を苦しめた。

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