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女子小学生に甘えたい  作者: 正守証
第一章 冬
4/18

意識したら既にもう

 その日の放課後、職員会議があるため早めに学校が終わったから秋葉原へ遊びに行こう、と明楽(あきら)が言ってきた。

 断る理由もないのでオッケーし、僕はいま秋葉原に来ていた。隣には明楽が満面の笑みで立っている。こいつ秋葉原に来ると急にご機嫌になるのだ。曰く、「実家に戻ってきたような、そんな気分になる‥‥‥」だそうだ。ちょっと何言ってるかわからない。


「それじゃあ、まずはどこ行こうか」

「歩いてすぐだし、ヨドバシでカンプラ見ていこうぜ!」

「そうだな」


 歩くこと数分。建物の中に入り、六階のプラモデル売り場へ足を運ぶ。

 ここでは店員が作ったであろうカンプラがショーケースに飾られていたり、プラモ専門店ですら探しても見つからないようなプラモを簡単に手に入れることができたり、とにかく何かと素晴らしい場所なのだ。あと面積めっちゃ広い。


「おぉ、サクだ! やっぱりシオンの量産機はかっこいいなぁ~」

「サクは僕も好きだ。かっこいいくせに、いっぱい飾ると可愛く見えてくるのがすげえいい」

「そう! かっこいいし重装備なのにどこか馴染みやすいんだよなぁ!」


 三十分ほど見て回り、結局新品のカンタムモデルを二つほど購入。

 続いて僕らが向かったのはメイド喫茶だった。ちょうど三時ごろだったし、おやつ代わりに入ろうというわけだ。さくらとは絶対にすることのできないこんな楽しみ方も、秋葉原にはある。


「お帰りなさいませ、ご主人さまっ!」


 幼馴染が実はメイド喫茶がアルバイトしていた、などというラブコメ展開は一切なく、見たことも話したこともないメイドさんがご主人さま呼ばわりしてきた。あぁ、幸せ。

 メイドさんのことをじっと見つめていると、「どうかされましたか?」と覗き込むように訊いてくる。あぁ、可愛い。

 席まで案内され、明楽と向かい合う形で椅子に座る。用が済んだメイドさんは、常備している丸いお盆を両手で抱え、軽くお辞儀をして仕事へ向かう。あぁ、ええ娘や。


「頑張ってるなぁ、メイドさんたち。微笑ましい‥‥‥」

「わかる、わかるぜ‥‥‥」


 待つこと数分。頼んだ紅茶がやってくる。量が異常なほど多い。コップ三杯分くらいあるんじゃないかこれ。

 砂糖を大量にぶっ込む。多量の牛乳をぶち込む。飲む。美味い。むふ。


「さて。画像を貼り付けてツイッターに投稿するかな。『可愛いメイドさんが作ってくれた紅茶。あぁ~いいっすね^~』、と」

「‥‥‥いつも思うけど、誠ってネットの中だと人格変わるよな」

「そうか? メイド喫茶に来てテンション上がってるっていうのはあると思うけど‥‥‥ん?」


 さっそく返信が来た。開いてみると、なんと返信してきたのはさくらだった。文字列を読む。


『メイドさんくらい、私がなってあげるのに』


 ごくり、と固唾を飲んだ。ちょっと嫉妬しちゃってる感じの可愛いこの文章は、女子小学生が書いているのだ。そう考えると何だか妙に犯罪臭く、ぞくり、と背すじが凍った。

 僕の態度が気になったからか、明楽が「どうした?」と問いかけてくる。


「あぁいや──最近、仲のいい女子がいるんだよ、さくらっていう名前の。その娘がちょっと恐ろしいこと言っててびっくりしちゃったわけ」

「さくら、ね」


 明楽が突然考え込むような表情になる。眉間にしわを寄せ、口を尖らせ、そして目を細く。

 踏み込んではいけない予感がしたが辛抱堪らず、僕は「どうかしたのか?」と訊いてしまう。


「俺の妹と同じ名前だったんでね、ちょっと気になっただけさ。それより、そろそろ行こうぜ。いつまでもここにいるわけにはいかないし」

「ああ、そうだな」


 どこか腑に落ちなかったものの、明楽の事情をより深く知るのも悪いと、僕は結局何も言いだせなかった。

 僕らが次に向かったのは、ゲームセンターの──プリシスコーナーである。


 秋葉原のプリシスコーナーは、店によっては多量のプリシス筐体を設置しているところがあるため、僕たちはほぼ並ばずに遊ぶことができる。

 今回はさくらがいたときとは違う、コーデもポイントが高いものを選び、ヘッドホンを装着。軽く深呼吸。

 僕らが目指すのは週間ランキング百位以内。週間ランキングは公式サイトで確認できるのだが、上位には金に糸目をつけないおじさんたちで埋まっているため僕ら学生が週間ランキングに入るのは難しい。

 だからこそ、燃えるのだ。


「プリシスへようこそ!」


 ヘッドホンのため、嬌声が耳に残る。

 ポイントの高い曲を選び、コーデ画面へ進む。コーデ画面でもまたポイントの高い衣装を着せる。メイド服のような可愛い衣装だ。

 そしてトモダチケットを読み込みチームを結成する。読み込んだのは明楽のマイキャラである「きらり☆」と「さくら」だ。

 そして──ライブが始まる。

 かち、かち、かち、かちかち。序盤は最高ランクでクリア。冷や汗がどんどん溢れてくる。瞬きをすることすら忘れ、目は充血。手汗が止まらない。

 そしてマジカルタイムがやってくる。始まる数秒前に大きく息を吸い、そして止める。


「んッ!」


 押す、押す、押す。全身真っ赤になってなお、押し続ける。痛い。止めたい。でも、止めちゃいけない。

 最後の最後、息が続かない。最高ランクまで達したと表示されたあと、「ぷはっ」と溜め込んでいた息を吐く。

 残りは簡単に最高ランクで突破。週間ランキングに入る自信は、正直言って‥‥‥ある。

 ポイントが発表される。結果は39,620ポイント。


「ダメだな、これじゃあ良くても二百位‥‥‥」

「おい、誠。‥‥‥言いづらいんだけど、たぶんそのさくらが足手まといになってるんだと思うぜ。ほら、コーデのレアリティが低いだろ? だからもっとポイントの高いコーデのトモダチケットを読み込めば‥‥‥」


 さくらのトモダチケットは、ポイントよりも可愛さを重視している。それで必然的に、ポイントが下がってしまっているのだ。

 つまりさくらのトモダチケットじゃなく、もっと別の、ポイントの高いコーデを着ているトモダチケットを使えばあるいは、というわけだ。

 少し考えてから、僕は明楽に笑顔で言った。


「──やっぱいいや、ランキングなんて。本来はそんな風に楽しむものじゃないしな。僕が強くなれば、さくらがいても高得点は狙える。それに得点のためにさくらを使わないなんて‥‥‥それはやっぱり、何か違うと思うから」

「そうだな。俺もそっちのほうがいいと思う。それじゃあ次は本屋にでも行くか」

「え、お前はやらないのか?」

「実は今朝、近所のゲーセンで楽しんでたんだよ」

「うわ、ずりぃ」


 本屋、同人ショップ、フィギュア店。そして夕飯を一緒に食べ、気が済むまで秋葉原を堪能した。

 親友がいて、本当に良かった。明楽がいなければ僕は、今ごろどうなっていたのだろう。独りでプリシスに没頭して、そして誰からも共感されない社会不適合者になってしまっていたかもしれない。

 明楽がいなくなった想像をして、胸が苦しくなった。

 いいじゃないか。

 明楽はいるのだから。いなくならないのだから──それで。

 タイ料理ブームが来ています。パクチーうめえ└(՞ةڼ◔)」

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