どったんばったん大騒ぎ
傷ついたモンスターの群れは後を絶たなかった。
城中の兵士やギルドの職員が手当てに翻弄したが、それでも足りないほどの数が都へと押し寄せている。
「キリがないな」
口元に手をあてて思案を巡らすメルルの元に数人の住民たちが駆け寄ってきた。
「魔王様!お願いがございます」
「何?今忙しいんだけど」
こんな状況なのに悩み相談?後にしてくれ。ていうか空気読め。
言おうと思ったが、言ってもイライラが増すだけだとメルルは黙った。
「我ら住民にも治療を手伝わせてください。家庭医療くらいの知識しかありませんが、軽い傷の手当ぐらいなら私たちにも出来ると思います」
思わぬ住民の持ち掛けにメルルは驚いて表情をつくれなかった。
モンスターといえば人を襲う存在であると認識されていると思っていたが、住人たちはモンスターを助けたいと申し出ている。
「あなたたち、モンスターが怖くないの?」
メルルの問いかけに住民たちは顔を見合わせて笑う。
「何を言ってるんですか魔王様、私たちは毎日のように魔王様やサキュバス様、スライム様をみています。今更モンスターが怖いなんて思いはありませんよ」
「むしろ魔族に対する抵抗がなくなりました。魔王様たちを見て思ったんです、魔族も俺ら人間も代わりはないんだって」
そうか。もう彼らは新たな一歩を踏み出しているんだなと、メルルは口元を緩ませた。
「いいこと言うじゃん。よし、動ける住民はモンスターたちを治療してあげて」
「イエス魔王様!」
都に住むほとんどのものが町を駆け巡っていた。
押し寄せるモンスターは落ち着いたが、それでも大型のモンスターなども多くいるため、一人では対処しきれない治療もある。
さらには治療に使う道具も人間用のサイズである。人間よりも大きさのあるものには適しておらず、住民たちは包帯代わりにカーペットや布団などを引きずりだして治療に当たっていた。
モンスターの中には人の言葉を話せる種族もいた。ゴブリンやハーピーなどの人型のモンスターだ。
魔族でもある彼らは治療に当たってくれる人間たちを驚きながらも、その身を任せていた。
「アンタら、俺たちが怖くないのかい?」
ゴブリンの一人が斬られた足に包帯を巻いてくれている人間に話しかけた。
話しかけられた男はヘッと笑うと今更何をいっているんだと笑う。
「ゴブリンなんざ怖くもなんともないね!こちとら毎日のように魔王様たちを見てるんだぜ?」
「それだけの理由か?」
「理由が欲しいってんなら幾らでもつけられるが、今はあんまりお喋りしてる暇は無い。まだまだ治療が必要な奴らがわんさかいるからな。じゃぁな、もうヘマすんなよ!」
包帯を巻き終わって男は籠に治療道具をしまうとさっさと次の傷ついたモンスターの元へと走った。
ゴブリンを初め、ここに来たモンスターは魔王を頼って都へと来ていた。
魔王が支配したというのだからてっきり魔族だらけかと思えば、人間で溢れていた。
人間がいることに戸惑いはしたものの、群れは町に入って後戻りすることは出来ない。
そこへ治療道具をもった兵たちが現れ、住民が現れ、モンスターたちを手当し始めた。
敵対していた。お互いに邪魔な存在くらいに思っていたはずの相手が手を差し伸べてくれている。
その事実がゴブリンの心を揺らした。




