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振るえるぞハート!燃え尽きろソード!

 城門前には一人の番兵がメルルたちの行方を阻んだ。

太く逞しい腕。背には巨大な剣を背負った男が向かってくるメルルたちを視界に入れると、腰をあげて柄に手をかけた。


「なんかイカついおっさんがいる」


「気ヲツケロ、アノ男、強イゾ」


「私より?」


 強敵だという魔剣にメルルは口元がニヤついた。

これまでは骨のない者ばかりを相手にしてきた。やっと白熱したバトルが出来るのかと胸が高まり、心が躍った。


「フッ…愚問ダナ」


 飛び上がったメルルは男向かって刃を高く振りかざした。

男も宙を舞うメルルに目標を定めると剣を抜いて大きく振りかぶった。


「おっさん!少しは楽しませろよ!」


「こちらのセリフだ!」


 刃と刃が重なった。火花があがり、衝撃波が巻き起こって周囲を揺らした。

重い。舞い上がりながら刃を降ろしたというのに、男の剣はそれを受け止めるどころか推してきている。

 着地すると同時に刃を薙ぎ、払い、受け、突く。

何度も刃が交わり、そのたびに火花が散った。

互いの刃は相手の体に届く寸前で止められ、すかさずに追い打ちをかける。


「おっさんやるな!」


「お前こそ女の割にはやるじゃないか。魔王と聞いていたから、てっきり男かと思ったぜ!」


「女で期待外れだったかな?」


「まさか!期待以上だ!オラァ!」


 巨大な剣が炎を帯びた。火の粉を振らせながらメルルを襲う刃は先ほどよりも早く重い。


「コイツモ魔剣使イダ」


「へぇ、魔剣っていっぱいあるんだ!」


「俺の剣には炎のエレメンタルが宿っているのさ。刃こぼれもなく、炎で全てを焼き尽くす剣さ!」


「しゅげー!」


 攻撃を受けながら、メルルは目の前に現れた強敵に目を輝かせていた。

これだ。これを待っていたんだ。

強い相手。力と力のぶつかりあい。強者同士にしかわからない、相手を認めながらも倒そうとする繋がり。

今迄相手にした勇者たちでは味わえなかった闘争にメルルは楽しくてしかたなかった。


「魔王様ー!ぶっころせー!」


「殺すには凄い惜しい!」


「ハッ!そんなのは殺してから言えよな!唸れ、イフリート!」


 刃を地面に叩きつけると、地面が割れて火柱があがった。

範囲こそ広くはないが、その一撃は天高く炎を突きあがらせ、全てを燃やし尽くすような熱が感じられる。


「ああああああああ!良い!こうゆうの!こうゆうのを待ってたの!」


「何を言ってやがる魔王、さっさとくたばりやがれ!イフリート!」


 再び刃が地面を叩いた。突き上げられるような火柱を回避しながらメルルは殺すのが惜しいと思えてならなかった。

どの勇者よりも強い。どの勇者よりも戦士らしい。

攻撃をかわしながら、メルルは男の争いにうなる獰猛な顔を見つめた。

鍛錬に明け暮れていたのだろう、黒い肌。いつかの戦いで名誉の傷をおったのか、頬には大きな切り傷。

剣を握る腕を太く逞しい。全体的に筋肉質だというのに身体は軽く動きは早い。

 恍惚とした。目の前に敵が迫っているというのにメルルの心はときめいている。


「それでこそ戦士ッ!そこでこそ男だッッッ!!!」


「魔王に褒められても嬉しかねぇよ!」


 刃と刃が重なった。お互い押しも押されぬ鍔迫り合い。

火花を散らしながら刃と相手の顔が目の前にある。

男の顔は力が入り、汗ばみ、白い歯をむき出しにして迫ってきている。

反対に、メルルの顔はとろけそうな笑顔になってこのような状況に出会えたことに幸せを噛みしめている。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 咆哮。男は一際力を籠めると、刃に炎を纏い鍔迫り合いに押し勝ち、メルルを押し飛ばした。

推し飛ばされたメルルは地面に体を打ち付けながら壁に激突して倒れた。


「魔王様!?」


 まさか負けると思ってもいなかったサキュバスは倒れたメルルに即座に駆け寄ると、胸に耳を当てた。

鼓動はする。大丈夫だ。


「乳ないから鼓動も聞きやすいでしょ」


 ニヤリと笑ってメルルは立ち上がった。


「魔王様!」


「いやーここまでやるとは恐れ入った。正直今迄の戦闘がぬるすぎたから舐めてたけど、ちゃんと強い人もいるもんだ」


 魔剣を構える。

お楽しみは終わりだと告げるように魔剣からは黒いオーラが吹き上がった。魔剣を引き抜いたときのような風が巻き起こり、メルルは鼓動を早くした。

最初に引き抜いたときの興奮、力の漲りを感じた。


「…力を…血を。私は魔王になったんだ」


 弾丸が発射されるようにメルルはその場を蹴って瞬時に男の元へ飛び出すと、鋭い突きが男の脇腹を抉った。


「早いッッ…!」


 各段に動きが早くなったメルル向かって刃を振り下ろすが、振り下ろした先にすでにメルルはいない。

斬ろうとしたものは残像。それに気づくと男は剣を大きく回転させてメルルの姿を捉えようとした。

しかし、メルルはいない。

頭上に影が重なるのを感じて、空を見上げると逆光を浴びたメルルが刃を振り下ろしている。


「これまでか…!」


 自身の最期を覚悟し、男は目を閉じた。

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