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思い描く理想、捻じ曲がった現実

 ドラゴンの素材から作り出した鋸状の剣を手に、ドロシーは眼に入る魔族全てを斬り続けた。

倒すまでもないような幼い姿だろうが、害を為さないようなモノだろうが、魔族ならば問答無用に斬りつけ、逃げるものは追い詰め、死んだと確実に分かるまで刃を振り下ろし続ける。

 

 返り血に染まり、臓物や肉片が散乱し、執拗に魔族に迫る姿はもう勇者とは呼べない別の何かになっている。


「ドロシー!もう止めないか!もう死んでいる!」


「五月蝿い!生きていたらどうするの!」


 もう原型のない魔族に刃を振り下ろす姿をエリザは見ていられなくて、腕に掴みかかった。

取り憑かれたようなドロシーは魔族を絶対的な悪だと妄信し、完全に眼が曇っている。


「魔族は悪だ!悪を生かしておくわけにはいかない!」


 肉片に向かって剣を突き立てた。

 こいつはもう勇者ではない。

勇者という名を振りかざした、別のものに成り下がってしまっている。

パーティを組んだ以上は行動を共にしているが、日に日に異常さを増す姿に、エリザはこれは勇者の戦いではないと戦意を失いかけた。


 同じ勇者の末裔なのだから分かりあえると思った。

しかし、エリザとドロシーの勇者像は違っていた。

自分勝手な理想像ばかりを追い求めるドロシーの姿は、エリザの思い描く勇者ではない。


「ドロシー様、も、もう十分です···私これ以上こんな姿見たくありません!」


 震え上がったマリアはドロシーに恐る恐る声をかけたが、口答えするなと睨みつけられると言葉を無くした。

 刃についた肉片と血を振り払うと、次の獲物を求めてドラゴンの背に乗った。

 

 ドラゴンの素材を作り出した後、勇者の一行は更に数匹の空を飛べる種のドラゴンを捕まえると足代わりにした。

 おかげで移動は随分とスムーズになったが、反面それはドロシーの虐殺行為を拡げる事になってしまった。

何匹も殺めた。何匹も斬った。いくら斬ってもドロシーは満足することがない。

きっとそれは魔王を倒すまで続く。いや、魔王を倒しても、魔族を根絶やしにするまで続くのだろうとすらエリザは思えた。


 さらにいつでも魔族を殺せるようにと、パーティは野営を行うことが多くなった。

塒も探さず、野原などに焚き火をあげて一晩を明かす。魔族が明かりに寄ってこようものならば、ドロシーはいつ何時だろうと刃を振った。


 夜も更ける頃、やっとドロシーの虐殺は終わり、野原に焚き火を点てて、その日は終わろうとしていた。


「私はパーティを解散しようと想う」


「ドロシーさんが原因ですね」


 エリザの申し出の原因は一目瞭然だった。

心のどこかでそうなるだろうと思っていたマリアは、驚きもせずにただ焚き火を見つめていた。

マリアの眼には光がない。

魔王討伐と掲げた大義は歪になってしまった。マリアの心には勇者と共に冒険出来る嬉しさよりも、身勝手な理由で歪んだ理想を追い求める勇者の姿に嫌気が指していた。


「明日の朝、私からドロシーに話す。ここまで魔族を傷つけた以上は魔王との戦いは避けられない。だが、私は私の思い描く道を進むつもりだ、お前はどうする?」


「私は···そうですね、乗りかかった船ですから、エリザ様に付いていきたいです」


「そうか。なら支度をしておけ。このパーティはもう終わりだ」

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