赤いバラ
玉座には一人の魔王がいた。
今やもぬけの殻となった都。その城にいるのは魔王と名乗りをあげた少女。
傍らには伝説の魔剣として語り継がれた刃。
『二人でウェディングドレス着よう』
自分で言った言葉。
そう約束したのに―――
果たしてそれは実現できるだろうか。
涙を流して震えるルシールを見ると、とてももうこれで終わりだなんて言えなかった。
手元にはいつかルシールが買ってきてくれた花を手にしていた。
赤いバラは『あなたを愛しています』
白いバラは『私はあなたにふさわしい』
その花言葉を知っていた。きっとルシールは花に言葉と想いを込めてくれたのだろうと感じられて、とても嬉しかったのを覚えている。
民にいった言葉。新しい時代の予感。そこに勇者と魔王はいない。
くだらない肩書や価値観を捨てて、新しい時代が訪れる。
死を覚悟していた。
相手が何人いようと、誰だろうと。勇者と名乗るものを殺し、己も命を絶つ。
この世界にはもう勇者も魔王も存在させない。
争いを、悲劇を、永遠と繋がれる負の連鎖を断ち切る。
きっとそれが魔剣を抜いた自身の運命なのだと悟った。
「ルシール…」
本当は傍にいて欲しかった。傍にいてと言いたかった。
きっとルシールも傍にいたいと思っていると分かった。
でも、古い時代との決別のためにルシールが死ぬ必要はない。ルシールは魔王ではない。そんな彼女を巻き込みたくなかった。
二人でウェディングドレスを着ようと言ったとき、目の前にいたルシールのウェディングドレス姿を想像してしまった。
きっと綺麗なんだろうな、きっと可愛いんだろうな、きっと、きっと、きっと、きっと。
叶いそうにない願いにメルルは泣いた。嗚咽を我慢することもなく、感情のままに涙を流して嗚咽を上げ続けた。
「…出来ることなら…出来ることなら、ルシールと…居たかったよ。…ずっと、ずっと!ずっと!一緒に居たかったよ。結ばれたかったよ」
ウェディングドレス姿を想像した。
出会った時から今迄をなぞりながら思い出していた。
いつも隣にいた彼女を思い出せば、切ない幸せが心の中に残った。




