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勇者は無理だけど、魔王ならなります

 残されたのは血塗られた収穫祭の残骸、切り伏せた人々から溢れだした多量の血痕。

返り血が顔に、服に、手にべったりとついてメルルは眩暈がした。

血の鉄っぽい匂い、乾いてジェル状になった生暖かい血が体を覆っている。

目の前にはいくつもの死体と血の海が広がっているのに、メルルは何故か心に後悔や不安ではなく、物足りさを感じていた。



―――足リナイ―――


「え?」


頭の中で声が鳴り響いた。


―――モット血ヲ、(ちから)ヲ、混沌ヲ―――


「誰?」


――我ハ魔王ノ剣ナリ―――


「魔王…?伝説の剣士の剣じゃないの?」


 それが剣からの声だとメルルは感覚で感じ取った。

伝説の剣と言われたそれは正義の剣ではない。悪の剣なのだと悟りメルルは


「凄い、そんな剣だったのだ!」


 歓喜した。

 正義の味方にはなりたくない。大儀を掲げて正義を貫くなど到底できないが、傍若無人に振る舞う悪役ならばいくらでも出来る。

 誰のためでもない。自身のためだけに力を振るい、己の欲望のままに生きる。


 魔剣からドス黒い人々を不安にさせるような暗黒のオーラが吹き上がると、周りの残骸を吹き飛ばしながらメルルの体に巻き付いた。

まるで台風の眼にいるかのように、メルルを中心に風が巻き起こる。

しかしながら、それはとても美しいとは言えない代物。黒いオーラ、舞う残骸と血飛沫。血の香り。


「いたぞ!本当に魔剣を引き抜いてやがる」


 誰かが通報したのであろう、ギルドの制服をきた複数の兵が血相を変えて乗り込んできた。


「少女を倒してでも、魔剣を引きはがせ!」


 倒してでも。

メルルは一瞬、怯えた。確かに魔剣を手にしたせいで何人もを殺めたが、急にやってきたギルドの者たちはメルルを少女ではなく、殺人鬼として捉えているように思えた。

その事実にメルルは不安と恐怖と悲しみが入り混じって、血の気が引いていくのがわかった。


兵たちは腰にかけた剣を鞘から抜いて構えた。


―――力ヲ、血ヲ――


声が鳴り響く。

脳内に響く声にメルルは頭を抱えた。


「…力を、…血を」


視界が徐々にぶれていく。寒気がする。


「何を言っている!?貴様、さては魔族か!?」


―――我は


「私は」


―――魔王ノ剣ナリ


「――魔王になるんだ」


 ぶれた視界が目を覚ましたように一気に焦点があう。突き出された刃を素手で掴み、兵の一人を蹴り倒した。

倒れた身体めがけて思い切り魔剣を振り下ろす。

手首を返し地面を切りながら、今度は反対の兵向かって下から上に刃を振るった。

半分に切り裂かれた兵の体が地に落ちる前に、今度は両手で剣をもってバッティングするように横に薙ぐ。


 即座にいくつもの死体が出来上がり、ただでさえ血に染まっている教会がより血に溢れていく。

切られる前に切る、斬る、キル。

魔剣を手に縦横無尽に暴れまわる自身に心が飛ぶように感動し、心が躍った。

バッサリと何かを斬る爽快感はメルルの心を満たしていた。


 どれほどの兵を斬っただろうか。気づけばメルルは出来あがった死体の山に腰を降ろしていた。

血に飢えた剣は兵の一人を残し、全てを無残に斬り殺した。

残った一人といえば、その場にしりもちをついて涙を流しながら手にした剣を振るえた手で握りしめている。


―――血ヲ、力ヲ―――


「頭の中に声がするんだ。――この剣は伝説の剣士の剣なんかじゃないの」


顔はどこか遠い空を向いているが、視線だけが残された兵に向けられた。


「この剣は魔王の剣。正義の剣じゃない。混沌を求める剣」


 乾いた風が血の香りを運びながら、メルルの髪を優しく撫でる。ふわり揺らいだ髪は少女のまま。

ただ、その腰の下には無数の遺体、全身は頭のてっぺんからつま先まで返り血で染まる。


「私、魔王になるよ」



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