正義と悪
城から突き上げた闇のオーラが天空を貫いた。
禍々しい闇。人を恐れさせる魔王の絶大な魔力を感じると、ドロシーは歓喜した。
「見ろ!あの禍々しい闇を!やはり魔王は悪だ!」
それが魔王から発せられた魔力であると分かると、魔族は悪だと証明するかのようにドロシーは叫んだ。
正義は我にあると目を輝かせている姿にエリザはますます嫌気が指した。
確かに禍々しくはある。しかし、エリザは城の様子よりも城を中心に広がる町を気にしていた。
おかしい。ドロシーが民を襲撃したのならば、再び訪れるドロシーに対して報復してもいいはず。
都を攻めると同時に民からの報復にあうことを覚悟していたエリザは町の静けさに疑問を感じていた。
ドラゴンが火球を飛ばしたのにも関わらず、悲鳴の一つもあがらない。
地上から攻めるドラゴンが町に侵入しても誰も逃げる気配もない。
「何かおかしい」
「おかしい!?何がおかしいっていうの!」
「民がいない」
「確かにそうね、もしかしたら町に罠でも仕掛けているのかしら?ドラゴンたちよ!町を破壊しろ!」
命令を受けると地上を駆け巡っていたドラゴンたちが町のあらゆるものを破壊しだした。
しかし、壊した所で相変わらず悲鳴の一つも聞こえず、罠が張り巡らされている気配もない。
「やはり、民はいないのか」
エリザは乗っていてドラゴンを急旋回させると、地上に降り立とうとドラゴンの手綱を操作し降下させた。
「おい!エリザ!ったく、さっさと城にせめて魔王を倒さなきゃならないってのに、何がそんなに気になるのかしら!」
ドロシーの声も構わずに広場に着地すると、瓦礫の散らばる町を歩きだした。
「エリザ様!」
後を追ったマリアを駆け足でエリザの背後につくと、二人で町の様子を見て回った。
ドラゴンによって火の手があがり、民家も店も破壊の限りをつくされている。
一つ一つ確かめるように左右を見ていると、エリザはさらなる異変に気が付いた。
「やはり…民は逃げ出したようだな」
「そのようですね。では、もうここには魔王しかいないのでしょうか?」
「恐らくな。それに違和感を感じたんだ。見ろ、家こそ燃えているがそれ以外に何も見当たらない」
「どうゆうことですか?」
「衣類や食物がまるで見当たらない。恐らくは生活用品なども持ち出して万全の用意で逃げ出したのだろう」
「こうなることを予測していたのですね」
「あぁ」
ふと、燃え盛る民家の壁に目をやると、火にあぶられながら家の壁に絵が描かれているのを見つけた。
子供の落書きだろうか。剣を手にした少女が複数の人間相手に戦っている様子が描かれている。
しかし、エリザはそれを見ると息を飲んだ。
少女の絵の下には子供からのメッセージが書かれていた。
『まおうさまがんばれ!ゆうしゃにまけるな!』
ミミズが這ったようなたどたどしい字ではあるが、それはやってくる勇者たちを迎えうつ魔王を鼓舞させようとしている。
絵はゆっくりと燃え上がるとメッセージも絵も燃やし尽くしてゆく。
「きっと…民は自主的に避難したのではない。魔王が命じて避難させたのだろう」
「何故…?」
「魔王は今まで民を救ってきた。そのことを考えれば当然今回も魔王は民を救おうとするだろう。報復する民たちを説得し、自らが残ることで民を避難させたのではないだろうか」
「そんな…私たちやドラゴンの群れが来ることを知りながら、たった一人で?」
「でなければ、こんな絵を残そうとは思うまい。私は思う。魔族や魔王が悪なのではない。勇者が正義なのではない。何かを護ろうとする想い、人のために尽くす心こそが正義なのだ。そして――身勝手な理想と偏見に塗れた肩書こそが悪」
「エリザ様、そんなことを言っては――」
「そうだ。私たちこそが悪なんだ」




