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我メルル、貞操ヲ護ル

 倒れこみながらも玉座にたどり着くことが出来た。

しかし、メルルは後ろから抱き着かれたせいでベッドにいたときと同じようにサキュバスの下になっている。

完全に足でホールドされると、ついに自分の初めてが奪われていしまうのかと身体をバタつかせたが、発情したサキュバスは絶対に獲物を逃がさないようにメルルに覆いかぶさった。


「ハァ♡ハァ♡魔王様、ベッドよりも外でするほうがお好きですか?♡」


「好きじゃねぇ!」


「では、もう一度寝室へ参りましょう♡」


 潤んだ口がメルルの耳を食む。熱い吐息と絡みつく唾液でメルルは鳥肌が立つのを感じた。

もうダメだ。食われてしまう。

しかし、メルルは視界の隅に魔剣を見つけると、それが最後の望みだと声を絞り出した。


「レーちゃん助けてー!襲われるー!」


 悲鳴にも似た叫び声に、玉座の横に突き刺さっていた魔剣が反応した。

浮かび上がってメルルの元まで来ると、頭上に突き刺さって絡み合う二人を見ている。


「騒ガシイト思エバ。何ヲヤッテイル?」


「サキュバスがスイッチ入っちゃったみたいなの!止めて―!このままじゃマジにヤられる!」


「魔王様ぁん♡」


 魔剣が現れてもお構いなしにサキュバスはメルルの首元に舌を這わせた。


「発情シテイルナ。メルル、オ前サキュバスニ性的ナ事デモシタノカ?」


「性的って!…お風呂場で乳揉んだくらいだよ!」


「ソレダナ。ソレガ引キ金トナッテ、サキュバスハ今ノ状態ニナッタノダロウ」


「揉んだだけで?!」


「淫魔トハ、ソウ言ウモノダ」


「魔王様♡早くぅ♡」


 再び耳をはむはむされてメルルは身体を仰け反らせた。

心なしか、サキュバスの下半身に湿り気を感じるといよいよ無事には済まないと身を震えさせた。


「レーちゃあああああああん、早く止めてー!」


「ヤレヤレ。サキュバス、悪ク思ウナ」


 浮かび上がった魔剣は反転して柄頭でサキュバスの頭を軽く叩くと、途端にサキュバスは目を閉じてメルルに被さるように倒れた。


「た、助かった」


「一時的ニ魔力ヲ吸イ上ゲタ。朝マデハ眠ル事ダロウ」


「ありがとうレーちゃん。あやうく私の貞操が奪われるとこだったよ」


「馬鹿ナコトヲ」


 朝まではこのままだという魔剣のいうようにサキュバスに深い眠りについて動くことがなかった。

流石にこのままにするのも可哀そうだと、メルルはサキュバスを抱きかかえると寝室に戻り、ベッドに降ろした。


「もう襲わないでよね」


 脱ぎ散らかしていたバスローブに再び袖を通す。一件落着したことで眠気が襲ってきたが、今さっきのやりとりからサキュバスの横で寝ようとはとても思えずメルルは玉座の間へと戻った。


「…今日はこのまま此処で寝るよ。またサキュバスが襲ってきたら護ってね」


「朝マデハ起キナイハズ。安心シロ」


「本当?じゃぁ…おやすみ」


 玉座に腰かけたまま目を閉じると、メルルは再び夢の中へと足を踏み入れた。



***



 魔王の住まう城は火口付近に聳える故に、常に火山の煙があがり、日が差すことはない。

それでも部屋が明るくなったのを見ると、朝が来たのだと認識できた。


「うー、玉座で寝たせいで身体がバキバキだ」


 目を覚ましたメルルは大きく背伸びをすると、欠伸をする口を手のひらで隠した。

結局朝まで寝ることは出来たが、慣れない玉座に腰かけて寝ていたせいで快眠とはいかなかった。


 酷い夜だった…。

そう思いながら眠気眼を擦ると起きたばかりなのに、まだ心に緊張感が残った。


 どたどたと廊下を掛けるような音を響かせながら、玉座の間の扉が勢いよく開いた。

何かと思えば血相を変えたサキュバスが涙を貯めながら息を切らして立っている。あわあわとした顔は震えてどうしようもなくなっている。


「魔王様!もおおおおおおおおおおおし訳ございません!わたくし、乳を揉まれて発情してしまい、あろうことか魔王様の寝込みを襲ってしまいました!」


 ジャンピング土下座をしながら、サキュバスの額が床を打った。

もう発情はしてない様子にメルルはとりあえず胸を撫でおろした。


「ちゃんと覚えてたんだ。もう襲わないでよね。私も乳揉まないから」


「はい!今後このようなことは一切!魔王様がご所望であれば、私、この乳を切り落として二度とこのようなことがないことを誓います!」


 手にはナイフが握られ、胸を前に張り出すとナイフを天高く掲げた。

前に張り出しただけで乳がぶるんと揺れてメルルは一瞬イラッとしたが、流石に切り落とすことほどのことではない。

乳を失うなど、女であれば誰だって望むことではない。


「そんなことしなくていいよ。もう十分だから」


「なんと慈悲深き魔王様…なんと言葉を申し上げればいいか、わたくしには言葉がありません!」


「淫魔ってそうゆうものなんでしょ?レーちゃんも言ってたし。本能なら仕方ないよ」


「ありがとうございます、魔王様」


「でも、もう襲っちゃダメだよ?マジで貞操奪われるかと思ったんだからね。今は子作りよりも人間界の支配が先なの!わかった!?」


 玉座に腰かけながらふんぞり返るメルル。涙を貯めながら膝をついたサキュバスは感謝に頭をさげながらも、顔を赤らめてメルルの顔を覗いた。


「あの、今のお言葉からしますと…人間界の支配が終わったなら…わたくしと子作りして頂けるのでしょうか?♡」


赤くなった顔は物欲しそうに指を咥えている。


「ちっがあああああああああああう!!!反省しなさーい!」


 魔王の城で一際大きな雷鳴が鳴り響いた。

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