みんな色々抱えて生きてんだなぁ
「はい、次」
「魔王様、お初お目にかかります。私は砂漠地帯の町を治めますユシナと申します、こちらはミカという農民の娘にございます」
ユシナと名乗る男は隣に若い女を連れていた。
女は嫌そうな顔で視線を背けている。ユシナはそれに気づくと脇腹を小突いて跪くように命令した。
「我が町は砂に囲まれ、乾燥しきった町でございます。ゆえに雨のふる季節以外はめぼしいものはとれません。なので、こうして町の若い女を税として納めてまいりました」
その言葉を聞いてメルルはますますイラついた。
女を税の対象にするなど言語道断。同じ女として、魔王として、そんな税をもらうわけにはいかない。
怒りの口を開こうとする前に、ミカが声をあげた。
「魔王様!わたしを返してください!私には町に婚約者がいるのです!私は、私は、こんなの……」
「魔王様の前で何を言いやがる!このクソガキが!」
振り上げられた拳をルシールが止めた。
サキュバスといえども魔族である。その力は人間の比ではなく、ユシナの腕はミシミシと骨がきしむ音がした。
「ルシール。もういいよ。ミカ、あなたの話を聞かせてもらえる?」
頬杖をついたメルルは泣き崩れたミカに耳を傾けた。
隣では腕をさするユシナが無言でミカを睨みつけて、何も言うなと訴えている。
「…私はしがない農民の娘でございます。長年連れ添った幼馴染と恋仲となり、二月ほど前に結婚を申し込まれました。ですが、言ったように私の町は一時的にしかものが取れません。働き口のない彼は結婚費用を稼いでくると出稼ぎに行き、まだ帰りません。その間に、王の座が交代したと聞き、ユシナの命令で税として私が指名されたのです」
「ほうほう、そんな経緯があったのね」
「お願いです、私を返してください!魔王様が何か必要というのならば必ず納めます!だから、私を返してください!」
「よし、じゃぁ返す代わりにあなたにお願いがあるの。ルシール王冠持ってきて」
これから何を言われるのかとミカは不安と緊張に額に汗をかいた。
何を言われるのだろう。魔王を目の前に税も納めず、自分を返せと言い切ったのだ。対価は支払わねばならないだろうと、ミカは腹をくくった。
少しの間をおいて、ルシールは王冠を持ってきた。
金で出来た王冠は凹んでいるが充分に輝きをもち、所々に宝石が散りばめられて装飾されている。
その宝石一つで多大な価値があるのに、これ一つでどれほどの価値があるのだろうとミカは考えた。
王冠から宝石を一つ取り外すと、ミカ向かって投げた。
「拾って」
「…はい」
投げられた宝石を拾い上げる。ブリリアントカットされたダイヤモンド。それも特大のサイズである。
それ一つで農民の生涯の収入を越えてしまうほどの価値があり、ミカは持つ手を震えさせた。
こんな高価なものを持たされて、これから何を言われるのかミカは不安に息を呑んだ。
しかし、彼のためならとミカは腹を括った。
「結婚するには費用がかかるでしょ?式あげたり、人よんだり、食べ物用意したり、会場用意したり。宝石は私からのご祝儀ってことでさ。それ売っぱらって足しにしなよ」
括っていた腹に突き出された言葉はとんでもなく甘くものだった。
「そんな、これほどのものを売りに出しても良いのですか?」
「うん。別に王冠も宝石も要らないし。あなたに対するお願いは、そうだなー幸せになることかな。彼早く戻ってくるといいね。はい、次」
立ち尽くすミカは言葉が出なかった。言葉を漏らす代わりに涙が頬を伝って落ちていく。




