出発の日②
ーー「私も連れていってくれない?」
(え?なにコレ映画?もしくは、漫画。いや、いやいや
彼女の頭でどうすればそうなったんだよ。見ず知らずの男に連れていってなんて、最近の子はそうなの?すぐについていっちゃうの?ダメだよ!もっと危機意識もたなきゃ!)
たぶんポカンとした表情の俺は、ゆっくりと口を開く
「えっ…と…」
それを遮るように少女は口を開いた
「…やっぱ、ダメだよね?急に意味わからないもんね」
「いや、その、何て言うか…年いくつ?」
「17だよ」
【現】【役】【J】【K】
「…え??Really?(りありー?)」
本当に?て言うか、いやいやダメでしょ。思わずめちゃめちゃ発音良く英単語出たわ。未成年をつれて歩くなんてそんな!お父さん!お母さん!
あなたの娘さん危機管理能力低すぎますよ!
「いや、あの、なんつうかさ」
「うん」
「まず、まさかの年下ってのが一点、それとさすがに女子高生つれまわしてたら、俺捕まっちゃうと思うんだよね」
「大丈夫だよ。見た目この通りだし」
は?何が?何がこの通りなの。パツキンだから?違うでしょ。
もう17にしか見えねえよ、だいたい年なんてな
それっぽいの言っときゃ大概はどうとでも…待てよ
「まだ女子高生じゃない可能性が?」
「え?なにが?」
「んぁ?いやいや、こっちの話だ。なんにせよダメだ俺捕まりたくねえし」
「……そう…。」
うわっ!すげえシュンとされたんだけど、見た目とのギャップ萌えが!って逆ギレとかはしないんだな…。
少し話を聞いてみるか。
「なあ、親は?その…」
「え?お父さんはいるけど、海外」
ここでお母さんと言う言葉がでないのは、離婚か、それとも亡くなられたか…まあ聞くのは野暮だろう。
「家は?どのへんなの?」
「北海道」
「そうか。ってええええええええええええ!?ここ関東だけど?」
「うん」
「え?何しに関東へ?」
「SNSで知り合った人に会いに来たんだけど、襲われそうになったから逃げてきちゃった」
お父さん!海外行ってる場合じゃないですよ!娘さん大変が危険ですよ!とか思っていると少女は続ける。
「びっくりしたよ。本当に…男の人の力の強さとか優しい人が急に怖くなったりとか」
「そりゃまあ、災難だったな…てかじゃあなんでそんな怖い思いしたのに俺なんかに声かけたの?」
「乗ってたタクシーが事故って途方にくれて歩いてたら財布見つけて、バイクにアレがあったから」
少女はまたバイクを指差して続ける
「あとは、何となく。泊まるとことかもないし…」
「そうなのか…って、ん?え?」
あの子かあああ!俺のハプニングデイの引き金!渋滞の魔術師!
マジかよ。てかこの子ちょっとズレてない!?
思わず口をついてでる。
「黄色いタクシー?」
「うん、え?なんで…」
「ああ、っと。とりあえず事情は何となくわかった。つまり北海道に帰りたいけど、足がないと…」
警察に頼らないのは理由があるんだろうか?
「うん、ちょっと違うけどそんな感じ」
「なるほどな、そうか。まあそれなら空港までは送ろうか」
「え?本当に!?」
「ああ、でもそこまでな。飛行機代はあるか?」
「うん!カードがある!」
「カード!?クレカかなんか?まあ良いか。こっからなら二時間くらいだな…でもええと、時間的に今日は無理だから明日か。泊まるとこは俺がどうにかしてやる」
ーー季節は夏の終わり。関東のとあるラーメン屋の駐車場。
全てはそこから始まる。
「それと、俺の名前は九重 翔馬。君の名前は?」
一度しかない人生で、とても短い子供と大人の真ん中の時間。
「私の名前は…
一番キラキラしていて輝いてる時間。出発の日はそんな門出を祝える日であって欲しくて、嫌だった日々を飛び出した。
そんな日の、一番優しい風が少女と俺の隙間を吹き抜けるーー。
宮崎 優愛、よろしくね!」
ーー吹き抜けた風がちょっとしたワクワクを運んでいく。
何処までも、何処までも、これから出会う人々へ、これから出会う物や場所へ。
風が空へと上がるとき、近くの木々がカサカサと始まりの合図を鳴らした。
「泊まるとこって…"えっち"なとこじゃないよね?」
「何いってんだこいつ。」