ウェディングラッシュ
花束を見たらメルルはどんな反応をしてくれるだろうか?そう考えると胸のドキドキが止まらなかった。
花言葉に思いを込めた。
メルルが果たして花言葉を知っているかどうかは分からない。
でも分からなくてもいい。自分が思えていれば、それはそれでいい。
メルルのことを考えると自然と笑顔になってしまっていることに、ルシールは気づいていなかった。
想像が膨らむところに鐘の音が響いた。
気づけば教会の前を通り過ぎており、振り返るとウェディング姿の花嫁がタキシード姿の新郎にお姫様抱っこされて幸せそうに笑っている。
周囲に出来た人の輪に向かって花束を投げると、一人の少女がジャンプして花束をつかみ取った。
「結婚かぁ…いいなぁ」
ウェディング姿に自分たちならどうなるだろうと姿を重ねてみた。
女同士なのだから、花嫁が二人だろうか。二人のウェディング姿を想像してルシールは涎を垂らした。
ウェディングドレスを着たメルルはきっと至上最高に可愛くて愛おしいに違いないだろう。
--いつかはそんな風になれるだろうか。
メルルが魔王として世界を征服した暁には、そんな未来もあるのだろうか。
沸き上がる希望は溢れて止まらない。
***
城に戻るとファージとラミエルの姿があった。
玉座の前に胡坐をかくファージ。隣にいるラミエルは背筋を伸ばして正座している。正反対な気質の二人は同郷の好だと言っていた。
「よぉサキュバス!久しぶりだな!」
「この度はお世話になりました」
豪快に手をあげて挨拶するファージと頭を下げるラミエル。
咄嗟に花束を後ろに隠すと、ルシールも軽く頭を下げて玉座に座るメルルの隣に姿勢を正して立った。
「おっさんたちの町もだいぶ回復したみたいでね、わざわざ礼を言いにきたそうだよ」
「そうだったんですね。それは何よりです」
早くメルル様に花束を渡していちゃこらしたかったのにッッ。
邪魔者が入ったことにルシールは怒りながらも、無理やりにその感情を抑え込んだ。
「魔王が医師と物資を送ってくれたおかげで町は元の状態に戻りそうだ。医者もそろそろ外に出てもいいだろうと言ってくれたからよ。せっかくだから魔王に礼くらい言わなきゃ筋じゃねぇと思ってよ」
「それは良かったですね!」
何故かドスの聞いた声をあげるルシールにファージはおどけて見せた。
「…俺なんかおかしなこと言ったか?」
「いえ!本当に!町が復活してよかったです!」
こちとらさっさとメルル様に花束渡して反応みてイチャイチャタイムに入りてぇんだよ!
心の中で叫んだ。
「まぁいいや…そんでよ、これからは自分たちの町に戻ろうと思うんだ。二人で新しい家建てて、そこからまた出発しようと思うんだ」
「ん、それはどゆこと?」
メルルの問いかけにファージは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「実はよ…こいつと結婚することにしたんだ」
隣に座るラミエルも表情こそ変えないが、頬を赤らめて頷いている。
「え!嘘!まじか!最初からいい感じなんだろうなとは思ったけど!いつ!いつプロポーズしたの!?」
急な結婚報告にメルルはテンションが上がり、思わず声を大にして前のめりになっていた。
隣にいるルシールも急な報告に驚き、そして羨ましいと思えた。
「先週のことだ。こいつには世話になったし、これからも一緒に居たいなんて思っちまってよ。一緒に居たいってんなら結婚するしかねぇだろ?」
「ふぁー!おっさんまじか!」
「あぁ、結婚して二人で町をまた一から作っていければと思っている。もう出稼ぎ業もやめることにしたんだ。戻ってから住民たちが町長になれって煩くてよ」
「結婚して、しかも無職から町長とかおっさんすげぇな」
「みんなの期待を裏切るのもなんだし、俺も町を発展させていきたいと思っている。だから、決めたんだ」
「へぇー、おっさんやるなぁ。羨ましい限りだよ。でも、おめでとう」
「へへ、ありがとよ。魔王はどうなんだ、そうゆう相手はいないのか?」
「いるよ」
「本当かよ!そっちのほうが驚きだ!どこのどいつだ!?」
「隣のルシール」




