ここをスライム城と名付けよう
スライムの働きは想像以上だった。
あれからも分裂を続けたスライムはさらに作業効率をあげると寝ずの作業で拠点と言うには大きな和風の城を建ててしまった。
朝になって眼の前に出来上がった城にメルルは目を見張った。
「スライムちゃんすっごい!一晩でお城出来てるじゃん!」
「えへへ、ちょっと頑張っちゃいました」
あまりの出来栄えにスライムを抱きしめながら、これでもかと頭を撫でるとスライムは恥ずかしそうに顔を赤らめて口元を緩めた。
一晩に城が出来上がったのに驚いたのは他にもいた。
森から少し離れた丘には勇者の援軍として派遣された王の兵団が一夜を明かしていた。
目覚めると同時に眼に入った城に、まだ夢を見ているのではないかと兵たちは目をこすった。
「隊長!城が!魔族の城が建てられています!」
「見ればわかる!一晩で城を立てるなど聞いたこともない、どのような魔法を使えば一晩に城が建てられるというのだ···」
兵団の隊長は朝日に輝く城に息を呑んだ。
分裂していたスライムたちが元の一人に戻ると作業は全てを終えた。
急に出来上がった城に吊るされた勇者が目を丸くして城を見上げる。
「何ということだ。一晩に城を建てるとは」
「これには私も驚いたわ。いやー部下が優秀だとありがたいね」
「いえいえ、魔王様が救ってくださったからこそ頑張れたんです!」
「そお?スライムちゃんは良い子だねぇ、よーしよしよしよしよしよし」
頭をこれでもかと撫でると隣にいたサキュバスが悔しそうにハンカチを噛みちぎった。
「うースライムばかり魔王様に褒められて、私だって頑張ってるのにぃ」
「そうだね、サキュバスも頑張ってくれてるね。こっちおいで!頭撫でたる!」
「はい!♡」
メルルはスライムとサキュバスを抱きしめるとこねくりまわしながら身体をなでた。
撫でられる身体をスライムもサキュバスも顔をとろけさせながら身を任せている。
まるでペットのように扱われる家来たちと魔王。その様子に勇者は縛られたまま呆れた顔をしながら見ていた。
「何をしているんだ貴様らは···」
分かりやすい目印に王の兵団は用意を整えるとすぐに城に出発した。
戻らない勇者を救出し、このことを王に知らせなければならない。
兵団は茂みに隠れ、気配を消しながら城へと近づいていった。




