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開幕

「お前みたいなのが勇者だって!?笑わせんじゃねぇよ!」


「笑いたければ笑え!私こそが勇者!そしてお前は魔王!絶対的な正義ッ!絶対的な悪ッ!揺るがぬ事実であろう!」


 突き出された魔剣を体を振って避けると、鋸がメルルの太ももを捉えた。


「グッ!」


 よろけるメルルを見ると、ドロシーは笑みを浮かべて距離を取った。

一度は敗北したが、これならば互角、いやこのままいけば一人でも魔王を討ち取れると確信した。

血を流すメルルに対し、ドロシーは一切の無傷。


――勝てる。


 力を手にしたドロシーは勝利の訪れを予感して胸が高まった。

しかし、言ったようにこれは狼煙。魔族に対する宣戦布告。


「魔王よ、これは勇者と魔王の戦争を告げる宣戦布告だ」


「そんなためにわざわざ町を焼いたのか?」


 鋸の刃で切られた足からはとめどなく血が溢れた。削り取られた皮膚は荒々しく傷口を開いている。

抑える手も指の間から血があふれ出ている。


「そうだ」


「民は、モンスターは関係がないだろう。なら私だけを倒せば終わりだろ!」


「違うな。今の民たちは魔王を前にして皆目を曇らせている。甘い蜜を吸って平和だと勘違いしている。その目を覚まさせるため…」


「本当に頭沸いてやがんな」


「これは浄化なのだ。魔王に振り撒かれた異常な価値観。それを清めるための礎」


「演説はいらねぇんだよ!」


 魔剣を振り払って斬撃を飛ばした。糸もたやすく身体を反らして斬撃を受け流すと、ドロシーは迎えに舞い降りたドラゴンの背へと飛び乗った。


「魔王を倒すだけではない。魔族に協力するもの、我らに反するものは皆殺しにする。民にもそう伝えておけ。次は本気でお前を殺しに来るからな。それまで首を洗っておけ」


「テメェエエエエエエエエエ!!!」


 再び斬撃が飛ぶが、ドラゴンはふわり舞い上がると斬撃を回避して空へと舞い上がった。


「アハハハハハハ!さらばだ魔王!次がお前の最期だ!」


「逃げんじゃねぇクソ勇者!私がテメェの首切り落としてやる!!!」


 高らかな笑い声を残して、ドロシーはドラゴンを引き連れて遠くへと飛び去る。

視界に映ったドラゴンたちは徐々に小さくなり、やがて姿は見えなくなった。


「正義の戦?勇者が正義で、魔王が悪?あのクソ勇者…絶対にブチ殺してやる」


 歯を食いしばりすぎて、口から血を流した。

これ以上ない怒りを覚えながら、メルルは握った拳を地面に叩きつけた。



***


「ふざけんじゃねぇ!」


 玉座の前に集まった住民、魔族、モンスターたちは、町を襲ったのが勇者だと聞くと怒りの声をあげた。


「勇者だったら何してもいいってのかよ!」


「魔族だけじゃなく、人間までも手にかけようなんて…そんな勇者聞いたことがありません…」


「何が勇者は正義だよ!勇者のほうがよっぽど悪じゃないか!」


「そうだ!魔王様のほうがよっぽど民を想い導いてくださっている!魔王様のほうが正義じゃないか!」


 治まりそうにない怒りの声をメルルはただ目をつむって耳にした。

いつかは争いになるとは考えていたが、このような形で火蓋が切られると思わず、今後の動き次第では自分だけではなく民の命までも量りに含まなければならない。

平和の訪れを予感していた中で、民の命を失うわけにはいかない。


「こうなったら俺たちも抵抗しよう!」


「寝込みを襲われてされるがままだったが、今度はみんなで武装して迎え撃とう!どっちが正義かあのバカ勇者に叩きこんでやろう!」


 怒りの声はやがて武力となっていくのを感じると、メルルは目を開いた。


「皆、聞いて欲しい。これからの事を」


 メルルが口を開くと、住民は耳を傾けた。皆が抵抗しようと声をあげる。争いを覚悟する住民たちに、メルルは期待に添わない言葉を告げた。

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