戦う理由
「おっさん、話は終わり?それとも、もう一回私と戦う?」
「いや…もういい。元々は王に雇われて刃を交えたんだしな。雇い主はもういない。だから、俺とお前が戦う理由はない」
「そっか。でもおっさん強かったし働き口ありそう」
「どうだろうな。全く、お前さんのおかげでこちとら二人で無職だ。稼がなきゃならねぇってのに、困ったもんだ」
「何か稼がなきゃならない理由でもあるの?」
一瞬、影の差すファージの顔に代わり、ラミエルが返答した。
「私たちの町は見捨てられたのです」
「おい、ラミエル」
止めようとするファージであったが、ラミエルはファージの胸に手を当てて黙らせた。
「訳があるんだね。話長くなりそうだし、ちょっと席を変えようか」
列を残したままメルルは二人を玉座とは離れた応接間に通した。
過剰に装飾された煌びやかな応接間にラミエルもファージも目を見張った。
壁には名画とされる絵や装飾品の数々が置かれ、それらの土台となる壁や床までもが一級品で作られている。
「要らんものばっかあるよね。これも後々売りに出して他の困った町の足しにしようと思ってるんだ。さて、座って。話を聞こう」
どれもが一級品であるというのに、メルルはまるで興味を示していない。
売っ払って他の町の足しにするなど、どこの王が考えようか。ファージもラミエルも奇想天外な魔王の言葉に、何と言えばいいのかわからなかった。
うながされて席に腰を降ろすと、ルシールが突然の来客それも敵対しあっていた者であるにも関わらず、二人の前に茶を差し出した。
「私とファージの住む町は病が蔓延り、流通が止まっているのです。感染力の強い病のため、他の町は私たちの町との流通を拒みました。流通が断たれたのを始まりに、薬や物資が減り続け、民は徐々に数を減らしました」
「だから、見捨てられた町って言ったのね」
「そうゆうわけです。今ではわずかにあった薬も底をつき、弱った民たちは死を待つばかりです。そこで病に侵されなかった私とファージで都へと足を運び、出稼ぎをしながら薬や物資を町へ届けていました」
「お医者さんとかはいないの?」
「一人だけおりましたが、その医者も懸命に民の命を救おうと尽力した結果、自身も病に侵され、その命を全うしました」
「医者がいないってのは厳しいね。本当に死をまつだけになっちゃうよ」
「本当ならば医師を雇いたいとも思いましたが、病の蔓延る町に来てくれるものはそういないでしょう。それに薬と私たちの生活費を考えると、医師を雇うことは難しい」
「待てよラミエル。そこから俺たちはあんたたち魔王の話を聞いたんだ。魔王が再来して俺たち人間を支配しようとしていると、それを恐れた王は多大な金を出して俺たちを雇ったんだ。あんたたちを倒せば医師を雇える金が手に入るはずだったんだ」
「で、結果私に負けちゃって無職になったと。そっか。悪いことしちゃったね」
「全くだぜ。夢は叶わず、俺たちは路頭に迷った」
「医師を雇うのってそんなに金がかかるの?」
「俺たち雇われ戦士なら5年はかかる。でも5年も待っていたら町は崩壊しちまう」
「確かにそんなに間が空いたら町は崩壊しちゃうね。よし、ルシール、町の医師を一人残らずかき集めてきて」
「え、お前、まさか」
「さ、忙しくなるよ」




