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魔王になったら乳のデカいサキュバスが家来になったんだけど

「魔王なんて、そんな、そんなバカな」


 残った一人の兵士は剣を握る手を震えさせた。

すでに戦意がない。築き上げられた死体の山、それに玉座のように腰掛けて魔王と名乗りをあげたメルルに畏怖して、どうすることも出来ずにいる。


 そこに一人の悪魔が空を飛んでどこからともなく現れた。

ビキニのような黒い服からは零れそうな大きな乳房がキツそうにしている。背からは蝙蝠のような翼が生え、腰の下からは先端がハート型になった細い尾が機嫌良さそうに振られている。ショートカットの髪の中に見える顔は童顔で年齢を感じさせない。

現れたのは下級悪魔サキュバスであった。


「強大な魔力を感じて見に来てみれば、魔剣がヌかれちゃったのね」


 急に現れたサキュバスはメルルの前に着地すると、まるで主が現れるのを待っていたかのように、膝をついて頭を垂れた。

興奮冷めやらぬメルルは目の前に現れた悪魔にも微動だにしなかった。

緊張からではない。今のメルルになら何でも出来るような根拠のない自信が溢れていた。


「その剣が抜かれたとき、次期魔王が現れると先代の魔王はおっしゃられていました。貴女様が次期魔王。さぁ、その魔力を持って我々をお導きください」


「サキュバスヨ、此ノ者ヲ連レテユケ。今コソ悪魔ノ旗ヲ上ゲル時」


 メルルではなく、持っていた剣から声が聞こえた。

直接脳内に響く声ではなく、サキュバスや兵にもそれは聞こえている。


「かしこまりました。さぁ、行きましょう。人間に虐げられた恨みを今こそ晴らすのです」


「え、え、どこ行くの?」


「勿論、魔王様の城です。さぁ、私にお捕まりください」


 捕まるというよりはサキュバスに抱きかかえられる形でメルルはその場から飛び去った。

大きすぎる乳房が顔面に押し付けられ、メルルは呼吸がしづらいがサキュバスは振り落とさないように嫌でも強く乳房を押し付けた。


「サキュバスさん、苦しい」


「まぁいけません!魔王様が私ごときに“さん”付けなど!呼び捨てにしてくださいませ」


「サキュバス、おっぱいで息が出来ない」


「申し訳ございません!ですが、あまり力を弱めると落としてしまいそうで。魔王様はこれから悪魔たちを率いて勇者たちと戦う御方。わずかな傷や事故も避けなければなりませんわ」


そう言ってサキュバスはさらに乳房を押し付けた。


 ともかく、魔王と名乗りをあげ、さらには魔剣もサキュバスもメルルは次期魔王であると認めている。

しかも、サキュバスはこれから勇者なるものと戦わねばならないという。

確かにメルルも昔、勇者と悪魔の戦いがあったことは聞いたことがあるが、それは御伽噺や神話の類だと思い信じてはいなかった。

それほどには過去の話であったのだ。

だが、今、目の前には巨乳の悪魔が現れ、その言葉は嘘をいっているとはメルルには思えなかった。


 しばらくの飛行の末、サキュバスがメルルを運びこんだのは火山の火口の中に(そび)える古ぼけた城である。

未だに火山活動をしている火口からは煙があがり、山の頂上全体を暗く包んでいる。

その暗闇の中に佇む城も所々が欠けていたり、ヒビが入り、いかにも魔族の城であるように思えた。

 火口の中に佇む城には橋がかかっており、それが唯一の城への連絡通路だが、下にあるマグマによってオレンジ色に照らされた姿は、たまに舞う火の粉のせいで焦げ付いていたり朽ちかけていたりと、今にも壊れそうだ。

サキュバスなどの飛行が出来るもの以外は早々に訪れることがない場所である。


「さぁ、魔王様、到着しました!」


「随分古いお城だね」


 城門前には朽ちた兵士の亡骸や折れた剣などが散らばっている。

何年も前からそこにあるのか、カラカラに乾いた骨を一つ手に取ると、手の中ですぐに粉々になって火の粉と共に舞い上がった。


「先代魔王様の残した城です。今は私しかおりませぬが、魔王様の再来を耳にすれば多くの悪魔が集まるはずです!」


「へぇ、そんなに悪魔って沢山いたんだ。妖精とかなら見たことあるけど、悪魔らしい悪魔って見たことなかったよ」


「カツテ勇者率イル人間ドモニ敗北シテ以来、我ラハ身ヲ隠シタ」


「そうなんだ。っていうか魔剣話せるんだね」


「如何ニモ。言葉ヲ操ルクライ容易イ」


 魔剣が話せることに驚きながら、引き抜いたばかりの剣を切っ先から柄まで見てみたが口らしきところはない。

 どこから声が出ているんだろうと剣をあちこち確認していると、サキュバスがメルルの手をとって城内へと案内した。


 広間を抜けて階段をかけあがり、最上階への玉座へとメルルを連れていく。

赤いカーペットの敷かれた玉座は手入れがされているようで、先ほどの古ぼけた外見とはまるで正反対の空間が広がっていた。

ただ、そこは悪魔の城らしくあるように髑髏が壁に張り付き、そこから炎があがって空間を照らしている。

その他にもよく見れば玉座は骨で作られているし、天井には無数の悪魔の絵が描かれている。


「メルル、玉座ヘ」


「うん」


 玉座に深く腰かける。目の前にはサキュバスが出会った時と同じように膝をついてひれ伏している。

今迄味わったことのない満足感にメルルはまんざらでもなく笑った。

その笑みにつられたようにサキュバスも口元を緩ませた。


「さて、魔王って名乗っちゃったし、これからどうしようか?」


「それは勿論」


 サキュバスは立ち上がると手にオーラを宿して巨大な旗を手にした。

黒い布地の中心には角の生えた髑髏マークが描かれ、髑髏の背後には二本の鎌が交差している。


「勇者を倒し、人間どもを皆殺しにしましょう!」

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