薄れる因果は沸騰し
翌日の日曜日、せっかくの休日を僕は浪費させてしまった。頭が麻痺しているというか、整理がつかないというか。
たまたま知り合ったネットの友だちが女子小学生で、しかも僕と同じ町に住んでいる‥‥‥。
いや、別に小学生が嫌いなわけではなく、というか好きな部類なのだ。
女児向けアニメが好きだと言っても深夜アニメなどを見ないわけでは断じてなく、むしろ数だけ言えば深夜アニメのほうが見ている。そうするといわゆる「萌えアニメ」も見るようになる。萌えアニメでは女子小学生がよく癒し系のキャラクターとして描かれるわけで、当然僕も大好きなのであった。
けれど現実でこういうラノベ展開に直面してしまうと、やはり周りの目を気にせずにはいられない。
「(自分から話しかける、ってのも難しいなぁ)」
そうなるとさくらからのメールを待つしかないわけだが、一日中スマホをいじって待っていたにも関わらず何も来ない。
そんなことをしているうちに、僕の休日は終わってしまったのだった。
翌日、月曜日。昼休みに入ると同時に、僕のクラス──2年B組──の扉を豪快に開け、朱宮 茜里が教室に入って来た。
鬼のようにどすん、どすんと豪快な足取りで僕の許までやって来て、そして先日のように胸ぐらを掴まれる。
「ちょっと来なさいッ!」
クラスからは「やっぱ噂は本当だったのか」「姫がキレてらっしゃる」「だからあんな言葉遣いなのか」「宮野 誠、あいつやっぱり」「恐すぎワロタ」などと声が上がる。どういうことかさっぱりわからないまま、僕は茜里に連れていかれた。
行き先はやはり、屋上である。
「なんでアンタが、映画館デートしてアタシを振ったことになってんのよ!」
「‥‥‥‥‥‥は?」
「まだ聞いてないわけ? 本当グズな男よね。いいわ、教えてあげる。
一昨日、映画館で会ったでしょう? あのとき、他にもこの学校の生徒がいたらしくてね。アンタがアタシよりも女子小学生がいいって言って、振ったってことになってんのよ。あー、もう意味がわからないわ」
「僕も意味解らん‥‥‥」
「そういえば! あのときの説明をもっと詳しくなさい! 警察に通報しようかと思ったわよ!」
「ああ、あれな。ネットで女の子の友だちを作ったんだよ。それで先日初めて会ったんだけど、彼女が女子小学生だったっていう‥‥‥」
「なによそれ、ただの痴女じゃない。どうせアンタともセフレになろうとしただけなのよ、きっと」
「そんなんじゃねえよ、訂正しろ」
「な、なによ。何で怒るのよ。あの小学生のことが好きなわけ?」
「‥‥‥茜里には関係ないだろ」
そう言って僕は、足早に屋上から去った。
どうしてこうも、付き合いが長い人間には強く当たってしまうのだろう。
自己嫌悪に陥りながら、僕は教室に戻っていくのだった。
僕が幼稚園に通っていたころ、隣の家に茜里が住んでいた。この目浩区に引っ越して間もないころ、隣人さんに挨拶をしようと茜里の家を訪ねた。
そのとき、僕と茜里は出会ったのだ。
きっかけは漫画だった。少年ステップで大人気連載中の、「明日の一歩」という漫画を、僕ら二人が大好きだったのだ。
それからも時折遊びに行ったり、遊びに来るようになり、僕たちはすっかり仲良くなった。
しかし、小学校に進学した僕は。
彼女を突き放した。「お前、女子と遊んでんのかよ」という一言が起因して、そして。茜里に向かって、「もう近寄るな」と。
それから僕に対する茜里の態度が一変したのだ。つまり、いまのような。
悪気があったわけじゃない。茜里との関係を壊したかったわけじゃない。茜里が嫌いなわけでもなかった。むしろ大好きだった。
なのに。
「‥‥‥最低だ、僕は」
需要はあるのかシリアス展開。