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第90話 潜入! 貴族街のボロ屋敷

 ゴーレム大量召喚のあと、一度ホークヒルに戻るとルーカスが炊き出しの準備をしていた。しかもこれで儲ける気がないと来てる。ほんと、ルーカスはすごいわ。

 人間、金の使いどころを間違えちゃいけないよな。

 金は使わなきゃ意味がない。


 そんなわけでルーカスが求めるまま、新たな転移トラップを作成して渡してきた。特に被害が大きいはずの、モンスター出現ポイントで炊き出しをするらしい。がんばれ、ルーカス。

 リオネルも兵隊を率いて出張っていったから、モンスターはそのうち鎮圧できるだろう。竜が出たとかフォルカが言ってたけど、リオネルたちががんばるだろう。あいつらにとってここは故郷だしな。

 地上での戦いは俺も把握できないけど全滅したかどうかはわかる。そうしたら俺が出張って大量のゴーレム召喚で行こう。

 エメラルド採掘で使った鉱山にでも転移させてやる。その上で対処法を考えればいい。

 ……そう考えると迷宮主って間接的な戦闘力がめっちゃ高いんだよな。


 俺は貴族街の地下まで戻った。


「待たせたな」

「……お帰り。もういいの?」

「ああ」


 メイド魔族、ミリアが待っていた。

 いつものフライドポテトを食っているノー天気な顔じゃない。シリアスモードである。


「なあ……ミリア」

「うん」

「……お前ってほんっとシリアス顔、似合わないよなあ」

「はあ!? な、なにいきなり言ってんだよ!」


 顔を赤くして怒っている。


「緊張すんなよ。とりあえずやれることやってみようぜ」

「う、うん——いいのか?」

「ああ。乗りかかった船だ」


 そう。

 ミリアのヤツ、俺との別行動中に見つけたのだ。ミリアが召喚されたという貴族の屋敷を。

 幸い今は、貴族街がもぬけの殻。忍び込むならチャンスだ。

 街の騒動はリオネルやルーカスにお任せ。領主も、まあ、お漏らししてたし、そっとしとこう(思いやり)。


 ミリアとともにやってきたのは貴族街でも東の果てだ。

 俺もこんなところまで地下道伸ばしたっけ? という気持ちもあるんだけど、道が続いているということは俺が適当に掘り進んだ結果だろう。

 や、穴掘りやってるとたまに我を忘れて延々掘ってることがあるんだよな。大丈夫、整地厨ではないのでそこまで時間が溶けてはない。


「この先なんだけど」

「ほう」


 俺はミリアと並んで、潜望鏡を天井に突き刺す。

 空間精製(リムーブ)空間復元(リロード)が付与されている金属なのですり抜けるように天井に刺さって地上に顔を出せる。


「あそこの、雑草が生い茂ってるところ……」

「あるな。白くてちょっと崩れた壁のところだな?」

「そう」

「……にしても荒れてんな。貴族街じゃ珍しいだろ」


 貴族街の端っこにある寂れたお屋敷。これは怪しいです。


「チッ、征服魔力はかなり必要だな」


 調べてみると迷宮占領(オキュペーション)に必要な魔力は1,289億だった。俺のMAXが650億だから全然足りない。

 屋敷の中になんらかの魔力的な施設があるってことか……まあ、ミリアを召喚したんならそういうことだよな。

 俺は屋敷に対して迷宮同盟(アライアンス)を利用する。


「俺の迷宮魔法は屋敷内では使えない」

「そ、そうなの?」

「転移トラップ系のアイテムもだから。紐なしバンジージャンプだ」

「? バンジャー……?」


 ああ、こっちの世界にバンジージャンプなかったな。


「危険を回避する手段がないってこと。……それでも行くのか?」

「……うん」

「そうか」

「ありがとうな、ユウ」


 え?

 あのミリアが俺に感謝をした!?


「そ、そんな驚いた顔するなよ……もしかしたらこれで、もう会えなくなるかもしれないからな。じゃあな、ユウ。行ってくる」

「え? 俺も行くよ?」

「え?」

「え?」


 ふたりで顔を見合わせる。


「い、いや、だってユウがついてくる理由はないだろ!? 危険だし! なにがあるかわかんねーし!」

「まあ、そうだけど。だからってここでバイバイしてお前が帰ってこなかったら相当寝覚め悪いだろ」

「そうかも……いや、そうじゃないよ、おいらのことは忘れてくれていいから!」

「いやいや、お前さ、忘れろって言われて忘れられるか? ふつーできないだろ。お前は忘れられるクチ?」

「おいらはそんなに薄情じゃない」

「お前……そんなら俺がそんなに薄情って言ってるようなもんだろ」

「あっ」

「お前ナチュラルに失礼だな」

「ち、違うって。そうじゃなくて! 迷惑、これ以上かけられないっていうか……」

「おら、さっさと行くぞ。早くしないと兵士が戻ってくる」

「でも!」

「いいから」

「ああ、うう……」


 ああ、うう、だって。ミリアにしてはだいぶ可愛らしいこと言ったな。あのミリアが。


 屋敷の裏手へと回った。軒下に接続する形で土の屋根を作り、簡易的な出張所とする。

 裏手は枯れ草と雪で覆われた小さな庭だった。

 ミリアが周囲を確認しながら出て行く。

 窓はすべて閉まっている。釘のようなもので打ち付けられている。

 人の気配はない……と言いたいところだけど、ダンジョンじゃないところで俺の感覚はあてにならない。ボロ屋敷の中に100人規模でいる可能性だってある。


「ユウ、裏口の鍵が開いてた」

「そんじゃそっちから行くか」

「わ、罠じゃないよな?」

「……ここが狙われるような場所だったら罠もありうるけど、それはないと思う」


 裏口の周辺は雪が踏まれた跡があった。ただごく最近ではなく数日前とかそういう雰囲気だった。屋敷にはちょいちょい人の出入りがあるようだ。

 うっ、寒い……。

 ダンジョンが快適すぎて忘れてた。今は冬なんだよな。フェゴールじいさんのローブを羽織ってるけど、寒いわ。ジャンパーくらい持って来ればよかった。

 ドアを開くと、カビ臭いニオイが漂ってきた。鍵を確認すると、鍵の部分が壊れているようだ。中からはカンヌキをかけられるようになっていた。

 カンヌキをかけるべきか迷って、かけておいた。何者かが侵入していることはバレてる。雪だって踏んだし、俺が帰るための土の屋根だってあるからな。


「入るぞ」

「う、うん……」


 俺が先に入ると、後からミリアがおっかなびっくり入ってくる。

 はめ殺しの採光窓は閉め切りになっていないので、多少の明るさは確保されている。


「正面玄関も確認しよう」

「ど、どうして?」

「廊下に泥がついてるだろ。外から来てるヤツらはここが汚れることをさほど気にしていない。掃除のための使用人を雇ってもいない。裏口がここ数日使われた形跡がなく、正面玄関も同様だった場合、屋敷内には人がいないと推測できる。まあ、ボロ屋敷にこもることが好きなヤツがいるかもしれないけどな」


 正面玄関はそもそもキレイだった。ドアも釘で打たれており開かないようになっている。唯一の出入り口は裏口だけというわけだ。

 念のため厨房も見たがホコリが溜まっていた。炊事の形跡もないから、この屋敷に人がいる可能性はほぼゼロだ。

 まあ、1階をうろついてる間に人の気配がなかったからおそらくそうだろうとは思ったけどね。


「ミリア、見覚えがある場所は?」

「ない……。おいら、召喚されたらすぐに本を取り上げられて、両手両足を縛られて目隠しされたんだ。それからしばらくして屋敷から出されて馬車に載せられた。『しゃべったら殺す』って言われて……馬車から外を見たら、この屋敷だけがわかった」

「なるほど。じゃあ、召喚された部屋を見ればわかるはずだな。まずはそこを探そう」

「……な、なあ、ユウは気にならないのか?」

「なにが?」

「おいらが、その、奴隷としてどんな扱いを受けたか、とか……」

「……お前が、おっさんどもに汚され、処女を失ったことはほんとうに気の毒だと思うよ」

「は!? ねーよ! ないない! そこまではないから!『ふざけんな、ガキじゃねーか』って言われて殴られたのは確かにムカついたけど!!」


 どうやら陵辱展開ではなかったらしい。


「つーかうるさい。いないと思うけど、もし誰かいたらどうするんだ」

「あっ」


 ミリアは両手で口を塞ぐ。遅いっつの。


「お前がどんな経験をしてても、俺が知ってるミリアはミリアだ。今の自分を作っているのは過去の経験の結果だろ。今のお前がミリアなら、過去のお前がなんであっても俺の知ったことか」

「……そういう、もんかな」

「そういうもんだ。ガキがいちいち悩むな」

「おいらガキじゃない! こんなに胸だって大きいんだからな」

「そういうところがガキなんだよ。行くぞ」

「あ、待ってよ」


 俺はさっさと歩きだした。後ろからミリアがついてくる気配がある。

 そう……なんであってもミリアはミリアだ。

 ここでミリアがその「本」とやらを手に入れたとき、そこになにが書いてあるかはわからない。


 実は、俺は楽観していない。

 召喚されたミリアが……もしかしたら極悪なヤツかもしれない可能性を捨てきれない。

 万が一のために俺も心構えをしておこうと思っていたのだ。




 2階は左右に廊下が伸びている。だが泥のついた足跡が向かう方向は1つだ。


「この部屋か」


 両開きのドア。中の気配をうかがうけど……うーん、わからん。「殺気!」みたいなのとかわかればいいんだけど。


「…………」

「…………」


 なんとなくミリアと視線を交わして、うん、とうなずきあう。

 俺はドアノブをつかんでゆっくりと手前に引いた。


「……? なんだこれ、変なニオイがしないか」

「血じゃね……?」


 うぇっ。血のニオイと言われると確かにそうかもしれない。そしてそう認識すると一気に気持ち悪くなるな。

 廊下には採光窓があったけどその弱々しい光は室内まで届かない。

 暗いな……。

 絨毯が敷かれてない、木目がそのまま浮かび上がった床だ。


「ユウ、どこかに明かりとかないかな? これじゃ全然見えない」

「……そうだな。ここに来ている連中はなにか明かりを持ってきているはずだ」


 廊下から目をこらして見るけど、見えない。


「入ってみるか……ここで待っててもしょうがない」


 左手を壁について中へと入っていく。

 冷たい空気が淀んでいる。ニオイはなんかもう、ますます気持ち悪くなってきた。生ゴミね。生ゴミのニオイ。でも冬だからメチャクチャくさいってワケでもない。

 後ろから俺の背中をちょんとつまんだミリアがついてくる。


「ん……窓か、これ?」


 部屋の反対側に着いたようだ。


「窓……釘打ちされてないな。開けてみるか」


 ギィ、と音を立てて窓を開く——日の光が射し込んで、一瞬俺は目を閉じた。


「……ゆ、ユウ、あれ……」

「え?」


 振り返って俺は——息を呑んだ。

 飛び散った黒い染み。

 それなりに広い部屋に家具はなく、部屋の中央にはこんもりとなんらかの物体が、1メートルほどの高さに積まれていたのだ。


「な、な、なん、あれ……」

「肉、だろうな。小バエがたかってる」

「うぇっ」


 ミリアが吐きそうになりながら、ごくんと呑んだ。きったねー、とかバカにする気にもならん。俺も吐きたい気持ちでいっぱいだけど、なんとかこらえてるところだからな。これが人肉とかだったらやばいが明らかに動物の肉だ。

 羽根とか落ちてるし。鳥とか豚とかそういうのなんだな。


「……なあ、ミリア。あれって魔法陣か?」

「し、知らない」


 肉を中心に放射状に線が引かれ、文字が書かれている。


「でもさ……『古の闇の王』『供物に応じ眷属を遣わせたまえ』とかなんとか書いてあるぞ」

「よ、読めんの、ユウ?」

「この部屋に見覚えは?」

「え? あ、えっと……そう、だな。確かに見たような記憶がないでもない、かな?」

「お前が召喚されたとき、部屋は暗かったか?」

「うん……なんか青白い光が出てた」


 閉め切って召喚の儀式でもしてたのか。

 日の光かそうじゃないかで印象はかなり変わる。にもかかわらずミリアにうっすら記憶があるのなら、


「じゃあミリアがこの部屋で召喚されたのは確定っぽいな。他の部屋を探そう。ミリアの本があるかもしれない」

「う、うん」


 俺たちは部屋を出た。

 この魔法陣ひとつで迷宮占領(オキュペーション)に必要な魔力量を増やしているんだとしたらよほどすごい魔法陣ってことになるよな……。

 まあ、他の部屋を探ってみてからだな。

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