泣かない少年⑤
それから、「ど、どど、どうしよう…ッ?!」と慌てる優愛をなだめ、事情を聴こうとしたら、またスマホが鳴る。
二人してビクッ!となりながら優愛のスマホを見るが、どうやら違うようだ。俺はスマホを取りだして応答する。
「もしもし?」
{「ごめんよ!翔馬くん!君20越えてなかったんだね!全然気にしてなかったよ!はっはっはっは!」}
いや正直焦りましたよ。焦りましたとも!でもまぁ、自分も話をしていなかったので、そんなことは言えない。
「いや、俺も年齢の話してなかったんで、すんません。言おうとは思ったんですが出た後だったんで……」
{「いやいや、私が確認するべきだったよ、ごめんねぇ!それで、この後なんだけど」}
「はい」
{「次の降り口で降りるから、その先のコンビニかなんかで待っとくよ!見つけたらまた電話するね!あ、あと和人が喋りたいらしいから、いいかな?」}
「あ、大丈夫ですよ」
{「ははは、ありがとう!かわるよ、ほら、かず、翔馬く…」「翔馬!?今ね、俺アイス食ってる!!」}
「そうか、良かったなー!なんのアイス食ってるんだ?」
{「ン?優愛のっ……むばっ」ブツッ!…プー・・・プー・・・}
優愛の、むば?むばって何!?
「おい、和人?、和人??……ダメだきれてる。かけなおすか…」
着信履歴からすぐにリダイヤルする。が、でない。
「ありゃ?向こう出発したかな…?」
仕方ないとスマホをしまい、優愛に向き直る。少しうつむいて考え事をしている様子だ。
「おい」
声をかけるが聞こえていない。
「おい」
「ふぁ?あ、へ、へい!はい!」
気の抜けた返事にちょっと心配になる。
「おまえ大丈夫か?…本当は今日戻った方がよかったんじゃないのか?」
「――っ。」
またうつ向いている。
このままじゃ拉致があかない。と思い、俺は優愛の頭をくしゃ、くしゃ!と雑に撫でる。
「ちょっ…!なにすんの!」
軽く驚く優愛に対し、俺はニッと笑って言った。
「正直、おまえにどんな事情があるか俺は知らねぇし、話さないから理解もしてねぇ。でもな、おまえがそんな顔になるってことは、あまり良い話じゃねぇ事は分かる。もう一度、これが最後だ。…本当に"大丈夫"なんだな?」
「うん。大丈夫」即答。
でも、たぶん…
「違うんだよ…おまえのその大丈夫は自分の事情を考えてのものだろ?俺は事情を聞いてるんじゃないんだ。"優愛自身"は、大丈夫なのかって聞いてるんだ。もしも、苦しいと思うなら、俺でよければ話くらい聞くから、あんま溜め込むなよ。あと、親父さんには、後でかけなおせそうなら、かけなおした方がいいぞ」
余計なお世話だっただろうか?だが、心配なのは事実だし、出来る事があれば力になりたい。とも思う。
優愛は少し困った顔をして、そのあとゆっくり「うん」とうなずいた。
それから、笑顔を見せて「翔馬は、そんな感じで女の子を口説くんですかねぇ?」といたずらっぽく笑って、その後バイクに乗る時また、小さく「ありがとう」と言った。
――さて、それから俺達はなんとか義和さん達と合流をはたし、群馬県へと向かって足を進めた。
途中、休憩によったコンビニで和人をみていると、はしゃいで駐車場で転んでしまう。それをみて思わず声が出る。
「うわっ!和人!大丈夫か?」
「和人君大丈夫!?」
俺と優愛がすぐに駆け寄る。
レジで会計をしていた義和さんも、慌てて出てきて和人を拾い起こす。
「和人!大丈夫か!?痛いとこはないか!?」
慌てて怪我を探す義和さん。どうやら膝を擦りむいてしまっているらしい。俺は和人の怪我を見てみる。
膝は出血し、結構な範囲を擦りむいている。それを和人は座り込み「ふぅー!、ふぅー!」と涙目で息をはきながら歯を食い縛り膝のまわりを摘まむようにして痛みに耐えている。そして
「ぜ、ぜんっぜんいたくねぇし!」そう言って俺達にニッと笑って見せる。
すぐにコンビニで簡単な消毒液と絆創膏を買って、優愛が手当てをする。
シュッと傷薬を膝にかけると、「ぐっ!」と和人が言って歪んだ顔で痛みをこらえる。それをみて優愛が言う。
「和人君はすごいね、私が和人君くらいの時にそんな怪我したら絶対に泣いちゃうよ。」
「俺は男だからな、泣かないんだ!」
「和人君はカッコいいね」そういって優しく笑う優愛。
「お母さんに言われたから!男の子は泣くなって!」
和人はそう言ってまた、ニッと笑った。俺はそれを聞いて和人の頭を撫でる。
「そうか、お母さんとの約束なんだな!偉いじゃん和人!」
「ひひひ!」
そんな光景をみて、ホッとした様子の義和さん。それから、擦り傷だらけの小さな勇者は、お父さんのサイドカーに乗り込む。
それを見届けて俺達もバイクに乗る。その時なんとなく時刻を確認する。
現在はPM13:45昼過ぎらしい。流石に腹が減ったな…
そこで、出発前に義和さんのところへ行き昼食の提案をする。和人はちょこちょこと何かを摘まんでいたにもかかわらず、「ご飯!ご飯!」と言っている。
あと30分ほどで群馬県内に入ると言ったとこなので、話し合った結果県内に入ってからと言うことになった。
――それから、群馬県内に入った俺達は遅めの昼食をとることにする。途中一度バイクを適当な場所にとめて義和さんに相談すると、お薦めはパスタだとの事。更には「日本一周してるなら一度食べときなよ!」とまで言われた為、「そうしようか?」と優愛に聞いてみると、優愛は「もうなんでも良いから食べたい」と言っていたのでそこに決めてしまう。
話によるとどうやら、この近辺に有名なパスタのお店があるらしい。
それから、義和さんについて少し走ると相談した所からそんなに遠くないとこにその店はあった。
とっくに昼も過ぎたと言うのにそこそこ駐車場に車がある。バイクを降り、「お腹すいたぁ」とか「ご飯!ご飯!」とか言いながら店内に入る。すると店員がすぐに現れ、案内されて席につく。
そしてメニュー表をみて驚く。
パスタに、豚カツのってね?何これ。どう言うことなの。一度メニューを閉じてまた開く。
パスタに、豚カツのってね?いや、やっぱ乗ってるはこれ。
そのメニュー表には、どう見てもミートソースをパスタと豚カツにかけたような写真がのっている。
頭の上に完全に『?』を出してる俺に義和さんが笑いながら言う。
「ははは、ビックリしたろ?珍しい組み合わせで、でもおいしいから食べてみな」
嬉々として語る義和さんに促されるまま、俺も優愛もそれを頼んでみる。十数分してから、店員さんが料理を運んできた。
どう見ても、豚カツのってる。パスタに。
まあ、絶対に不味くはないだろう。なんなら豚カツにミートソースをかけただけだと思えば問題ない。恐る恐る口にいれてみる。
うおおおおお!なんだこれは!パスタと言うよりは完全に肉を食っているような感覚になる!むしろメーンはこの肉じゃね!?
「うわうまっ!」
俺のこの声を筆頭に優愛、和人も食べ始める。
「うわっ!本当だおいしい!」
和人も一生懸命食べている。
「はっはっはっは!それはよかった!」
こうして昼食をすませた俺達は、いよいよ橘家の問題解決にあたるべく、和人のお母さんの所へと歩みを進めるのだった。