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生きていたおっさん。

「おい魔王!」


 威勢のいい声をあげてファージは玉座の扉を盛大にブチ開けた。

いきなり入ってきたガタイのいい男に、玉座に詰めかけていた人々は列を崩して脇にそれた。


「おっさん生きてたんだ。元気そうだね」


「んなこたどうだっていい!それより、さっき娘が泣きながら出ていったぞ、他にも入ったと思えばどいつもこいつもヘラヘラ笑いながら出ていくしよ、お前いったい何をしてやがる!」


「税の相談」


「税?まさかお前民から多額の税でも徴収してんじゃねぇだろうな!?」


「お待ちください、そうではありません!」


 相談の最中だった禿頭の町長は、ファージに掴みかかるように前に立ちはだかった。

せっかくまとまりかけていた税の相談に、町長は焦ってファージを前にした。

 いずれの者も以前に比べてとてつもなく軽減されているのに、こんな男の登場で魔王の気を悪くしてしまい、自分だけ税を重くされては困ると思ってのことだった。


「魔王様は我ら民のことを思い、以前にくらべ途方もなく軽い税にしてくださっているのです。こんなことを言うのは何ではありますが、前の王のときよりも魔王様に従ったほうが我々としては身が軽くなります」


「はぁ?軽い?おい、魔王、お前はこいつに何を要求したんだ?」


「その人の町は家畜がいっぱいいるんだって。だから牛一頭もらうことにしたの」


「一頭?毎日一頭ってことか?」


「まさか。年間でだよ」


 家畜一頭で年間の税とするなんて聞いたこともなかった。

大抵は月々に数キロの肉や家畜を納めたりはするものなのに、それをメルルは年間で牛一頭でいいと言う。

理解が出来ない言葉にファージは言葉を無くしていた。


「わかったでしょう。魔王様は我ら皆にこのように言ってくださるのです。先に言っておりました娘のこともそうです。娘は無理やりに税として連れてこられたそうでしたが、町に婚約者がいるからと返してもらうことを望んだのです」


「…そんで、どうしたのんだ?」


「魔王様は税を取るどころか、娘に宝石を渡したのです。結婚するには金が入用だと、王冠にはめられた大きな宝石を引き抜くと、娘に渡したのです」


「言ってる意味がわからねぇ」


「宝石を売りにだし、費用にしろと言ったのです。他のどの町もわずかな量のみでいいと魔王様はおっしゃってくださっております。これほどに民に寛大な王はどこを探してもおりません」


 他の町長たちが首を揃えて頷いた。

今までのやり取りを聞いていたものたちは、こんなに素晴らしい王はいないとばかりに何度も首を立てに振っている。


「本当なのか?」


「このお城には私とスラちゃんとルシールしかいないしね。そんなに沢山納めてもらっても腐らせるだけだしね」


 ならば納得がいく。

暗い顔をしていた人々が、出ていく頃には笑顔だった理由にも合点がいく。

しかし、想像していた魔王像とはかけ離れたメルルにファージは納得がいかなかった。

そんなのは魔王らしくない。王らしくない。


「何故だ。何故そんなことを?」


「ここはもう私の支配下だよ。支配下ってことは私のもの。自分のものを大切に扱うことの何がおかしいの?」


 概念が崩れた。

魔王というが、それはただの言葉。ファージとラミエルは目の前の少女がいう、ごく当たり前のことに言葉を返せなかった。

自分のものを大切に扱う。当たり前のことだ。

ごくごく当たり前のことをする魔王に、二人は感情の行き場をどうしようもなくしていた。

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