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泣かない少年~終~

それから、俺達は街から少し離れた田舎道をはしる。


どこかで野焼きをしているのだろうか?草の燃える独特の臭いが鼻につく。でも俺はこの臭い嫌いじゃないぜ……


そんな事を考えていると、先行している義和さんが小さな喫茶店へ入ろうとしてウインカーをつける。それにならいついていくと、駐車場にバイクをとめてこちらにやって来た。


どうやら、ここの近くに奥さんの実家があるらしく、ここで待っていてほしい。と言って5000円札を渡してくる。


「え?このお金は……?」


「ああ、和人にアイスでも食べさせあげてくれ、翔馬くんたちもコーヒーでも飲んで!」


「なるほど、わかりました。」


そう言ってこれからを察した俺はお金を受けとる。だが、1つ引っ掛かったので聞いてみる。


「あの、話しは分かりましたけど、どんな話をするかとかは良かったんですか?」


「ああ、いろいろ走りながら考えたけどやっぱり自分が悪いからね、それに、ちゃんと言わなきゃいけない事もあるし…逃げずに等身大の自分でぶつかってくるよ」


そう言うと、義和さんが和人に


「今から、お父さんはお母さんとお話をしてくるから、翔馬くんと優愛ちゃんとここにいるんだぞ」


と言って、そのあと「膝は痛くないか?」と怪我の心配だけして田舎の長い一本道を歩いていった。去り際の義和さんの顔は緊張をしているようだった。


義和さんが見えなくなり、優愛と話す。



「大丈夫かな?顔強張ってたけど」


「大丈夫だよ。きっと、大丈夫。」



和人はなにも言わずに優愛の手を握って、今しがた父が去っていった道をただ見つめていた。


「ここにいても仕方ないし、中に入るか」


「そうだね、和人君いこうか?」


優愛が和人の手を引く。が動こうとしない。


「和人君?」


「俺ここにいる。」


やはり、不安なのだろう。その小さな男の子は夕日を浴びながら、しっかりとした足で立ってはいるが、先程の父親にも負けないほど強張った顔をしている。だから俺は和人の横にしゃがみこみ、しっかりとその少年の目をみて言った。


「よーし!なら俺も和人のそばにいる!一緒にお父さんとお母さんが戻ってくるの、ここで待とう!」


それをみていた優愛が「じゃあ私も一」と言って、和人の手を握ったまましゃがみこむ。


和人は真っ直ぐにその道を見つめていた――。



――それからどれくらいたっただろうか?


二時間くらいたっただろうか?和人は一度その場に座った以外はずっとその道を気にしている。本当に子供の本気ってヤツには恐れ入る。いや、これは和人の本気か…俺ならすぐに音をあげてしまう事だろう。


そして、それに対してなにも言わずにずっと側にいる優愛もすげぇなって思う。俺が根性が無すぎるのか…?そんな事を考えていたら、その道に人影が歩いてくるのが見える。



和人も反応するが、どうやら別の人のようだ。



すぐに、「はぁ…」とため息をはいてまたその場に座り込み、真っ直ぐに道を見つめる。



するとその人影の後ろからゆっくりと歩いてくる二つの長い影を和人が見つけて立ち上がる――――。







・・・・・・・・【2ヶ月前】・・・・・・・・





ランドセルを背負った和人は家のドアをあける。


『ただいま』


『だからっ!何度言えばわかるんだ!悪かったって言っているだろう!』


『あなたのその態度は…っ!悪いと思っている人がとる態度じゃないッ!』


和人の「ただいま」は父と母の口論によりかきけされてしまう。



『じゃあッ!いったいどこまで謝ればいいんだッ!!』



―――和人は思う、こんなお父さん見たくないよ…。



『だからっ!その態度が許せないの!――ッ!もういい!出てくっ!』




―――こんなお母さん嫌だよ…。




そう言うと母親は財布とスマホだけとり、和人の立つ玄関へとやってくる。そして和人をみて、和人の手をとり、『行くよッ!』といってひっぱった。


『いたっ!お母さんいたいっ!』



ビックリして和人は母親の手を振りほどいてしまう…。



そこに父親がやってきて、母を怒鳴る。母親も負けじと怒鳴り、その後和人を一度みるが、そのまま出ていってしまった…。




今はこんなお父さんとお母さん…でも、和人は知っている。



毎日がこんな風ではない事。



本当は二人とも、とても優しい事。




ただ、今はそうなってしまっているだけだと言う事。




だから、ただ仲良くしてほしかった…。



和人にはお父さん、お母さんとの忘れらない思い出が沢山、沢山あるから。



三人で水族館に行った日、始めてイルカを見た事。



三人で水族館の入り口で写真を撮った事。



三人でババ抜きをして、お父さんばっかりババを引いて笑いあった事。



三人で買い物に行って、好きなお菓子を買ってくれた事。



三人でおばあちゃんちの縁側でスイカを食べた事。



三人で花火をした事。



三人でいる時が"一番幸せ"だった事。




―――長い長い田舎の一本道。その向こう側から少年の名前を呼ぶ声がする。


「……と!、和人っ!」


和人はゆっくりと優愛から手を離し、声のする方へ歩き始める。


「おかあ…さん………?」




とたん、転んでも、擦りむいても泣かなかった少年の頬を大粒の涙が流れ落ちる―――。




「おかあ………さん、?おかあ"……うっ、さ"っ!おがあああざあんッ!うう~っああああああああっ!おがあざあああああんっ!ああああああっ!!うっうっ…あああああああああああああああッ!!」



どれだけの寂しさをその小さな体に抱え込んでいたのだろうか?



どれだけの悲しみをその小さな体に抱え込んでいたのだろうか?




少年は駆け出す。もう一度"三人"になる為に、その為に、今まで転んでも耐えたのだ。この日のために一度もお父さんに「寂しい」と言わなかったのだ。




『男の子は泣いちゃいけない』



お母さんとの約束を守ったのだ…!



それを見た長い二つの影も駆け出す。



それを償うように。



その当たり前をもう一度掴み取るために。



三人と言う幸せをもう一度結び直すように。



その最愛の名前を呼びながら……



「和人ッ!和人っ!」



長い長い田舎の一本道の真ん中。そこで、和人は母親へと飛び付く。それに答えるように人目もはばからずに両膝をついて母親は両手を開ろげ、しっかりと和人を受け止めた。


「ごめんねっ!和人ごめんねっ!わたっ!……私がかってにっ!!、和人っ!和人!ごめんっ!ごめんねぇ!」


「ああああっ!!おがあざあああああんッ!ううぅっ!おかあさっ!あああっ!おかあさっ!お母さんっ!!」




茜色から薄い紫色に空が染まってきたころ、ちょっと早めに顔を出した一番星に俺はめったにしない願い事ってヤツをやってみる。


―――もう二度と、この幸せがほどける事がありませんように。


その柔らかく暖かな温もりを、この少年が失いませんように


そんな事を柄にもなくお願いしてみる。



隣で声を殺して泣いている少女の頭を抱きよせ、トンボが、家に帰ろうと飛んでいく空を仰ぎながら―――。


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