出発の日③
あれから、一時間近くたっただろうか?
翔馬は予備用のヘルメットを被せた優愛を後ろに乗せ元々あった装備を横にかけて、リュックを背負ってもらい、日もくれてきた頃とある場所を目指してバイクを走らせていた。
「ねぇ!どこにいくの?」
「え?」
バイクが風を切り上手く会話ができない。
途中赤信号に止まったときようやく会話が成立する。
「ねぇ、どこにいくの?」
「ん?ああ、とりあえず風呂だな。」
「え?お風呂?」
「そう、お風呂。」
「なんで?」
「なんでってそりゃ、行きたいからだろうよ」
「そうなの?」
「そうなの。まあ、付き合わせて悪いんだけどどうしても今日行っとかないとだったんだよ。だから頼むわ」
「そうなんだ、わかった。まあ、私は送ってもらってる身だし付き合うよ」
そして、信号がまた青になりバイクが走り出した。
優愛は、話をしてみるとわりと明るい性格らしく、俺のくだらない話にも笑顔で対応をしてくれた。
そうこうしながらしばらく走ると、とある温泉郷に到着した。
「わぁッ!すごいね!いきたかった所ってここ?」
そこには湯気がゆっくりと空へ登り、ポツポツと明かりの灯り始めた日本情緒溢れる建物が並んでいた。
自慢の建物には『箱根饅頭』や、『温泉蒸しプリン』等の文字が書かれた登りが風に躍り、道行く人の視線を集めている。
「そう、知らないか?箱根温泉。名前くらいは聞いたことあるんじゃないか?」
「わかんないけど、でもすごいね!!日も陰ってきててすごい風情を感じる!ふふふ!翔馬についてきて良かった!」
笑顔が眩しい。君はそんなに無邪気に笑ってさっきまでとは全然違うじゃないかフフフ(鼻高々)
「まぁ、付き合わせてるしここは俺が出すから気にしないでいいぞ好きな温泉選べよ」
「え?悪いよ、それに乗せてもらってるのにこんなことまで」
「それはそれ。これはこれ。大丈夫だ、問題ないノープロブレムだ」
「それ同じ事2回言ってるから」
そう言って、優愛はけらけらと笑う。
「そういや、おまえ着替えは?あるの?」
「あ…えっとたぶんタオルだけなんとかなれば下着はあるし、服も…あ!あるある」
「そっか、なら大丈夫だな」
そんな風に他愛ない話をして俺たちは入る温泉を決め、近くの橋の上で待ち合わせることにする。
30分ほどたったころ、橋に行くが優愛の姿はない。どうやら、先についたようだ。橋に腕を乗せ、日の沈んでしまった温泉郷の灯りを見ながら今日一日を思う。
まぁ、西日のもと渋滞に巻き込まれたり目当てのラーメン屋は休みだったり、家出少女ひろったりと何かと濃い1日だったけど、まぁいっか。
だがしかし、泊まるとこどうすっかな…初日は温泉だけ贅沢して適当にスーパーで惣菜買って、テントの予定だったけどさすがに女の子とテントに二人はかなり気まずくね?
てか、理性が持つ自信がない。湯上がり女子高生とか…エロくね?
やめろ!考えるな、でも1日だけだし俺が外のベンチとかで寝るか?虫除けちゃんと入れたっけな?
がさごそと、俺が肩掛けの鞄を探っていると急にTシャツのスソを引かれて振り替える。
そこには某アイドルグループとかにいそうな可愛い系の女の子が濡れた黒い髪をポニーテールにして、手でパタパタとピンク色に火照った頬を扇いでいた。
「おまたせ」
知人か、彼氏と間違われているのだろうか?
「えっと、どなたでしょうか?」
「へ?」
間の抜けた声を出して、女の子がこっちをみる
すると次の瞬間
「もぅ!何いってんの?私だよ!ははは」
と聞き覚えのある声が女の子からかえってくる。
「え?…は?え?」
「優愛だよ!ふぅ…あっつい」
そう言うと、着ていたタンクトップの胸元をつまみパタパタして胸に風を送り始めた。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!?」
「わっ!なに!?ビックリしたなぁもぅ!」
「優愛!?」
「なに?」
「優愛?!」
「だから、なに?」
(いや、いやいやいやいや!どうしたの!?どうしたの!!そのビフォーアフターッ!!!!)
「おまっ!金髪は!?どこに置いてきたんだよ!」
「え?ああ、あれは1日用だから」
「1日用!?そんな落ちるもんなのかアレ!?…てか、髪黒っ!!あと睫毛は?!」
「え?なに…?普通お風呂上がったらつけないじゃん」
「まじか……。」
「なんなのよもぅ」と口を尖らせる優愛を見て咄嗟に思ったことがそのまま口をついて出てしまう。
「可愛い…」
「え…?なっ、はぁっ!?////」
「いや、まじでおまえ絶対そっちがいいぞ!あんな格好なんかしなくていい!おまえはナチュラルに、そのままが絶対良い!」
気づいたら、肩を掴みヤンキーは卒業しなさいと全力で彼女に話していた。
「わかった!わかったから!」
両手を前にして俺を制止する優愛を見てはっ!となり、我にかえる。
「あ、ごめんなんか急に、でもそのくらい驚いたんだよまじで!」
「はいはいわかったわかった」
笑顔で年下にあしらわれ、テンションを落ち着ける。
それから少しだけ温泉郷を歩き、箱音温泉名物だと言われる『湯気もち』とやらを頂く。
「うわっうまっ!何これ!幸せの味がするよっ!」
優愛が、あまりのうまさに驚いている様子だが、俺はおまえの変身ぶりにまだ整理がついてないよ。とか思いつつスマホを取り出す。結局今日はどこかのビジネスホテルをとろうと思う。
この状態でテントは非常にまずい。世の男子諸君には共感していただけると思うからこそ、あえて言うが湯上がりの女の子とは我々健全な男子にとってはただの『毒』なのだ。
正直あまり意識していなかった女子でさえ、そのフローラルな香りと湿った髪の艶っぽさとで魅了してくる!挙げ句触れることはおろか、近づく事でさえ躊躇してしまうほどに神聖な者のように思えてならないのだ!
おいそこの女子!オーバーとかじゃないからな!ガチだから!男の子だって大変なんだからっ!
そんなことを考えてスマホをいじっていると、急に優愛に声をかけられ少し驚いきながら振り替える
「泊まるとこ、決まった?」
「お!?お、おうあとは部屋をどっちにするか選んでだな、、、」
スマホの画面に視線を、戻す。
『予約完了』の文字が。
【大人二名様】
→【一室】ダブルタイプ
【禁煙】
優愛がポツリと呟いた。
「【一室】…」
「え"?ち、違うんだよ!違う違う!これはミスタッチでッ!」
「……じー」
超絶じと目でこっちを見ている…ッ!!
「バカやろう、んなわけあるかミスタッチだよ。ミスタッチははは、そんなおまえ、おまえそんなははは…ちょっと電話してきます…」
そういってホテルに電話をし、予約の変更をお願いした。
***
ーー西横インホテル
【ツインルーム】
「……じー…」
優愛が超絶じと目で見てくる
「正直すまんかった」
案の定空きはなく、優愛に許可を得てツインルーム(ベッドが二つの部屋)に変更で勘弁してもらうことに。
「ふふ、まぁ大丈夫だよ、わざわざ準備して貰ったのにこれ以上はわがままになっちゃうもんね!ああーッ!つかれたぁ~」
バフッとベッドに倒れこむ優愛
「いや、まじですまんかった俺が泊まるとこはどうにかするとか言っときながから」
「いいよぉ~ふふふ、お布団気持ちー」
「あの、まあ襲ったりはしないから」
ポリポリと頬をかき気まずそうにする俺にたいして
優愛は布団から顔半分をだし
「ほんとにぃ~?」
といたずらっぽく笑った。
ーーそれから、優愛は自分の持ってきた本を読み始め、俺は荷物を少し整理していた。
すると喉が乾いたことに気付き、回りを見渡すが飲み物がない。
備え付けのお茶とコーヒーはあるが、お湯を沸かすのも面倒だと思い、ビジネスホテルに備え付けてある自動販売機へ行くことにする。
優愛に飲み物の事を話し、何が良いかを聞いてから、自動販売機へと向かった。
エレベーター内にある階層マップを見て、自販機のある階へ向かい目当ての飲み物を購入する。
またエレベーターに乗り、部屋へと戻るためエレベーターを降りて左に曲がる。
すると目の前に違和感が飛び込んでくる。
(なんだろうか?この黒い影は、どうみても子供に見える…ま、まさかっ! 幽霊!?いやいやそんなまさか…いやでも……)
目を擦りよく目を凝らしてみる。
どうみても自分の部屋の前に男の子が立っている。部屋を間違えたのだろうか?回りを見るがその子以外人影はない。
内心めちゃめちゃビビっているが、平常心を装い溶けかけの氷みたいな情けない勇気を振り絞って声をかけてみる。
「よぅ、少年どうした?」
少年はこっちを振り替える。ふむ、なかなかのイケメンである。
そしてどうやら人間のようだ、安心してもう一度改めて声をかける。
「なあ、君はこんなところでどうしたんだ?」
すると少年は端正な顔立ちをそのままに、口を開く。
「お母さんに置いていかれた」
「……ん?え?」