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第57話 秘密から導き出される解

「え……貴族街に、入れない?」


 ルーカスがきょとんとした顔をした。

 ホークヒルに戻ってきた俺たちは、時刻も遅かったがレストランの奥で緊急ミーティングだ。

 ヴィヴィアンにはとりあえず安心させるために「帰って寝てて」と言いくるめ、ディタールは副支配人に引っ張られてシェフともどもお説教らしい。


「俺がお前に全部説明しておかなかったのが悪かったんだ」

「い、いえ、申し訳ありません。そのような事情がおありだとは……」


 ルーカスも青い顔をしている。

 俺はルーカスに、迷宮主としての限界を教えたのだ。

 俺が移動できる範囲は軒下があるような場所まで。

 それだって建物自体を迷宮占領(オキュペーション)しなければならないと。


「占領に際しては魔力の消費があり、俺は魔力を数値化している。これをMPと呼んでるんだけど……まあ、略称については気にしないでくれ。たとえば『樫と椚の晩餐』を占領するのに消費MPが3,698万かかった」

「それは……多いのですか?」

「スケルトン1体の召喚にMPが1,000しかかからないからな、まあ多いほうだろう」

「…………」


 ルーカスが唖然とした。


「せ、先生は……スケルトンを3万体以上召喚できるということですか……?」

「うん。ああ、でも今の最大MPは8,000万超えてるから8万体はいけるな。つっても絶対やんねーけど」


 見渡す限りの骨。最悪だろ?


「それだけの魔力があればなにも恐れるものはないのでは……」

「実はな、ルーカス……貴族街には内壁があってぐるっと囲んでるよな? あれはめちゃくちゃ高度な結界が張られてるみたいで、地下から侵入しようとするにもMPが必要なんだ。俺があそこを通行するのに必要なMPはいくつだと思う?」

「まさか8,000万では足りないのですか!?」

「足りないっつうか、411億だ」

「…………」


 驚き疲れたのか、あるいは実感が湧かないのか——いや、ルーカスは頭いいからな。実感が湧いた上でとんでもねーなと思ってるんだろう。


「俺は外を出歩けない。馬車にも乗れない。そうなると貴族街に呼ばれても入れない。もっと時間があればよかったんだが……」

「もっと時間があればなんとかなったのですか?」

「最大MPは1日10%ずつ伸ばすことができる」


 最近MP消費をサボッてたせいで伸びはだいぶ鈍化していたが、またがんばれば伸びるはずだ。


「1日10%!? 増加は複利みたいなものですよね?」


 増えたMPにも掛け合わせるからな。あっという間にMPは増える。


「ああ。すごいよな」

「はい……とてつもないですね」


 とはいえいまだに進化は1度しか経験してないが……。


「そういうわけで俺は貴族街に行けない。ローバッハの召喚を無視したらヤバイよな?」

「問題がありますね……再召喚の手続きがあり、それも無視すれば手配される可能性があります。手配されなくとも悪目立ちすることで騎士が派遣されるかもしれません。その時点で仮に捕縛され、外に出られないことがわかれば……先生が迷宮主であることが公になります」

「つまり俺にできるのは、ダンジョンに引きこもるだけってわけだな……」

「申し訳ありません!!」


 ルーカスが土下座した。


「先生にそのような事情があるとはつゆ知らず……私が、私が余計なことを……!!」

「頭を上げろよ、もう、その謝罪は受け入れたから」

「しかし」

「男が簡単に何度も頭を下げんな。ルーカス、お前はもう商会の主だろう」

「先生……」


 ルーカスの目に涙が浮かんでいる。

 そしてぽろぽろと涙をこぼした。


「わ、私が、愚考しますに……先生は姿を消すおつもりでしょう? ひとりで責任をおとりになって、私たちに迷惑をかけないように……」

「……まあ」


 それは、考えていた。

 ホークヒルは稼働しているから、これを稼働させつつルーカスとの接触も止めるようにすれば万が一もないだろう。

 迷宮主は迷宮主らしく引きこもるのだ。

 まあ、地下ではスケルトンロードを拡張して他国に新たなホークヒルを開設してもいい。

 新たな「ルーカス」を探せばビジネスのまねごともまたできるだろう。


 ……新たな「ルーカス」を探せば、な……。


「悔しいのですっ……私が未熟であったばかりに、先生が、貴重な知識をお持ちの先生が……私から遠ざかっていくことが……」


 ぎゅうと両手を握りしめて、泣いているルーカス。


「だからお前は悪くないっつってんだろ。止めろ。今生の別れみたいに言うな」

「しかし、先生がすでに『見切り』をつけてしまった以上、私にどうこうできることはありません」


 こいつはほんとうに頭が良すぎる。俺の考えていることをあっという間にわかってしまう。

 だからこそだ。俺がはっきりと迷宮主の限界を教えなかったことが、今回の窮地の原因だ。


「……俺の代わりにルーカスが召喚に応じることは」

「できないでしょう。あの貴族は先生を指定していました。先生の名代として私が向かっても、先生を再召喚するだけです。……もちろんそれで数日は稼げますが、4日後の当日に領主様に先に報告されては無意味です。それに4日では411億というMPは稼げません。8,000万のMPを411億にするには42日かかります」


 ……え、もう計算できたの? こいつの脳みそどうなってんだよ……。


「そ、そうだよな、42日くらいかかるよな。えーっと、あと、あと思いつくのは……」


 町を混乱させること。俺が冒険者ギルドにゴーレムを放ったみたいにな。

 そうなればうやむやになるかもしれない。

 でもそれはそれでヴィヴィアンのところがどうにもならなくなる。ローバッハが先に領主に報告して印刷工房が取りつぶされたらこれもまた本末転倒だ。


「……別の都市の印刷工房を探すか。転移トラップを使えばしばらくは新聞を継続できる。その間に他の印刷工房に力をつけてもらって……ダメだ。無理がある」

「転移トラップのことが露見すればまず領主様が押さえるでしょうね。他の都市とのホットラインなんてものは独占されるに決まっています。ヴィヴィアンさんが使っていたことがわかれば、領主様に報告しなかったことで罪に問われるでしょう」


 そりゃそうだ。

 ダメだ、やっぱり詰んでる。


「……先生。期限ぎりぎりまで私に考えさせていただけませんか?」

「ん?」

「先生のような聡明さはありませんが、最後の最後まで悪あがきをしたいのです……」


 俺のあきらめを感じ取ったのだろう、ルーカスが泣き顔ですがりついてきた。


 くそっ……俺が聡明だって?

 バカ言えよ、過大評価だっての。とんでもない過大評価だよ。俺はただの、一介の平社員。10年くらいWebに携わってただけの男だ。


「ルーカス……」


 それでも……さ。

 こんなにも俺のことを慕ってくれるヤツは、初めてだよ……。


「……わかったよ」


 ルーカスの涙にほだされたのかもしれない。

 一時の感情に流されたのかもしれない。

 でもそれでも、いい。


「お前にホークヒルのすべてを教える。このピンチを乗り切る方法をいっしょに考えよう」


 ルーカスの涙目が見開かれ、


「い、いいのですか……先生の造った、すべてを……」

「ああ」

「私のような未熟者に、先生が作り上げたホークヒルのすべてを……教えていただけるなんて……」

「お前だから教えるんだ」

「先生ッ!!」


 ルーカスが俺に抱きついてわんわん泣き出した。

 ここまで好かれれば、先生冥利に尽きるよな。

 いや、まあ、俺は先生でもなんでもないんだけども。


「あーほら、泣くな。まだあきらめないんだろ?」

「はいっ、まだあきらめません!」


 それでもルーカスは泣くのを止めない。困ったヤツだ。こういうヤツを見てると、俺まで鼻の奥がツンとする。




「とりあえず能力の説明は実物を見せながらにする」


 俺は部屋の床に転移トラップを出現させた。


「載ってくれ。俺がふだん生活している場所へ向かう。ああ、俺は高速移動(ファストムーブ)という迷宮魔法で移動することが多いな。迷宮内部はどこでも移動できるんだ」

「なるほど」


 ルーカスが転移トラップに足を載せるのを確認し、俺もまた移動する——迷宮司令室へと。

 だだっ広い部屋。

 テーブルの上には食べかけのピザと飲みかけのコップがあった。……ミリアだな。


「ここは?」

「迷宮司令室……ってまあ、俺は呼んでる。あのスクリーンを見てくれ」

「な、なんですかこの巨大な図は!? て、点滅してる……?」

「ダンジョンにある3つの初級コースの稼働状況を示してるんだ。今の時間帯は全部動いていないけど、オープン時間中は入場者の位置が表示される」

「…………」

「……えっと、どうした?」

「とんでもないものをお造りになったんですね……」


 そうか? 地図に毛が生えたようなもんじゃない?

 イメージしていたのは鉄道会社の司令室みたいなところなんだが。

 稼働しているサービスを可視化できるってのはいいよな。トラブルがあってもすぐにわかる。


「まあ、迷宮主は自分の能力があるからこんなスクリーンを造る必要はないんだけど、ホークヒルはでかくなりすぎた。だから、リオネルを始め他の連中にも見てもらったりしてる」

「リオネル……?」

「あー、あとで紹介する。っていうかこの機能、そんなにすごいか?」

「すごいですよ!」


 力を込めて言われたので俺のほうがびっくりしたわ。


「こんなものがあれば王様や領主様は絶対に導入したがります。砦にあるのもよいでしょう。遠距離に設置することも可能なら、軍事上、要所がどうなっているのか一目でわかる——とんでもない代物です」

「あ、ああ……なるほど。軍事的な意味か」


 言われてみると迷宮主の力って軍事寄りかもしれないな。

 でも屋外では使えないんだよ。


「ともあれ、俺はふだんここで考え事をしたりすることが多い。自分の部屋は寝るだけだな。ルーカスから買った寝台とかが置いてあるだけで」

「この部屋は、山の内部でしょうか? 地下ですか? どのあたりにあるんですか?」

「ホークヒル正面だよ——ああ、あの先に行けばわかるかも」


 俺はルーカスとともに通路を通って一室に移動した。

 そこはホークヒルの名前が彫り込まれたちょうど真下あたり。アルスが冒険者とバトルしてるのを眺めた場所だ。


「おお、こんなところにあったのですね……」

「あとはこういうものもある。俺はエスカレーターって言ってるんだけど」


 動く階段を見てルーカスが奇声を上げた。

 やはりこの世界にはエスカレーターはなかったか。

 腕時計ならぬ腕MP残量計を見せても奇声は上がらなかった。

 似たような機能を持つアクセサリーがあるようだ。


「こういったものは全部製造精霊(クラフトスピリット)という迷宮魔法で生み出してる」

「どんなものでも造れるのですか?」

「いや、俺が一定以上に原理をわかっているものじゃないとダメだな。特に魔法を組み込む場合は——たとえば照明とかだな。ああいう光明(ライト)の魔法を組み込む場合は、その魔法をきっちり想起して造り込まないと迷宮魔法が発動しない」

「なるほど……」

「一度造ると、原料さえ持っていればいくらでもコピーが可能だ」

「むちゃくちゃですね。原料はどこかに倉庫があるのですか?」

「ん……こうだな」


 壁に手を向けて空間精製(リムーブ)を発動する。1メートル立方の壁がえぐれる。


「消えた……」


 空間復元(リロード)で元に戻る。


「亜空間に消えるようだ。亜空間が資材庫のようになってる」

「…………」

「……えっと、ルーカス?」

「先生はずるいですね。深い知性だけでなくこれほどの特別な能力をお持ちなのですから……」

「いや、迷宮主はみんな使えるはずだが」

「では使い手である先生がすばらしいということですね。やっぱり!」


 いや、やっぱりじゃねーから。尊敬の目を向けられましても。

 できればこういうのは美少女にしてもらいたいんだけどな……ほんとルーカス、なんでお前男なの?


「あれ、ボス。お客さんですか?」

「——うわっ!? しゃべるスケルトン、スケルトンジェネラル!?」


 俺たちの気配に気がついたらしいリオネルがやってきてルーカスが後じさる。


「ああ、ついにこいつの説明をしなければならなくなったか。できればしたくなかった……身内の恥をさらすようなものだからな……」

「ボス、そういうのは心の中で言っておくものですよ? 胸にぐっさり来るんですよ? あっ、肋骨がすかすかなので刺さらなかった!」


 カタカタカタカタ笑うリオネルと、なんだこいつはという顔のルーカス。

 ほらな、身内の恥だろ?




「なるほど……知性あるスケルトンを召喚できる、と」


 一通りリオネルについても説明した。

 食いまくったのだろう、腹をさすりながら帰ってきたミリアはルーカスを見てぎょっとしていたが、俺が「ルーカスには全部説明する」と言うと、納得したような、不満なような、変な顔をしていた。


「骨どもはリオネルが統括してるんだ」

「……骨ども?」

「削れたダンジョンの補修とか、初級第3の宝物製作とかだな。……働いてるとこ、見るか?」

「はい」


 ここまで来た以上、すべてを見たいのだろう。

 俺はリオネルを連れて初級第3ダンジョンへと向かう。


「おおお……」


 オープンしていない時間帯の初級ダンジョンは、スケルトンの楽園だ。

 壊れたドアを直したり、動かされた机を直したり、宝物を隠したり。

 どこを見てもスケルトンがうろついている。


「なんだ? あいつら、こっちをじろじろ見て」

「ボスが来るのは珍しいですからね。働いてることをアピールしているんでしょう」

「ふうん……」


 俺からすれば慣れたものだけど、ルーカスにはさすがに刺激が強かったみたいだ。顔がちょっと青ざめている。

 そのとき、がらがらがらん、と乾いた音が聞こえてきた。


「——ボス、あっちでゴーレムが倒れたみたいです。スケルトンがひとり踏みつぶされました」

「あ、そう」

「えっ、先生!? それだけですか!? い、一応仲間なのでしょう……?」


 そうか、ルーカスは召喚されたスケルトンのことをよくわかってないんだよな。

 俺たちはつぶれたというスケルトンのほうへと行く。

 うむ、見事に右膝から下が粉砕されている。


「スケルトンにはよくあることだ」


 むしろゴーレムがオロオロしているほうが珍しい。いや、ゴーレムに性格を持たせた記憶はないんだが……。


「ボス、直してやってくださいよ。この者はフォワードなんです。エースストライカーなんです」

「まだその遊び続いてんの……?」

「もちろんです! 4日後の試合がちょうど今期の1位を決める天王山なんですから!」


 うんうん、とスケルトンたちがうなずいている。

 なに集まってきてんだお前ら。

 っていうか4日後って俺にとっても天王山なんだが? 骨どもが遊んでいると思うとムカつくんだが?


「ボスぅ!」

「わかった、わかったよ。くっつくなウザイ。——ほら」


 魔力を込めてやると、粉砕された骨が元通りになった。

 おお〜〜とスケルトンたちの間から歓声が上がる……ように見えた。かちかちかちと歯が鳴っただけ。




 俺たちは迷宮司令室に戻ってきた。

 ルーカスは一度ショップ側にある自分の部屋に戻り、リューンフォート一帯の地図を持ってきた。

 そこには貴族街の大まかな図も書かれている。

 作戦を練ろう、というワケである。


 俺はいろいろとルーカスにはその後も迷宮魔法について説明した。

 進化についても話した。

 ひょっとしたらMP1億で新たな進化先が出てくるかも? それならあと4日でなんとかなっちゃうかも?

 なんて思ったけど、そもそも進化の段階で全部の問題が解決できる保証はないし、進化のタイミングで気を失うからな。

 起きたら5日経ってましたとかなったら最悪だ。


 ともあれ俺が知っている迷宮主についての情報は全部ルーカスに与えたと言ってもいい。

 めっちゃ時間かかったけど。

 なにがきっかけになるかもわからないからな、全部教えた。

 ルーカスの知性でなにか思いつかなければ……詰みだ。

 ヴィヴィアンに土下座するしかない。謝って許されることじゃないけども。


「つまり先生は、迷宮内であれば無敵ということですね?」

「話聞いてたか? 俺の戦闘能力は皆無だよ」

「自然回復を考えればほぼ無尽蔵の魔力ではありませんか。冒険者に詰められても逃げられる緊急避難(ラストレフュージ)がある。数秒時間を稼げれば高速移動(ファストムーブ)で逃亡できる。迷宮がなかなか淘汰されないわけですね」

「むしろ淘汰された迷宮主がいることのほうが不思議だわ」

「孤独のあまり、人間に接しようとした、とか……?」

「ああ、それはあるかもな」


 孤独の前に、言語がわからないからコミュニケーションすらできない。

 あの「死んだダンジョン」の迷宮主だってフランス語しか話せなかったのなら、こっちの世界で誰とも話せなかったろう。

 いくら迷宮主は孤独耐性があるとはいえ、ずっとひとりだったらさすがに頭がおかしくなる。郷愁のあまり故国の英雄の彫像を造ってしまう気持ちもわかる。俺も女神像造ったし。なにそのトラウマ。


 俺はラッキーだったんだ。フェゴールのジイさんに会えて。

 ……ま、まあ、ジイさんに話しかけるきっかけは「ジイさんがいると女神が来てくれなくなるじゃねーか!」と考えた俺のスケベ心だったんだが、たまにはスケベ心もいい仕事するってワケだな……。


「とりあえず今日はもう遅いから、明日また話すか」


 じっとリューンフォート地図を見ているルーカスに俺は話しかけた。

 気がつけば時刻は夜中の2時を回っていた。

 寝ないと、いい知恵も出ないだろう。


「うー、さぶさぶ」


 とそこへミリアがやってきた。


「なんだ。起きてたのか?」

「あのさぁ、おいらの部屋の窓をどうにかしてくれよ」

「……は? お前が窓欲しいって言ったからつけたんだろ?」

「いやいや、しょうがねーだろ。迷宮内は暖かいけど、窓越しに冷たい空気が入り込んでくるとそうもいかないんだから。っつーか、見た? あんまり寒いからなにかなって思ったんだ。そしたらさ、雪だよ!」

「雪? 白い雪?」

「そうそう! おいら初めて見たよー」


 雪……か。

 降ると首都圏の交通網をマヒさせるあの雪か。

 でもって北海道出身のヤツが「東京の人間ってさー、この程度の雪でうろたえるの?」と得意げな顔をするあの雪か。


「もう冬だもんな。この辺りの雪は積もるのかな?」


 俺はなんとはなしに言った——だけだった。

 そう。東京の雪を思い出しながら。積もらないと物足りないが、積もると「ざけんな、電車が遅延するだろ」と悪態をつきたくなるあの雪を思い出しながら。


「先生……雪…………」


 ぽつりと言ったのは、ルーカスだ。


「雪です、雪ですよ! ずるいですよ、先生。もう答えをおわかりだったのに、わざと私に考えさせるように誘導するなんて」


 ……はい?

 俺が首をかしげそうになるのをぎりぎりでこらえると、


「確かにその方法ならばできますね! 先生が、貴族門を通ることができます!!」


 まるで憑きものが落ちたような顔で、ルーカスは声を上げた。

ルーカスがユウのこと好きすぎる。



ロージー「……まだ連絡が来ないなぁ……」

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