何が悪で何が正義か。でも可愛いは正義
「私は今まで勇者が正義であり、魔族や魔王といったものは悪だと思っていた」
「私もです」
「だが、もうそういった概念は古いのかもしれないな」
「そんな、ここまで来たのに、エリザ様はどうするおつもりなんですか?」
「どうしたいんだろうな。自分でも分からん」
空を見上げた。闇に輝く無数の星が輝いて、一筋の流れ星が横切っていく。
「エリザ様がどのような決断をしたとしても、私はついていきますよ」
「どうゆう意味だ?」
クスリと笑うも、マリアの表情は真剣そのものだ。
「何が正義で、何が悪なのか――正直に言ってくれマリア、お前は魔王を倒すべきだと思うか?」
「――私は、倒さなくてもいいと……思ってしまっています。確かに魔族や魔王は畏怖の象徴であり、時に危害があるとも聞きました。ですが、それはあくまで聞いたもの。体験したものではありません、今の私が体験したのは民の思い、民の表情です。民が幸せになっている現状を考えれば――魔王は退治しなくてもいいのではと思っています」
「ありがとう。素直な言葉を言ってくれて。正直倒すべきだと言われたらどうしようと思ったよ」
「あちらのお二人は倒すべきだと考えているみたいですが」
「そうだな。勇者という幻想に惑わされすぎている」
闇夜にトンカチの叩きつける音が響いた。
***
都に大量のモンスターが詰めかけていた。
急なモンスターの群れが町になだれ込むのに町からは悲鳴があがった。
「魔王様ー!大変です!」
玉座に結構を変えたスライムが駆け込んできた。
途中障害もないのに転ぶと、ゴロゴロと転がって玉座の前に倒れた。
「どったのスラちゃん」
「モンスターが!モンスターの群れが!」
玉座から飛び出して町の様子を見れば、町には大量のモンスターが詰めかけている。
モンスターの襲来かとも思えたが、詰めかけてきたモンスターたちは人間を襲う様子はない。
何か様子がおかしい。
メルルは城から飛び出すと町へと走った。
町を埋め尽くすほどのモンスターたちは身体に生々しい切り傷を負っていた。
鋸ようのな刃物で切られたのか、傷跡は斬るというよりは削られたような状態になっている。
「魔王様!なんですか、このモンスターの群れは!?」
城からメルルの後を追った兵士は傷ついたモンスターたちに眉を潜めた。
「わからない。でも、彼らに敵意はないみたい」
メルルの前に倒れた大型の犬のようなモンスターはメルルを見るとキュゥンと弱弱しく鳴いた。
「むしろ助けを求めているように感じます」
「よし、兵を集めろ!ギルドの職員も集めて彼らの治療に当たらせろ!」
「イエス魔王様!城のものも勝手に使っちゃいますね!」
「言いたいことわかってきたじゃん!傷ついたものは受け入れる!さぁ行け!」
「イエス魔王様!」




