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女子小学生に甘えたい  作者: 正守証
第一章 冬
6/18

断機する心に / 前編

 明楽と秋葉原へ遊びに行って、一週間が経った月曜日。

 相変わらずさくらからは音沙汰なし。一方、それと反比例するように茜里との噂は広まっていき、今では教師までもが知っている。

 もしも僕が主人公で、僕を中心とした物語が書かれているのだとしたら、僕はすぐに小説を放り投げて二度と開かないだろう。天使のようなさくらは登場せず、代わりに鬼のような茜里だけフラグが立って立って立ちまくる。こんな小説絶対読みたくねえ。

 で。

 その日もいつものように登校していると、曲がり角からひょっこりと顔を見せた少女がいた。


「‥‥‥‥‥‥お?」

「ふぁい?」


 目に溢れんばかりの涙を募らせていたその少女は間違いなく彼女──さくら、であった。

 声を出してしまった僕に振り向いて、そして固まる。動揺していた。学生ならば登校時間のはずだが、その背中にはランドセルが背負られていない。どころか、荷物など持ち合わせていないような、まるで外出する予定がなかったような。

 断定はできないが、恐らくこの動揺ぶりはいまにも大泣きしそうな彼女の様子と何か関係があるのだろう。

 僕は遠回しに尋ねた。


「‥‥‥なあさくら、今日は学校ないのか?」

「えっ、い、いえ‥‥‥あの、今日は‥‥‥」

「何かあったのか、僕で良ければ相談に乗るけれど」

「‥‥‥‥‥‥」


 考え込むように、彼女は人差し指を下唇に寄せ、そして目を細めた。うーん、と唸っている。

 彼女の後ろには登校する桜桃高校の生徒が見える。全員が全員僕らのほうを向き、噂をする者もいれば凝視する者もいた。

 二分近く微動だにしなかった彼女だったが、やがてその小さな口を開いた。


「相談に乗ってください、マコトさん」

「よし、とりあえず落ち着いて話せるところへ行こう」


 僕はさくらの手を握り、そして踵を返し歩き出した。後ろからの視線が痛くとも、今は彼女を安心されるほうが優先だ。

 このせいで「茜里を振って付き合い始めた女子小学生と手を繋いでた」なんて噂が教師にまで伝わりそうで恐い。あながち間違ってないから恐い。

 ていうか僕のロリコン説が広まりそうでヤバイから一応言っておくけれど、僕はロリコンじゃない。考えてくれ、僕は女児向けアニメが好きなのだ。そして女児向けアニメの主要キャラクターは中学生であることが多い。ほとんどね? 全員じゃないよ? とにかく、ロリコンは小学生までという定義をどこかで聞いたことがある。つまり僕はロリコンじゃない。

 とりあえず僕らは公園のベンチに向かった。この時間なら誰もいないし、ゆっくりと会話ができるというわけだ。



「‥‥‥えっと、今日ですか。学校が休みというわけではありません。ただ、学校には電話しました。学校の先生には事情を話したらすぐにオッケーと言われました。

 事情は説明しづらいんですが、簡単に言えば‥‥‥お母さんが亡くなりました。

 それで、今日は葬式だったんですけど、お祖父ちゃんと喧嘩してしまって。

 お祖父ちゃんですか? 好きではないです‥‥‥というか、嫌いです。私を殴りますし、お祖父ちゃんのほうも私のことが嫌いみたいです。

 母子家庭、って言うんでしたっけ。お母さんとお兄ちゃん、それに私だけで暮らしていたので‥‥‥これからどうなるのかもわかりません。おそらくですが、お祖父ちゃんに引き取られるんだと思います。いえ、お祖母ちゃんはいません。

 この先、自分がどうなるのか考えると恐くなって‥‥‥今まで日常だと、普通だと思っていたことが消えていくようで‥‥‥恐くて、それで逃げ出してっ!

 ‥‥‥あっ、その、ごめんなさい、取り乱してしまって」

「なるほど、ね。難しい問題だな。それで、この件に関してさくらは、僕に何をしてほしいんだ?」

「え、っとそれは‥‥‥」


 恐らく彼女は助けを求めているのだろう。直接的なのか間接的なのか、そこは定かではないが。いくら口調が丁寧で語彙が豊富でも、彼女は小学生なのだ。何かを考えだすには、あまりにも経験が少ない。

 何も見えない暗闇に放り込まれ、救いを待っているような──そんな気分なのだろう。

 第一、僕のほうから「相談したいことはないのかい?」と半ば見透かしたような台詞を口にしてしまったのだから、それで「何をしてほしいんだ?」と訊くのは筋違いだろう。


「今日はどうする。葬式には行かないのか?」

「行きたいです。お母さんは大好きだったから、こんな別れ方は──やです」


 大好きだった、か。背負いこんでいるんだろうな、さくらは。

 内心では、今にでも泣きたくて──逢いたいはずなのに。その感情を必死に誤魔化しているのだろう、誰かに相談することで。


「とりあえず、葬式を目指そう。場所はわかってる?」

「ごめんなさい、知らないです」

「お祖父ちゃんはまだ家に?」

「九時に出発と言っていたから──もう九時半ですか。お祖父ちゃんたちは家にはいないと思います、葬儀場は近くで済ませると言っていたので始まっているかも──」

「お喋りしている場合じゃないな。すぐにでも出発しよう」


 伊達に進学校には入学していない。いずれ必要になる知識だと、この近くの葬儀場は全て記憶してある。

 とりあえず僕らに出来るのは、近場の葬儀場から一件ずつ探すことだけだ。

 さくらの小さく冷たい手を握りしめた僕は、葬儀場へと駆けていった。

 文字映えとかけっこう気にします。

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