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王と魔王

 新たにドワーフのホーキンスを仲間に加えた勇者たちは酒場を出ると、外では大声で荒ぶる身なりの良さそうな男が暴れていた。

男は酔っているのか、自分の連れている3人の男たちを蹴飛ばしながら罵声を浴びせている。


「この役立たずどもが!お前たちがいながら何で私がこんな目に合わなければならないのだ!」


 荒れる男に連れ合いはおろおろするばかりだ。

一人を蹴り倒すと、腹部を何度も踏みつけた。


「やめないか。いい年をした男がみっともないぞ」


 見ていられなくなったエリザは酔った男を引きはがすと、倒れた男の前に出て立ちふさがった。


「あぁん!?お前は…お前はエリザではないか!こんな所で何をしている!」


「私を知っているのか?」


「当然だ。私は王であるぞ!勇者の末裔どもくらい知っている!」


 暗くてよく分からなかったが、エリザも男の顔をよく見れば知った顔であった。

酔っぱらっているのは紛れもなく、都にいた王そのもの。

一度エリザも謁見したことがあったが、その頃の姿とはかけ離れた姿にエリザは眉をひそめた。


「王?王が何故、このような所で」


「私にそれを言わせるつもりか!お前らも知っているだろう。私の都は魔王に制圧されたのだ!おかげで私はこのありさまだ…!どいつもこいつも役立たずめ」


「てっきり殺されたと思っていた。生きていたのだな」


「生きておるわ!フン!どいつもこいつも役に立たず、私は仕方なく城を捨てざるを得なかった!小娘に戦士を倒され、急いで城を抜けたせいで何も持ってこれなかったわ!あぁ、私のコレクションたちよ…クソ!」


「待て、お前は城を捨てたと言ったな?王であるにも関わらず、城を捨て…民を、国を捨てたのか?」


「生きるには他に選択肢があったか!?」


 エリザは絶句した。

王というこの男は負けを認めるとあっさりと民を、国を捨てたのだ。

全てを投げ捨てて自分は生き延びようとする姿に、エリザは王を王として見れなかった。


「お前も勇者の末裔というならば、さっさと魔王を倒せ!私の都を取り戻せ!」


「……お前は王ではない。何も考えず、自分のことだけを考えるお前はただのクズだ」


「王に向かってなんたるブジョ…」


 頬に拳がめり込んだ。

話を聞いてられなくなったのはエリザだけではない。沸点に達したドロシーは拳を作ると、思い切り王の顔をブン殴った。


「お前のようなものが王になるから――お前みたいなものがいるから、魔王がいいなどと民は惑わされるんだ!」


 殴った後もドロシーは拳を解けずにいた。

もうコイツらと話すことはない。ドロシーは踵を返すと夜の街へと歩き出した。

マリアとホーキンスもそれに続く。一度倒れて気を失った王を見ると憐れむような視線を送り、二度と見ようとはしない。


 ドロシーは泣いていた。

自分が勇者の末裔であると昔から聞き育ち、いつかは自分もかつての勇者のように活躍すると思っていた。民を先導すると思っていた。

だがしかし、現実はどうだ。

鍛錬をつんできたのに、魔王にはあっさりと敗北した。

民を先導しようといくつもの本を読み漁り、政治を学んだが、今の世を導いているのは魔王だ。

人々は魔王討伐を目指す勇者たちを罵り、今目にした王は自分勝手に民を捨て、勇者たちに自分のために魔王を倒せという。


 大儀を失いそうだった。

人々を救うと心に掲げた旗は今にも折れそうだ。

絵描き魔法使いの言葉が心に釣り針のように刺さって抜けなかった。


『今の魔王様のほうがよっぽどマシ』


 だとしたら、これから自分はどうしたらいいのだろう。

涙に濡れた顔をあげて、夜空の月を見上げた。

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