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誰が求める

 ゴブリンとゴーレムたち、大工が協力する姿を城壁から見ていた。メルルは変わりゆく人々の気持ちを瞑想した。


 必ずしも魔族と人間は争うものではない。

キッカケさえあれば両者は手を取り合うことが出来るのではないか。

今、目の前に広がる町には人間も魔族もモンスターも関係ない。

協力出来るもの同士が手を取り合い、一つの目標に向かって共に歩いている。


 そこまで考えて、メルルは目を開いた。

魔剣を抜いたあの日、頭の中に声が響いた。力を求め、血を求め、混沌を求めた。

魔王と名乗りをあげてから、瞬く間に日々が過ぎた。


 名乗りをあげたことで、それに呼応するように勇者と名乗るものたちが現れた。

そりゃ当然だな、と思いながらも、今はその考えに疑問が残る。

御伽噺や伝説ならば、それは当たり前の出来事だろう。

だが、それを現実として考えたとき、必ずしも対極する存在は必要だろうか?

必ずしも名乗りをあげたらどちらかを倒さなければならないのだろうか?


――答えは見えない。


しかし、答えが出ないとも思わない。

魔王として君臨するメルル、勇者として名乗り出たエリザとドロシー。

刃を交え、どちらかを倒したらはい終わりというは、今のメルルには納得出来ない。


「メルル様、どうしたのですか?」


 一人考えるメルルの背中にルシールが顔を寄せた。


「ちょっと考え事」


 一人で動かずにいるメルルのことを、ルシールは何分も前から見つめていた。

すぐに声をかけようとしたが、ルシールは一瞬メルルが薄まって風に流れて消えるように見えた。

消えてしまいそうなメルルに、ルシールは怖くて動けなかった。


 胸を刺す。

それが何かはわからなかったが、メルルがどこか遠いところに行ってしまうように思えた。


――そんなことにはなりたくない。


 メルルの存在を確かめるように寄せた背中は柔肌で、風に煽られて少し冷たくて。

でも、ルシールは安心感のあるメルルの匂いを感じ取ることが出来た。


 無言でいる二人を風が撫でた。

メルルの黒く長い髪が揺れてルシールを包むようだった。

顔にかかる髪は最初に比べて随分と痛んだ。

戦いの中で、旅の中で。

本来ならばオシャレにでも気を使いたい年頃であろうメルルの髪はキシんで痛々しかった。


「メルル様、髪が随分痛んでますよ」


「随分外に出るようになったからね。そりゃ痛むよ」


「最初に会った時のことを覚えていますか?」


「魔剣抜いたときだよね。覚えてるよ」


「あの頃のメルル様は、どこにでもいる町娘でした。正直、魔剣を抜いたのが若い少女なんて信じられず、とても驚いたんですよ」


「私も驚いたよ。いきなり家来が出来たんだから。…今は家来じゃなくなったけど」


 後ろからメルルを抱きしめた。

ルシールの身体を背に感じる。あの時出会った魔族はメルルにとってかけがいの無いものとなった。


「メルル様、こんな時になんですが、良ければ髪を梳かしませんか?」


「――そうだね。たまには女らしいことでもしようかな」


「メルル様の長い黒髪、わたくしが綺麗にして差し上げます」


 笑って髪を梳かすというルシール。

どうしてこの子はこんなに優しく笑うんだろう。

人間とサキュバス、さらには女同士なのに。どうしてこう心がときめくんだろう。

メルルは口に出さずに思いを胸に秘めた。

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