殺すつもりが人間たちを生かしてしまったよ
「汚らしいクソガキが!ばっちい手で魔王様に触れるな!」
魔王のスカートを引っ張る小汚い格好をした物乞いに、サキュバスは怒りを顕にすると大声でまくし立てた。
急に頭から大声を浴びせられた少女はその場にしゃがみこむと大声をあげて泣き出した。
「ごめんなさぁい、オラぁ腹が減って死にそうで」
「待ってサキュバス。こんな子供が物乞いするなんて、この街なんだかおかしいよ」
「ちょうどいいではありませんか!弱っているならば今がチャンス!一息に皆殺しにしてしまいましょうよ!」
皆殺しと言う言葉に少女は体をビクリと震わせて泣き声をあげた。
もうメルルはこんな小さな少女が物乞いし、泣いているのを見て居ても立ってもいられない。背にした魔剣を握ると、振り向いて魔剣に問いかけた。
「レーちゃん!なんか食べ物とかないの!?」
「レーチャントハ私ノコトカ?」
「他にいないでしょ!なんか食べ物ない!?」
「無イ事モ無イ」
魔剣は刀身に赤いオーラを纏うと、そのオーラの中から小さな赤いリンゴが現れた。
「禁断ノ果実ト言ワレル物ダ。土ニ埋メテミロ」
「分かった!」
眼の前の地面を手で掘り、中に果実を放り込んで土を被せる。すると地面を突き破って芽が出たと思えば、見る見るうちに成長し巨大な果樹へと成長してゆく。
あまりの成長の速度にメルルもサキュバスも伸び行く姿を下から上へと見つめていた。
枝には大ぶりの赤い身の詰まったリンゴのような実がなっている。
成長は止まらず、いくつも実をつけだし、そのうちの一つをもぎ取ると魔剣で切り裂いて8等分に分けた。
「さぁ、お食べ」
「あ、ありがとうございましゅ!」
手渡された果実を受け取ると、少女は涙を浮かべながら果実にかじりついた。齧るたびに甘い汁が口元から溢れ出し、なんとも言えない濃厚な甘い香りが漂った。
一心不乱に口に詰め込む姿にメルルはよほど苦しい思いをしていたのだろうと、心が痛む想いをした。
「こんな甘くて美味しい果物はじめて食べただ!」
「まだあるから遠慮しないで」
「ありがてぇ、ありがてぇだ、魔王様」
目からは涙、口からは涎と果汁を零しながら少女はいくつもの果実をたいらげた。
すると匂いにつられたのか、民家から痩せ細った住民たちが顔を覗かせていた。
「魔王様!人間たちが出てきました!」
三人を見る住民たちの眼は、どれも羨むような眼つきをしているが、悪魔の成りをしたサキュバスとイカつい魔剣を持ったメルルを見ると出ていくのを躊躇っている。
「皆あんなに痩せこけて。いいわ。住民たちよ!聞け!私は魔王である!人間たちを皆殺しにするべく此処に降り立った!」
メルルの言葉に顔を覗かせていた住民たちは恐怖して顔を引っ込めた。
「だが、私は貴様らのような弱った人間に興味はない!せいぜい英気をつけて太るがいい!それまでは貴様らに手出しはしない!」
高らかな宣言に再び住民が顔を出した。よほど腹が減っているのか、中には涎を垂らすものまでいる。
「オラァもう我慢できねぇ!」
住民の一人が家から飛び出すと、果樹まで駆け寄り実をもぎ取ってかじりついた。
その一人が出てきたのを火蓋に、住民たちは次々と姿を表し、果樹目掛けて走り出した。
「もう魔王でも何でもいいだ!腹さえ満たせりゃ何様のものでも頂くだ!」
「んだんだ!あぁ、うめぇ。こんなに美味いもの久々に食うだ!甘くて瑞々しくて何個でも食えるだ!」
住民たちが実に何度も手を伸ばすが、果樹は取られた傍から果実を実らせ、住民たちが食べても追いつかないほどだ。
「殺スツモリガ、生カシテオルナ」
「こんな弱った人たちを殺すなんて魔王らしくないでしょ?魔王ならばもっと戦いがいのある戦に望みたくない?」
「ソレモソウダ」
メルルやサキュバスが見守る中、住民たちは久しぶりのまともな食事に皆魔王どころではなかった。