第67話 ドキドキ☆マイホームご紹介
ヒルズ・レストランのいつもの部屋。
俺が籠もって飯を食ってるところだな。
「リンダ、よく見ていて。ここに引き出しがあるだろ? ここを開けて、奥にあるボタンを押す。見えないけどボタンがあるから。それから引き出しを閉じて、ちょっと待つ……すると」
転移する。
「おー」
ぱちぱちと手を叩くリンダ。
俺たちは迷宮司令室にやってきた。
ルーカスは壁一杯に表示されている迷宮図を見て驚いていたけど、リンダは——、
「ねえ、スケルトンがいる」
そっちか。そっちが気になるのか。
まあ、俺も気にはなったよ。
「ボス!」
「「「「「「カタカタカタカタ」」」」」」
なんせ300体くらい勢揃いしてたからな。
それぞれのユニフォームまで着て。
「ボス、実は——」
「わかってる。皆まで言うな。俺の頭痛は限界値をすでに超えている。アレだろ、しゃれこうべサッカーの授賞式だろ」
こめかみを押さえながら俺は言う。
「おい、ボスにアレを」
「カタカタカタカタ」
ひとりだけレフリーみたいな服を着ているスケルトンが——いやもうほんとどっからその服持ってきたよ——俺へと金色の優勝カップを持ってくる。
突っ込まない。俺はもう突っ込まないぞ。
「……優勝チームは?」
「はい、こちらに。記念すべき初リーグ優勝はチーム『柔らかな君の頬をなでたとき』!」
チーム名ィィィィ!
なんで詩的!? あとお前らにほっぺたないだろ!?
「…………諸君らの健闘をたたえ、ここに優勝カップを授与する」
俺の疲労が倍加していくのをぐっとこらえて必要最低限の言葉を口にする。
カチャカチャカチャカチャと乾いた拍手が聞こえてくる。
ぱちぱちぱちぱち。
「…………?」
リンダまで拍手してるんだが……。
「ではボス、初級第3で夕刻までのシフトに入っている連中を待ってから、打ち上げに行ってきます」
「………………いってらっしゃい」
突っ込まない。突っ込まないからな。
相手はリオネルだ。骨軍団だ。突っ込んだほうが疲れる。
優勝カップを掲げる骨がいて、抱き合って喜ぶ骨がいて、悔しげに天を仰ぐ骨がいて、肩を叩き合う骨がいて、彼らはぞろぞろと立ち去っていく。
「友情って、いいね」
リンダがなんかきれいにまとめた。
「——というわけで、ダンジョンの運営で手が足りないところはスケルトンたちにやってもらっているんだ」
「そうなんだ」
「恐ろしく素直に受け入れたね」
「だって、実際そうなんでしょ。それなら納得するしかない」
そりゃまあ、確かにそうではあるのだが。
「じゃあリンダの部屋はこっち」
「? ホテルの収納スペースでは?」
「……あれはウソだって……」
俺はリンダを連れていく。元々部屋はいくつか用意してあった。まあ、部屋って言っても土や岩盤が剝き出しになっておらず、きっちり磨いた空間があるだけなんだけど。
とはいえトイレとバスルームも用意してある。バスルームの水は井戸水をここまで引っ張っていて、加熱するトラップが仕掛けられている。
まあヒルズ・インに使われているものと同じだ。
「広いけど、なにもないね」
「あー、まあね。家具類はあとで取りに行くし」
運ぶのは人気のない夜にしないと、誰かに気づかれるかもしれないからな。
「…………」
「なに? どうしたの」
急に神妙な顔つきになったリンダ。
「……ユウは、どうして親切なの」
「えっと、質問の意味がわからない」
「私はユウにとっては邪魔な存在でしょう?」
「いや、まあ、なんていうか……その、邪魔とは思わないよ」
「私は生活に介入されたら、相手を邪魔だと思う」
自覚あるんかーい。その上で介入してくるんかーい。
まあ、とはいえ俺にとやかく言う権利はないんだけどな!
「それについては俺はなにも言えないというか」
「のぞいてたこと?」
「……………………ひゃい」
これだけためたのに声が裏返った。
俺の罪悪感はそろそろ限界突破だ。
「あれはもういい」
「……へ?」
「もう、いい。許したから」
「で、でも」
「私がここに来たのは、ユウが何者なのか純粋に興味があったから」
「俺に興味……?」
いまだかつて女性に興味を持たれたことのない俺に……?
「好きの反対は無関心」であることを痛感している俺に……?
あ、やば、中学高校時代の闇が心を侵食してくる。
「冒険者ギルドを襲うくらい大胆なのに、小さな洞穴を守ろうとしたり、誰かをかばって自分の悪いところをさらけ出すような人。興味を持たないほうがおかしい」
「……俺が誰かをかばってるなんて」
「あの像……私の、像の、引き出しになにか入っていたんでしょう?」
鋭い。バレていたのか。
そうなんだよな、あそこには俺にとってめっちゃ大事な友人……たぶん友人だったフェゴールっていうエロじじいの貴重なエロ本が入っていた。あと結婚指輪と奥さんの遺髪。奥さんのほうをついでみたいに言ったけど、ぜ、全部フェゴールにとっては大事だったはずだ、うん!
「あそこに入っていたものは……悪いけど、ちょっと言えない」
「ふふ、わかってる」
あ——。
リンダから漏れた笑顔に、俺はどきりとした。
感情の揺れが少ないリンダ。
好奇心を剝き出しにすることはよくあるけど、他の感情は稀だ。
だからこそ、笑顔はずるい。
俺が「女神」だなんて思ってしまったのが大げさじゃないくらいに、可愛い。
そりゃ女神といっしょに暮らせるなんて、経緯はどうあれうれしさもあるでしょうに。
「広い部屋。なにを置こうかな。——そうだ、あの洞穴に戻ることはできるの?」
「あ、ああ。もちろん」
俺の動揺なんて気にしないように、部屋の広さを確認するようにリンダは後ろ手を組んで歩いて行く。
「それじゃ、家具の様子を見るから、そうしたら明日戻して欲しい」
「いいけど。なんで?」
「家にあるものを持ってくる」
「ああ、なるほ——」
ど!?
「ちょ、ちょっと待って。どういうこと?」
「どういう、って?」
「当座の家具や必要なものなら用意できるけど——あ、ああ、そうか、着替えだね? 着替えを持ってきたいってことだね?」
「ううん。ここに住み替える」
住み替えるってあなた。
住み替えるってあなたァ!!
「向こうの洞穴に簡単に行けるようにしてくれれば、動物を狩ってくるよ? レストランで調理してもらおう」
あたかも名案みたいに言ってますけども。
「……そ、そうだね」
その楽しそうな顔を見て、俺にはそれしか言えなかった。
いや、冷静に考えてみたらデメリットがないんだよ。リンダがここに長く住んでも。
リンダは森とダンジョンを行き来できて楽しい。
俺は崇拝する女神を毎日見ることができて加護を得られる(気持ちの問題)。
「なし崩しでも、いいじゃない」
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない……ちょっと早いけど夕飯に行こうか」
「うん」
俺はリンダを連れて迷宮司令室へと戻る。
……女神と同居。
ヤバイ。じわじわ来るなこのうれしさが。
「ユウ」
「な、なに?」
にまにましてないかな。冷静、冷静になれよ俺。
「のぞいちゃダメだよ?」
「……重々承知しております。反省しております」
「ふふ、冗談」
つん、と俺の鼻を人差し指で突かれる。
は?
なにこれ?
可愛いんだが?
「夕飯だけどなにが食べたい——」
通路を通り抜け、スライドドアをガラッと開けて迷宮司令室へと戻ってきた俺。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そこにはメイド服に身を包んだ魔族の女がいた。
ピシャッ。
俺はスライドドアを閉じた。
「? ユウ?」
「……俺はなにを見たんだ、なにを、願望を幻で見たのか? いや、そんな願望は持っていない……」
ガラッ。
「ご、ご主人様、お帰りなさ——」
ピシャッ。
「? ユウ?」
「……おかしい、幻が消えない、俺の頭は酷使しすぎてどうにかなっちまったのか……」
「ってすぐに閉じるなよ!」
ガラッ。
「おいらだって恥ずかしいんだからな!」
メイド服のミリアがそこにいた。
俺の心臓が妙な感じで跳ねている。ペロッ……これは不整脈!
冗談を言う気にもなれない。
そこにはメイド服のミリアがいたのだ。何度でも言う。メイド服のミリアがいたのだ。
貞淑な感じではない。膝上のスカートに、白のニーソ。頭にはヘッドドレスでエプロンはフリフリだ。
コスプレかな?
「……一応遺言くらいは聞いてやる。なぜそんな格好をした?」
「ちょっ、遺言ってなんだよ!」
「俺の心臓に負荷をかけて殺そうとしたか……そうかそうか、お前は敵か?」
「だ、だから違うって!」
「ユウ」
リンダが俺の腕に手を添えて首を横に振る。
「はー……わかった。事情を聞くから一度座ろう」
テーブルに移動してイスに座る俺たち。
ミリアはスカートの先をつかんでもじもじしながら口を開く。
「おいらだって……悪いと思ったんだ。うかつなこと言って冒険者がユウに興味を持ったから……」
どうやらアルスとのやりとりで、やらかしたことに罪悪感を覚えたらしい。
「それとメイド服のなにがつながるんだ?」
「だ、だからさ! おいらなりに手助けできることはないかって思ったんだ……ユウの。それでリオネルにどうしたらいいか聞いたら、『メイドがいいでしょう』って」
「よーし犯人はリオネルだな? あんの骨は一度シメてやろうって思ってたんだ」
「ち、違うって! なんかおいらおかしいか?」
おかしいよ。めっちゃおかしい。
だけど、今日はさすがにいろいろありすぎて疲れた。
「……もういいから、アルスのことは怒ってないし、引きずってもない。だから着替えてこい」
「でも」
「夕飯食べに行こう、な?」
「……わかった」
納得できていないようだったが、それでもしぶしぶうなずいてミリアは部屋へと着替えに戻った。
「リンダ」
「?」
「あれが……一応、もうひとりの同居人な」
「かわいい同居人だね」
それはない。
長かった一日もようやく終わりです。ユウ、がんばった。




