あいつら絶対デキてるな。
振り下ろした刃は男を捉えずに地面を裂いた。
「ファージ援護します!」
「ラミエル!」
男の位置は瞬間的に移動しており、その背後には茶色いローブを着た金髪の魔法使いが杖を手に男向かって手を翳していた。
「移動魔法カ」
急に現れた援軍にメルルはまた胸がときめいた。
負けそうな状況を巻き返す仲間、相手をおもう気持ちが力になり、何かを護ろうとする思いが力になる。
もうメルルはとろけそうだった。
目の前にいるファージと呼ばれた剣士と、魔法使いのラミエル。
きっと彼らは深く厚い信頼関係で結ばれているのだろう。二人で数多の戦場を切り抜けたのだろう。
二人を見ただけでメルルの脳内には妄想が捗った。
「助かったぜラミエル!」
「ファージ、相手は闇の魔王です!あなたに光魔法の強化をかけます!その力で一気に叩いてください!」
「オウ!」
「大地の息吹よ、輝ける星星の光よ、あまねく光たちよ、闇を照らしあげよ!」
ラミエルが呪文を詠唱しながら杖で空中に魔法陣を描くと、ファージの身体には白く光り溢れるオーラが沸き上がった。
炎の宿った剣も炎と光が混ざりあってオレンジ色に神々しく輝いている。
光に包まれた戦士。
「これだ…!私の求めていた戦いッッッ!闇と光のぶつかり合いッ!闇の魔王と光の戦士の決闘ッ!」
「浮カレテイルトコロ悪イガ、コレハマズイ。アノ魔法使イモ相当ナ手練レダ」
「関係ないねっ!」
「アノ光、我ガ闇ヲ弱メル魔力ヲ持ッテイル」
「だから、そうゆうのがいいんだってば!」
両者同時に地面を蹴った。互いの刃が重なって再びの鍔迫り合いとなる。
メルルの闇のオーラとファージの光のオーラが相殺を起こしながら凄まじい衝撃波が舞い上がっている。
二人を中心に全てを消し飛ばすような対極する力が重なっている。
そばにいたサキュバスは衝撃波に飛ばされないように近くにあった柱に捕まると必死に飛ばされないように耐えた。
「魔王様ー!ぶっころせー!」
「ファージ!あなたならやれます!」
二人の剣士、二人の声援。
刃はお互いに一歩も引かずにいる。
「俺は誰にも負けない。負けるわけにはいかないんだ!」
「戦士っぽくていいねぇ!あぁ、そうなったバックボーンとか超知りたい!」
「ウォオオオオ!!!」
「オラアアアアアアア!!!」
対極する力が爆発を起こした。二人の鍔迫り合いは煙に包まれると辺り一帯を巻き込みながら、煙で包まれている。
土煙の舞い上がる城門、周りの建物や石像などが壊れてカタカタ音をならして崩れていく。
吹き飛ばされたサキュバスは目をこらしながら辺りを見回す。
同様に反対側にいたラミエルもファージの姿を探す。
「ファージ!無事ですか!?」
土煙が落ち着くと、そこに立っていたのはファージだった。
メルルは力なく倒れ、吐血して大の字で仰向けになっている。
「ファージ!」
「魔王様あああああああああ!!!」
涙を零しながらサキュバスが魔王を抱きしめた。
「魔王、強かったが…俺の相手じゃなかった…な…」
やっとの思いで立っていたファージの手から剣が落ちた。
倒れた魔王を確認したファージは目の前が暗くなったと思うと、そのまま地面に倒れた。
「ファージ!?」
「勝ったのは私…魔王メルル様だッ!」
メルルが目を開いて立ち上がった。
流石の魔王もこのときばかりは無傷にいられなかった。ふらつきながら立ち上がると、剣を杖代わりに倒れたファージとラミエルを見た。
「なぜ、なぜこのようなことをするのですか!?魔王!」
ファージの頭を膝に置いたラミエルが叫んだ。
「何故?じゃぁ逆に聞くけどさ、お前ら人間だって魔族ってだけで魔族を殺すでしょ?」
「…ッ」
「復讐されないとでも思ってたの?自分たちが正しいと思ってるの?仲間が倒れた途端に悲劇の主人公になられても困るんだけど」
「魔王様…」
魔族の気持ちを代弁するメルルにサキュバスは心が痛かった。
メルルに肩をかしながら顔を下向かせて上げることが出来ずにいる。
「何故こんなことをするのか?そんなの決まってんじゃん。魔族たちが安心して暮らせる世の中にするためだよ。お前たちが散々してきたのと同じことだよ」
もうこれ以上の言葉のやりとりはなかった。
メルルは全てを吐き出し、ラミエルは返す言葉を思いつけなかった。




