2人の青年、1つの友情
ミルフォニアは大陸の南西に位置する国家で、出入国には厳重な手続きが必要となる。
機密保持の為の制度らしく、過去の戦争においても中立を保ち、公平な視点で記録するという立場を取っており、諸国や世界政府からは特に『歴史の番人』という呼び名で呼ばれる事もある。
もちろん機密となる口外禁止事項というものもあり、ギルバートは全てを教えることは出来ないと言っていたが、国家としての領土はアラムニキアとそこまで変わらないらしい。魔道整備が著しく発展しており、生活のほぼ全てを魔力や魔法によって支えられているという。
ギルバートは両親を早くに亡くしており、幼いギルバートを高名な魔道士だった祖父が預かり、立派な魔道士として育てるべく、時に厳しく、時に優しく面倒を見てくれていたと誇らしげに語った。
今回の試験というのも、一人前の魔道士になる為に必要なことと祖父に言われ、初めてミルフォニアから出たのだという。
ひとまず、1番近く、国家としても温和とされているアラムニキアを目指してきたということだった。
アラムニキアは大陸南東に位置しており、地図上ではミルフォニアから森や山岳を挟んで反対側にあるので、確かに1番近いが、非力な者が1人で通ってこれる易しい道のりではない。
(案外、強いんだな…)
ロイは目の前に座る幼く見える緑髪の青年に対する認識を改める。
「ロイさんはここへは何をしに来たんですか?」
「俺?ん〜…まぁ、ギルバートと似たようなもんかな。視察というか、修行というか…」
「視察…?」
煮え切らないロイの返答に当然ながらギルバートは引っかかった。
「ロイさん、その…不躾で申し訳ないんですが…
ロイさんのその服装、僕が思うに街の人たちとはかなり違うというか…何というか…とても高貴に感じていて…」
ギルバートは核心はつかない、というような回りくどい言い回しで話を振ろうとしている。
ロイも自分の服装の異質性には気付いていた。
というより、この服装である事が今回この街に来た理由の一つと関わっている為、むしろそう気づかれることがこの服装を着ている理由なのだ。
「まぁ、気づくよな。
そう、俺は貴族なんだよ。
ロイ・アークレッド。それが俺の名前。
ここはマドラサ。アークレッド領マドラサだ。
つまりはここの領主アークレッド家の嫡男なんだ」
ギルバートは驚きつつも、予想はしていたのか、声を上げる事はなく、しかし、その態度を改めようとする。
「あの…すみません!僕、そんなことに気づくのが遅くって失礼な態度を取ってしまいましたよね…?」
ただの平民が恐れ多い態度を取って貴族に罰せられる、というのはよくある話だ。
ギルバートの反応も納得はできる。
しかし、ロイは
「いや、そんなのは気にしないでくれ。
そもそも話しかけたのはこちらだし、失礼な態度なんて俺の見る限りなかった。それに…」
「それに…?」
ギルバートが少し緊張が解けたような表情で返す。
「俺はもう、ギルバートのことを友達だと思ってるんだ」
「友達…」
これは予想外の言葉だったのか、ギルバートは言葉の意味を反芻する。
「だからさ、ロイさんなんて言わず、ロイって呼んでくれないか?同い年なんだし、同じ修行の身だ。
対等な関係でいようぜ?」
そこには裏表もない本当の言葉だと伝わる微笑み。
ギルバートはその微笑みを信じることにした。
「はい、ロイさ…いえ。…ロイ!よろしく!
なら僕のことはギルって呼んでくれるかな?」
ギルも屈託の無い微笑みで返す。
「おう、よろしくな。ギル!」
2人の青年は熱い握手を交わし、それは友情の始まりを告げた。
そして、その後もロイとギルは会話を続け、お互いのことを語り合う。
その姿に周りも大人達も微笑ましく感じていた。
そんな時である。
外から突如として激しい喧騒が聞こえた。