医師として。
ルシールの声掛けにより、都に点在していた医師たちが城の応接間へと集まった。
何人もの医師がこれから何をされるのだろうと、不安げだったが、メルルは機嫌良さそうに医師たちをもてなした。
「さてさて、お医者様の皆さん。あなたたちの中からこのおっさんの町へと出向いてくれる有志を募りたいと思う」
「魔王様、それはどうゆう意図で?」
「このおっさんの町は病に侵されていてね。今にも崩壊しちゃいそうなんだって。感染力の強い病のせいで他の町とは流通が遮断されて医師も薬もない状況だそうなの」
「それはもしやフォートコーストのことでしょうか?」
「そうだ」
医師の問いかけにファージが答えた。
フォートコーストという名を聞いて医師たちにはどよめきが立つ。
「魔王様、その町の名は聞いたことがあります。何人もの死者を出す病が蔓延り、もう手遅れだとも言われる町です。そんな町に行こうとする医師はここにはいないと思います」
医師の言葉にファージは歯を食いしばって拳を作った。隣にたつラミエルも拳に手を重ねると哀しそうに視線をさげた。
「そうとも限らんよ。どれそこの若いの。町は今どんな状態じゃ?」
医師の中で一番年のいった老人がファージに声をかけた。
「今俺の町に医師はいない。俺たちの稼ぎが出来次第、薬を届けて命を繋いでいるのが現状だ」
「ふむ。医師もおらず薬もないか。魔王様、私がこの者の町へ出向きましょう」
「ありがとう、おじーちゃん先生」
「ほっほっほ。どうせ先の短い人生ですじゃ。どうせなら人の役にたって死ねれば医師の本望でございますじゃ」
「何か必要なものがあれば持って行っていいからね」
「お言葉に甘えさせていただきましょうかの。この若者たちを預かってもいいですかな?うちの病院で詳しい状態を聞かせてもらいたい」
「いいよね?二人とも」
「勿論だ!じいさん!魔王!ありがとう!言葉がでないぜ!」
「めっちゃでかい声出てるよ」
老人は二人を連れて応接間から出ようと歩き出すと、残った医師の一人が手をあげた。
まだ若い医師だ。しかし、その目には何かを為し得ようとする意気込みが感じられる。
「魔王様!わたくしも同行の許可を頂きたいです!まだ医師になって日は浅いですが、人を助けようという思いは他に負けるつもりはありません!」
「よし、行っといで。他にはいないかな?」
「ならば私も行こう」
さらにもう一人の医師が挙手した。
「待て!お前、自分の病院はどうするつもりだ?入院しているものだっているだろう?」
旅立とうとする医師を他の医師が止めに入る。
何故わざわざそのような場所に行きたがるのか分からず、医師たちは互いの顔を見合った。
「弟に任せるつもりだ。な、いいだろう?」
名乗りをあげた医師は隣にいた頭一つ小さい医師を肘で小突いた。
「そういうと思ったよ。兄さんは昔から僕にそうゆうのを押し付けてばかりだからね。いいよ、行ってきな」
やれやれと頭を掻く弟ではあるが、嫌そうな気配はない。
むしろ予想していた展開だとばかりに、忙しくなるなぁと呟いた。
ゴーサインの出た兄医者はメルルに身体を向けると中指を立ててメガネを直した。
「魔王様、町へは私たちで行きます。恐らくは薬も物資も大量に必要となることが予想されます。しかも、私たちは一度そこへ足を踏み入れればキャリアーになる可能性が大きい。しばらくは戻ってこれないでしょう」
「長旅頼んで悪いね。かえって来たら報酬は弾むよ」
メルルの言葉に医師は鼻で笑うと、首を横に振った。
「私がお願いしたいのは、そうゆうことではありません。我々医師が減るということは患者を診る数が減るということ。もし何かあった場合は都にいる医師たちをサポートしてほしいのです」
てっきり報酬を求められると思っていたメルルはあっけにとられた。
金ではなく、都のことを、民のことを心から思っているのだろうと分かる発言に、メルルは心底感じ入った。
「ホッホッホ。皆熱いハートを持っておるのぉ。さ、行こう。これから大仕事になるぞ」




