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ゴブリン大工のたんじょう

 一匹のゴブリンがメルルのいる玉座を訪ねた。

このゴブリンも押し寄せた中の一匹なのだろう、足には包帯が巻かれ、脇には松葉杖を抱えている。


「魔王様にご報告がございます」


「あなたも押し寄せたモンスターの一人だね。丁度私も聞きたいことがあったの。一体何があったのか」


「丁度そのことを報告しようと参りました」


「あ、ちょっと待って、ルシール、このゴブリンちゃんに椅子もってきてあげて。その状態で立ちっぱなしは辛いでしょ」


「ありがとうございます」


 用意された椅子に腰を降ろすと、ゴブリンは事の経緯を話し始めた。

何故これほどまでにモンスターたちが傷ついて現れたのかを。


「我々は勇者の一行にやられました」


「勇者に?」


「はい。私が見たのは金髪の鋸のような刃をもった勇者でした」


「私も何人か会ったけど、そいつらの一人かな?」


「かもしれません。勇者は他にも仲間を引き連れておりました。乳の大きな勇者がもう一人、魔法使いが一人、ドワーフが一人」


「あらま、立派なパーティが出来上がってるね」


「特に鋸をもった勇者はまるで鬼のようでした。目にはいった魔族は問答無用に斬りつけ、息の根が止まるまで鋸を振り下ろし続けていました。あまりの非情さに仲間の勇者が止めに入るほど」


「完全やべぇやつじゃん」


「私はこれに対抗するには魔王様しかいないと、都を目指しました。そこに同じ思いを持ったモンスターが合流していき、結果群れとなってこちらに押し寄せることになったのです」


「メルル様、今まで出会った勇者たちはそれほどの力はありませんでしたが、もしかしたら何かしらの力を得ているかもしれません」


 ルシールの耳打ちにメルルは顎をしゃくる。

弱すぎた勇者たちは一度負けたことでまた挑みに来るだろうとは予想していた。

そこまでは想像の範囲内だが、ゴブリンの言う姿は常軌を逸している。


「サキュバスのいう通り。勇者といえども、末裔の彼女たちは血が薄まるにつれ力を弱めていたはず。それがあれほどの凶悪さを身に着けているということは、何かしらの力を得たのだと思われます」


「私とどっちが強いかな?」


「――分かりません。ですが、彼女たちはパーティを組んでおります。魔王様一人で戦うには危険な域に達しているのは間違いありません」


「そっか……わかった。ありがとうね、ゴブリン」


「お役に立てれば本望です。魔王様は我らの希望です」


「私こそ役に立てれば本望だよ。でも、君たち治療はしたけど、戻る場所あるの?」


「それが…どのモンスターたちも勇者を恐れ、外に出たがるものはおりません」


「だよね。よし、みんなをしばらく都に匿うことにしよ」


「よろしいのですかメルル様?」


「いいよいいよ。じゃ、悪いんだけど、住民たちを城の前に集めてくれる」


「わかりました」


 魔王から重大な知らせがあるとルシールは触れて回り、それを聞いた住民たちは城の元へと足を伸ばしていた。

城の前には魔王がまた何か人助けをするのだろうと察した住民たちと、これから何がはじまるのかと興味を持ったモンスターたちも集まり、魔王が現れるのを待っている。


 人間もモンスターも、魔族も多種多様な者どもが一体になって集まる様は異様なはずなのに、ここにいる誰もそれを不思議だとは思わなかった。


 下々を見下ろせるように城壁の上にメルルは現れた。

メルルのことを初めて見る者たちもおり、メルルに振り向いてもらおうと声をかけるものすらいた。


「みんなー!今日からモンスターちゃんたちを匿うから!みんな協力してねー!」


「はーい!」

「わかりましたー!」

 

 魔王の言うことならばと、拒否する声はあがらなかった。


「以上!お知らせ終わり!」


 用件だけいうとメルルは踵を返して、さっさと城へと戻ってしまった。

しかし、それだけで事は動き出した。


 住民たちはそれぞれの職種ごとに集まると、モンスターを匿うために何が必要だ、どうゆうものを立てる必要があるなと、その場で会議を行いだした。

 こうゆうとき、メルルは城のものや使えるものは勝手に使えと常々言っており、すでにそれは住民たちに浸透していた。

故に指令さえ出せば、あとは住民が勝手にやってのけるのだ。


 先ず動き出したのは大工衆だった。輪になって集まった腕っぷしのいい男たちは、あれが必要だ、これも必要だ、と言葉が飛び交っている。


「デケェモンスターもいたからよ、ありゃ3階建て相当の高さの家が必要になるぜ」


「先ず木材集めねぇとな。俺んとこの組で資材を切り出してくっからよ。お前んとこで加工してくれ」


「おうよ。居住区の東にまだスペースがあったはずだからそこに建てよう」


「運ばれ次第組み立てっからよ。どんどん運んでくんな。資材が運ばれるまで城から道具もってきとくからよ」


 流れるように誰が何をするかの担当が決まり、大工衆は動きだした。

木材を切り出しに行こうとした大工が若い大工を連れ出そうとすると、目の前にゴブリンやゴーレムなどのモンスターが現れた。


「おう、おめぇら。今からおめぇらの家建てっからよ。ちぃとばかし待ってな」


「あぁ、話は聞いたよ。だが、世話になりっぱなしになるはごめんだ。俺たちにも手伝わせてくれ。俺もゴーレムたちも腕っぷしには自信がある。木を切るくらいなら朝飯前だ」


「そいつぁいい!おめぇらが手伝ってくれるなら予定よりも早く終わるぜ。付いてきな!」


「ありがとう!」


「感謝は家が出来てからにしな!」

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