パーティに人が加入しないのですが。。。
賢者と会いスティグマを手に入れたエリザは仲間を集めようと町を転々としていた。
途中偶然出会った同じ勇者の末裔のドロシーと、旅の魔法使いマリアを仲間に加えると、さらなる戦力強化を狙って旅人の酒場へと赴いた。
「ギルドにクエスト発注しましたけど、来ますかね?」
酒樽いっぱいに入ったビールを口にしながらマリアが問いかけた。
「どうだろうな。いないならば、また他を当たるさ」
「でもエリザ、最近魔王は支配下を大幅に拡大したと聞きます。このままでは世界が魔王の手に落ちるのは時間の問題」
「慌てても仕方がないだろドロシー。それに焦って戦いを挑んでも負けは見えている。私もお前も一度は敗れているのを忘れるな」
「クッ…魔王め。私にあんな辱めを受けさせたこと後悔させてやる」
ドロシーはメルルに敗れたことを思い出した。
戦いに敗れたドロシーは身ぐるみを剥がされると下着姿で吊るされていた。
勇者であるプライドが傷つき、女として精神的に苦しめられた記憶がいつまでも残っている。
「ギルドのクエストを見てきたんだが、あんたらが依頼主かい?」
三人の前に一人の男が顔を出した。筋肉質な旅人風の男は三人のいるテーブル席に腰を降ろすと、ギルドで発行されているクエスト用紙をテーブルに置いた。
「魔族討伐ってあったが、どんな内容なんだ?」
「私たちは魔王を倒そうと思っている」
「魔王を倒すだと?」
「そうだ。魔王を打ち滅ぼし、この世界を救うための人員を集めているというわけさ」
「残念な話だが、このクエストは俺には合わねぇ。悪いな」
男はテーブルのクエスト用紙をくしゃくしゃに握り潰すと、さっさと店を出て行ってしまった。
「魔王と聞いて怖気づいたか」
「やはり魔族討伐という名目で依頼をかけたのがまずかったのでしょうか?」
魔王という名を出せば怖気づくの気持ちも分かる。
勇者たち一行は出鼻をくじかれたが、それでもまだ志願者がいるかもしれないと酒場で待った。
「邪魔するよ。アンタらが依頼主かい?」
次に現れたのは杖と筆を持った画家風の女だ。
絵画をしているのが分かるように、服には多種の絵の具が飛び散った跡がついている。
「そうだ。志願者か?」
「あぁ、アタイは旅する絵描き魔法使いさ。魔族を討伐するんだってね。あたいの芸術魔法がどこまで通じるか試してみたくてさ。で、内容を教えてもらえるかい?」
「私たちは魔王を討伐しようと考えている」
「魔王を!?なんで!?」
いや、むしろ何で倒さないの?と勇者たちは疑問に思った。
魔王なのだから当然だろう。世界を支配しようとする魔の手を退けようとするのは当然のことである。
なのに、この女は魔王討伐という言葉を聞いて目を丸くしている。
「魔王は我々を支配しようとしているのだぞ?それを止めることの何がおかしい?」
「はぁー!確かにそうかもしれないけどね。私はこのクエストは受けられないな」
「ちょっと待て。何故だ」
「何故か?アンタら知らないのかい?魔王様の支配というものを」
「そりゃぁ分かっているさ。魔族がこの世界に蔓延り、人々が苦しむ姿。それは避けなければ…」
女はマリアの酒を勝手に飲みだすと、酒樽をテーブルに打ち付けた。
勝手に飲まれた酒樽をマリアはアワアワとして覗くと、中には一滴すら残っておらずに涙目になった。
「それは今までの話さ!だが、今の魔王様は違う。魔王様は支配という名目で領土を拡大させてはいるけど、やっていることは支配なんてもんじゃない。むしろ人助けさ」
「どうゆうことだ?」
「魔王様が王の都を制圧したのは知っているだろう?それから周囲の町は魔族に支配されるどころか潤っている。重かった税がほとんどなくなり、飢餓に苦しんでいると知れば物資が届けられ、進まない復興に苦しんでいると聞けば兵を派遣している。今までの王よりよっぽどマシな暮らしになったんだぜ?」
「そんなバカな…」
「アタイも救われた一人さ。私はフォートコーストの出だ。名前くらい聞いたことはあるだろう?」
「あの見捨てられた町の出か。あの町はもう崩壊すると聞いていたが」
「あぁ、あのままだったらね。所がどっこい、フォートコーストの話を聞いた魔王様は何をしてくれたと思う?魔王様は都の医師を3人も派遣してくれたんだ。それだけじゃない、町には馬車が何台も入ってきた。私はその時、病に侵されていて、朦朧としながらそれを見ていたよ。あぁ、お迎えがきちまったんだと思ったさ」
「医師を派遣?そんな、医師を雇うにはそれなりに金銭がかかるはずだろう」
「魔王様は無償で医師を派遣してくれたんだ。馬車にはそりゃもう目一杯の薬やら物資やらが積み込まれていた。そしてアタイは医師たちのおかげで回復した。アタイだけじゃない町の皆も今ではだいぶ回復して、元の明るい町に戻ろうとしている」
「そんな話、信じられるか!」
叫び声をあげながらドロシーが立ち上がった。
立ち上がるドロシーに周りの客の目が集まると、ドロシーは拳を握って席に腰を降ろした。
「信じられないってんなら自分の目で見てくればいいさ。とにかく、アタイは魔王様には恩を感じている。その魔王様を討伐なんて、とてもじゃないが出来ることじゃない。悪いが他を当たらせてもらうよ」
「そんな、そんな話を信じろとでもいうのか」
出ていく女に視線もくれず、ドロシーはただ拳を握っていた。




