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ナポレオン27人目の元帥 ~Le 27ème maréchal de Napoléon~  作者: なっかー
Chapitre Un ~Maison de Brunet(ブリュネ家)~
7/7

Épisode 6


 あの日が、私の人生にとって、そして彼女の人生にとって、大きな転換点となったのは疑いようのない事実であろう。幼少期に刻まれる強烈な記憶ほど人生を左右するものはない。私はこの頃、修羅の道を歩む決意をしたのかもしれない。そして彼女も、もしかしたら、この頃に秘めたる決意を抱いたのかもしれない。

 ――パリ大学における講演


///


 ――1778年 ナポリ


 その日、子どもたち四人は昼までを思い思いに過ごしていた。

 昼食を皆でとった後、また遊ぶことになった。誰が言い出したかわからないが、最早定番と化していたかくれんぼをすることになった。

 鬼はマルタン。そしてジャンとエミリーは今回は共に行動するようだった。


 始まると同時にエミリーの弟が全力で駆け出した。裏でこっそり見守っていたアーロンはその行く手に危険なものがないかを確認した後、ゆっくりと彼の方へと向かった。

 二人もまた、逃げ始めた。今回は屋外であり、この屋敷には十分広い敷地がある。そこで彼らは一か所に留まるのではなく、マルタンの様子を伺いながら移動することにした。確かに鬼の動きを把握できれば、有利に進めることが出来るだろう。尤も、様子を伺うときに見つからなければの話だが。


 二人が静かに動いたのに対し、エミリーの弟はかなり足音が立っていた。それを目印と捉えたマルタンはその音を頼りに探し始めた。それを物陰から伺っていたジャンは、次は逃げるのと違う方向にわざと足音を立てようと決意したのであった。



 さて、それから暫く経って何度か移動を繰り返していると、二人は「壁」に穴を見つけた。この先へ行けば見つからないだろう。そう思い、穴をくぐり抜けて屋敷の裏へと出た。暫く辺りを見て回り、外を探索した。そして帰ろうと思った頃、二人は突然、男たちに腕を掴まれた。


 そして、二人は連れ去られていった。丁度夕日が美しい時間帯であった。



 その頃、ジャンの父ドミニクは書面に向かっていた。ふと一息つくと、彼は夕日が部屋に差し込んでいるのがわかった。そのまま部屋を出て、もうすぐ食事にしようと料理人のところへ向かい、そう告げる彼を見たアーロンは遊びの終了を子どもたちに告げに行くことにした。

 アーロンが声をかけるとエミリーの弟がマルタンと一緒に屋敷の中に戻って来た。しかしジャンとエミリーは、いくら呼びかけようとも帰ってこなかった。


 それから屋敷の人たちが手分けして捜索にあたった。しかし一時間経っても二人は見つからなかった。

 その時、捜索していたうちの一人が屋敷の塀に穴が開いているのを見つけた。その先は街の方へ繋がっていることに気付き、そして間もなく、ドミニクの許へ報告に向かった。


 ドミニクはその報告を聞き、椅子から立ち上がった。

 その情報が広まっていくにつれ、皆の中に一つの疑念が浮かんできた。

 それは、二人が穴から屋敷の外へと出て、道に迷ったか――或いは連れ去られたか――というものであった。


 ドミニクはすぐにアーロン、そしてもう一人の同伴者であったブリジットを呼んだ。

 そして二人に、屋敷にいる者の中で動ける者を全て集めるように指示を出した。

 それからブリュネ家やベルナール家がいるところへ向かい、フェルナン以外は全員、その部屋に留まるように伝えた。そしてマルタンに向かって声をかけた。


「マルタン。皆のことを頼む。ここにはローザを残していく。彼女は仏伊どちらの言葉も話すことが出来るし、万が一の際にはお前たちを守る力もある。それは保障する。だから、お前は皆の心を落ち着かせてくれ」

「――わかりました」

「それからシャルロット。そんなに悲観的になるな。まだそうと決まった訳ではない」

「でも……」


 シャルロットはドミニクの言葉を聞いても尚、不安に満ち溢れて今にも死にそうな表情をしていた。


「私が信用できないのか? 私が動くからには、ジャンもエミリーも必ず無事に戻ってくる。心配するな」


 実際、彼には自信がなかったのだが、そう言うしかなかったのだろう。



 その後、フェルナンは数人を連れて市庁舎に向かい、ドミニクはアーロンやブリジット、そして生粋のナポリ育ちであるニッコラという男などと共に情報収集を始めた。


///


 その頃二人は監禁されていた。勿論、周りの男たちが話しているのはイタリア語であり、何を言っているかもわからない。

 ただ、この期に及んでジャンはエミリーを庇い続けていた。

 そこに男が一人やって来た。彼はジャンに向かって開口一番、フランス人か?、とフランス語で問いかけた。

 ジャンが恐る恐る首肯すると、彼は名前を尋ねた。ジャンがブリュネ家の人間であるとわかると、思ったよりも取れそうだ、と言いながらその場を後にした。


///


 ドミニクたちが一度屋敷に帰って来た頃、屋敷に一通の手紙が送られてきた。

 それは、身代金を要求するものであった。


 一同がざわめく中――勿論だが家族には伝えていない――ニッコラが手紙を見て発言した。


「このような手紙には見覚えがあります。実はこの街にはマフィアがいるのですが、彼らのものである可能性が高いです」


 ドミニクはそれを聞いて重々しく口を開いた。


「マフィア――犯罪集団か」

「はい。幼い頃からその噂はよく聞きます。曰く、統治者に従わないのが美徳だそうです。金持ちかその家族を攫い、多額の身代金を要求してきます。手口は話に聞いていたのと同じです」

「そうか……………………」

「ですが、そうと分かれば糸口が見えます。実は私、そのマフィアの中に何名か知り合いがいます。私はまず、彼らにコンタクトを取ろうと思います。それから……この件に関しては公権力に頼らない方が宜しいでしょう。今こそ私たちの組織を動かすときです。一応ローマやパレルモ、ミラノやヴェネツィアからも増援を呼びましょう。特にパレルモにいる彼はギャングによく通じています」

「わかった。パレルモにはすぐに高速の船を、他の都市には馬を出せ。そしてお前はすぐにコンタクトをとれ」


 一家は屋敷の広間でその晩を過ごし、ドミニクたちは寝ずに動き、そしてジャンとエミリーは囚われたまま夜が明けた。



TIPS No.6


シャルル・マリ・ド・ボナパルト(Charles Marie de Bonaparte)


 かのナポレオン・ボナパルトの父。先祖はイタリアの血統貴族であったという。コルシカはかつてジェノヴァの支配下にあったが独立運動が何度も巻き起こり、彼はその指導者のパオリの副官として活躍した。その後親仏派となり、フランス貴族として認められた。時勢の判断はうまかったのかもしれない。尚、彼自身は革命前に没する。そして革命が起こるとコルシカを追われるなど、受難の日々を過ごすことになる。

 ナポレオン・ボナパルトがフランスで皇帝になれたのは、彼の頑張り――主にフランス貴族(すなわちフランス人)になったこと――が不可欠だっただろうが、歴史にifはない。ただもし、ボナパルト家がフランス人にならなかったら、フランスは、ヨーロッパは、世界は、どうなっていたのだろうか、非常に興味深い。

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