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女子小学生に甘えたい  作者: 正守証
第二章 春
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一歩一歩、収束に向かって

 夏休みも間近になり、生徒たちが浮ついてくる時期に、朱宮茜里は僕の机を叩いた。終業のチャイムが鳴ったばかりでクラスメイトの大半は教室に残っていたため、視線が茜里に集まった。

 見上げると、眩しく光る夕焼けのせいだろう、その頬は紅潮していた。

 僕と目が合うと、目を細めてそっぽを向き、それから小声で呟いた。


「‥‥‥‥‥‥えて」

「え? なんだって?」

「明日、勉強を教えなさい! 私の家で!」


 かくして、美少女の家で勉強を教えることになった。



 少し考えてみると、茜里はずいぶんと優しい性格になった気がする。半年前は、桜のことを「セフレ」とか言ったり僕にマジギレしたり、ツンデレのデレ部分をツン部分にステ振りしたみたいな女の子だったのに、今では向こうから勉強に誘われる。そう考えるとちょっとした奇跡だ。

 よくもまあ、僕のような女児向けアニメ大好きマンを家に上がらせられるよな。僕が美少女だったら絶対に誘わない。家に上がらせるとかホントムリ。絶対ブラジャー探してただろって疑っちゃう。いや、実際にこっち側の人間になると女児向けアニメ大好きマンの心は女児だからそんなことしないってわかってるんだけどね。

 てなわけで、僕は翌日、早朝から茜里の家の玄関に佇んでいた。

 インターホンを鳴らすのは身が引けるので、茜里に電話して玄関まで迎えにきてもらうように頼む。

 少し待っていると、パジャマ姿の茜里が扉を開けた。ちょ、無防備すぎるでしょ。童貞の気持ちも考えてよね。


「‥‥‥‥‥‥おひゃ、‥‥‥よう」

「ん、おはよ」


 なるべく動揺しているのが伝わらないように挨拶しようとしたら盛大に噛んだ。怪訝な目を向けられながらもちゃんと挨拶は返してくれた。ふ、ふーん、優しいところもあるのね。チクショウ、さっきまで「もしも自分が美少女だったら」なんていう話題について語っていたせいで、ついつい美少女語になっちまう。

「お邪魔、します」家の中に入っていった茜里に続く。これが女子高生の家か。これが、女子、高生の、家!

 オイオイオイ、さっきからテンションがおかしいぞ。キャラ崩壊とか言われる前に軌道修正しよう。


「部屋入って待ってて。お茶とか持ってくるから」


 二階の端にある茜里の部屋まで案内されたところで、踵を返されてしまった。

 さて、どうしよう。とりあえず部屋に入るか。いいんですよね。いいんですよね?

 ドアノブに手を触れた。女子高生が何百回と触ったドアノブ。トップアイドルと握手したオタクみたいな心境だぜ。ちなみにぼくは水瀬●織が好きです。

 足を踏み入れた。踏み入れてしまった。幼馴染って興奮しないんじゃないの。妹とか姉みたいな感覚で、「実際に妹がいても可愛くないよ」とかいうのじゃないの。ていうか妹がいるくせに「実際の妹はうんちぶり」とか言ってるやつ喧嘩売ってんのか。拙者、妹が欲しいと親に頼んで弟が産まれたシスコンザムライと申す、妹がいるやつは俺の分まで大切にしろ(作者の声)。

 さあさお立会い。茜里の部屋は想像していたよりも女子女子していた。ほら、あれだ、容姿端麗頭脳明晰・ヒロインオブヒロインの部屋みたいな感じ。伝われ。

 ベッドを数秒見つめて、頬が染まるのを感じた。ていうか、こんなところで勉強なんてできないんですけど? 

 美少女の家で、美少女の部屋で、美少女と二人きりで、美少女と勉強。改めて文字にするとヤバイ。


「お待たせ。始めるわよ」


 お茶が入ったコップを二つ、おぼんの上に置いて持っている。

 部屋にある勉強机におぼんを置くと、折り畳み式の机を取り出した。机におぼんや勉強道具などを置く。

 そして静かに、勉強を始めた。僕も鞄から勉強道具を取り出す。状況が状況なため、頭に何も入らないと思うけれど、別にいいか。

 しかし、十分経っても一向に話しかけてこない。僕のほうから話しかけるしかないのか。


「‥‥‥えっと、何も訊かないのか?」

「音楽を聞きながら勉強したいわけ?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ。ほら、解らないところがなければ勉強会なんてしないだろ」

「解らないところはないけれど」

「あっ、そう? そう、か‥‥‥ないのね‥‥‥」


 ぼく、なんでここにいるの。いや、ぼく、なんでここにいるの。存在理由なくない? 存在意義なくない?

 自分の勉強しなきゃいけないのかね。手持ち無沙汰になり、仕方なく辺りを見回す。う~ん、女子高生の部屋ねえ。いやいや、さっきから女子高生女子高生うるさいぞ。まるで変態じゃないか。少しは格好いいところを見せたいものだ。しかし茜里は勉強している。いや待て、本当に茜里は勉強したいのか。勉強が好きなやつなんているわけない。つまり、僕が何かするのを待っているのでは。そうだ、うん。そうに違いない。悪いな茜里、ずっと待っていたんだな。


「茜里」

「邪魔しないで」目すら向けてくれない。

「何かしようぜ」

「勉強して」

「昔はよくやっていたじゃないか。かるたとかさ、懐かしいなあ」


 立ち上がり、かるたが置いてあるはずのクローゼットに向かう。まあ、ないかもしれないけど、物は試しってことで、クローゼットオープン!

 ──パンツ、ニーソックス。クローゼットを開けて、真っ先に飛び込んできたのはその二つだった。

 女子高生のニーソックスという、大変なものを見てしまった僕は、思わず感嘆の声を上げていた。


「あ、あ、ああ‥‥‥‥‥‥‥」

「な、なぁに見てるのよぉっ!」


 後ろから茜里に殴られた。このあと、真っ赤な顔で「帰れ! とっとと帰りなさい!」と言われ、しぶしぶ家に戻ることになった。

 家に戻ると、桜が満面の笑みを浮かべて玄関に立っていた。そして、おもむろに喋り始める。


「どこへ行っていたんですか? 茜里さんの家ですか? 知っているんですよ? ねえ、どうして行っていたのです?」


 七月中旬。もうじき、夏休みがやってくる。桜のヤンデレっぷりも歯止めが効くどころか、加速するばかり。

 この先、どうなってしまうのだろうと考えると、苦笑が浮かぶばかりである。

 プ●パラが終わる。そんな情報を目にしたのは、公式から発表された四時間後の、午後二時のことでした。

 倦怠感に襲われ、夕食も食べずに一時間近く寝転んでいました。起きたころには、次々と発表される新作の情報を見て、現実なのだと実感させられました。

 眠るまでに四度、嘔吐しました。翌日、早朝にもう一度。計、五度の嘔吐。学校は休ませていただきました。インフルエンザではなく、自律神経の乱れが原因だそうです。

 とにかく、辛かったです。理不尽に奪われていく大好きに、抵抗の余地はありませんでした。

 今はそんなこともなく、元気に過ごさせていただいているのですが。

 消費者の僕には新作に期待することくらいしかできないわけですし、とりあえず全裸で待たせていただこうかなと思っています。

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