スライムちゃんの敵討ち
森を目指すのは容易かった。スライムがいたという森の方向からは話にあったように火がつけられ、森の中から煙があがっていた。
すでに火は消えてはいたようだが、煙のあがる森の中には何人もの人間の姿が見える。
指揮を執る男が一人、その後ろには剣を腰に下げた男女が列を為して森を進んでいる。
「あいつらがやったのかな?」
「恐らく。あの指揮をとる男は魔法使いだと思われます。きっとあの男が森に火を放ち、他の人間たちが刃を振るったのでしょう」
「よし、ぶち殺そう」
列の前に着地すると、急に現れた魔剣を手にしたメルルとサキュバスに指揮をとっていた男は杖を振りかざした。
「何者だ貴様たちは!?」
「森を焼いてスライムを殺したのはあなたたち?」
「貴様スライムの仲間か!」
「やっぱりアナタたちなんだ。じゃぁ、全員ぶち殺すね」
「貴様やはり魔族の仲間か!食らえ!ファイアーボール!」
杖の先から火球がメルル向かって発射された。向かってくる火球を魔剣で一振りで消滅させると、男向かって切っ先を向けた。
この男が森を焼いた。そう確信した。
「何故森を焼いたの?」
「この森は王の森!お前たち魔族が蔓延らぬようにここに町を築くためのことだ」
「後ろの人たちは?」
「彼らは未来の冒険者見習いだ。この森は弱いスライムが多いからな。実戦に向けた練習には丁度いいのさ」
突き出した切っ先が残像を描きながら横に払われた。
斬撃が発生し、男は杖ごと切り裂かれると胴体に大きな裂傷を受けて鮮血を散らした。
ドサリと男の身体が血を滲ませながら地面に倒れる。
後ろに控えていた冒険者見習いたちは一撃で男がやられたのを見ると、顔を恐怖に引きつらせて逃げ出した。
メルルは腹の中に怒りが煮えて仕方なかった。
この森は王の森?町を築くために森を燃やす?冒険者のためにスライムを犠牲にする?
そのどれもが理不尽で自分勝手だ。
一人斬っただけでは物足りないと、メルルは冒険者見習いを追いかけた。
「ひぃぃぃ!助けてくれぇ!」
「スライム殺しといて自分は助かろうなんて、どうかしてるわ」
追いついた最初の一人を切り捨てた。
まだ見習いとあって剣を抜くこともせずに斬撃に倒れる。
「サキュバス!上空から逃げる人間を見つけて!一人も逃がすな!」
「はい魔王様!」
城内ではそこまでだが、戦場に出るとカリスマ性を出すメルルにサキュバスは胸をキュンキュンさせて仕方なかった。
女ではあるが、その顔は魔王らしく威厳がある。
命令されただけでサキュバスは魔王に惚れ惚れとして顔を恍惚させた。
上空に舞い上がると散り散りになった人間を捉える。森に慣れていないのか見習い冒険者たちは逃げるのが遅い。
「魔王様!東に二人、西に三人逃げています!」
「東は任せる!私は西の三人を倒す!」
「かしこまりました!」
一気に東側の空へ飛び立つと手に鎌を携えて、見習い冒険者の元へ急降下した。
蝶のように舞い、蟷螂のように捕らえる。
上空からの急襲に見習い冒険者はサキュバスに気づくこともなく、刃に倒れた。
西へ向かったメルルもすぐに追いつくと、勢いを落とさずに追い抜き様に一人を斬り捨てた。
残った二人もすぐに見つけると、逃げる背中向かって魔剣を突き立てる。
緑に萌えるはずの森には煙の臭いと血の赤が滲んでいた。




