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王も住民も大変なんだなぁ。

「魔王様、今なんと?」


「だから、要らないってば。いいよ、今は納めなくて」


 次に出てきた別の町長もメルルの言葉を信じられず、何度も今いった言葉を聞き返していた。


「納めなくてもいいというのは、そのままの意味と捉えていいのですか?」


「いいよ。ていうか、それどころじゃなくない?町が活気づいてからでいいよ」


 山沿いの町を治める町長は今年は雪崩や災害が多く、作り上げてきた畑や民家の多くを失い、税を納めるのすら厳しい状況にあった。

その旨を伝えた上で、税を少なく出来ないかと直談判した。

するとメルルはそれならば、町が復興するまでは一切の税は要らないと言い切ったのだ。


「町に活気が戻るにはしばらくかかります。何年先になるかは私にも具体的な予想は困難です」


「そんなにかかりそうなの?」


「雪崩の影響で私の町は物だけでなく、人も失いました。中には未来ある若者もいました。もともと過疎化の進む町ではありましたが、その最中に災害に見舞われたせいで、現状、我が町は壊滅の一歩手前といった現状なのです」


「大変じゃん。そしたらスライムと城の兵を派遣するからそれで人員は賄って。あと復興に必要なもので城にあるものなら好きに持ってっていいよ」


「はい?」


 あまりの申し出に町長は我が耳を疑った。

税を治めなくていいばかりでなく、兵を派遣し、さらには城にある機材を使ってもいいと言うのだ。

こちらも以前の王では考えられなかったことだ。

町が苦しくても、常に一定の作物を要求され、兵の派遣などはなかった。

メルルは町長には予想できなかった答えを出した。しかし、そんなことをして後々に多額の請求が来るのではと町長は未来を案じた。


「お気持ちはありがたいのですが、兵を出して頂いても払う金銭があまりありません。私の私財を投じたとしても大きな額にはならないと思われます」


「は?何言ってんの。金なんか請求しないよ。タダでいいよ。タダで」


「え?…それは…本当にございますか」


確かめるように聞く。メルルは何度も言葉を確認されて、少しばかりイラッとして顔を歪ませた。


「みんなしつこいなぁ。いいってば。それより早く町を直しなよ。城の備蓄庫を開けるように指示しとくからそこから必要なもの持っていきな。あとは馬車も必要か。ルシール、ちょっと兵隊よんできて」


「かしこまりました」


 控えていたルシールは兵隊を呼び出すと、玉座の前に集合させた。

王はいなくなったが、城に残っていた兵たちをメルルはそのまま城に残していた。当初こそ困惑した兵士たちであったが、彼らも今の町長と同様に良い意味でとんでもない要求を出され、魔王の兵として仕えていた。


「この町長さんの町が復興で手が回らないんだって。ちょっと手伝ってあげてきて。あと馬車も用意してあげて」


「イエス魔王様!」


「その返事ほんとキモい」


 知らぬうちに流行っていた魔王に対する返事。

以前は「御意」と返事していた兵に対し、メルルは堅苦しいからやめろと命じていた。その結果生まれた返事がこれだった。

しかし、わずかな返事のやりとりだけで兵と魔王は距離を縮めることが出来ていた。


「では、町長殿、備蓄庫へ案内します。こちらへ」

兵に案内されるままに町長は玉座の間をあとにした。町長は最初に出ていった町長と顔を同じにして、今のやりとりを何度も頭の中に反芻していた。

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