物語の始まり
「よく分からないや」
水色の髪に、宝石のような青い瞳の少年が困り眉で答える。
対するは茶髪の男性。年は初老といったところか。
2人がいるのは油の匂いが漂う部屋。壁にはいくつも絵画が飾られ、部屋には描きかけの絵がかけられた画板、絵筆などが散在している。お世辞にも綺麗とは言い難い、いわゆるアトリエという部屋だろうか。
「はっはっは。ジュリアンにはまだ神話なんて難しかったか」
どうやら、男性はジュリアンと呼ぶ少年に世界を創った神々の神話を語っていたらしい。
世界どころか自分の知る範囲すら把握しきれていない幼い少年に神話を語ったところで、言葉を理解出来ても意味は理解出来ないだろう。
最も意味があればの話だが。
退屈そうに足をバタバタさせる少年。
「ねぇねぇ!いつものあの話を聞かせてよ」
煌めく瞳をさらに輝かせ、少年ジュリアンは男性にせがむ。
「またかい?ジュリアンは本当にあの話が大好きだな」
「だって、カッコいいもの!神様の話よりも百倍は面白いよ!」
「はっはっは。そうか、百倍も面白いか。分かったよ、じゃあ、話してあげよう。でも、もう日も暮れ始める頃だから手短にね」
男性の言葉通り、時刻は昼下がり。
これから次第に夕日が顔を出し始める頃合いだ。部屋に入る光加減でそれを判断しているのだろう。
「うん!」
元気の良いジュリアンの返事を待って、男性は微笑み、そして部屋に飾られた一枚の肖像画に視線を遣りながら語り始める。
肖像画に描かれた男性は黒髪で同じ闇のような深い瞳をしている。
「そうだな、あれは…」