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第44話 生けるダンジョンマスター、死んだダンジョンへ

「こちらが『死んだダンジョン』、『リューンフォート南部ダンジョン』の資料です」


 ロージーが俺に、いつものカフェで渡してくれた資料は20枚程度の紙束だった。なかなかの分量だ。


「……討伐されたのは25年前? 結構古いですね」

「はい。入口まで確認しましたが、荒れ放題の茂みによって覆われていました。もう入っていく人もいないようです。あそこには鉱物資源があるわけでもありませんし、宝物の類はすべて取り尽くされ、今は崩落の危険から誰も訪れなくなったとか主要な街道からも遠いので山賊も住み着かないと」

「そっか」


 死んだダンジョン。

 悲しいものだ。


「ダンジョン稼働期間は……2年3カ月!? 短っ!」


 あの集落の様子からして、かなり鼻息荒く冒険者の受け入れ設備を整えていたふうであった。それが、たったの2年3カ月とは。


「そうなんです。私も驚きました。ダンジョンの発見直後に冒険者ギルドの調査官が確認したところ、近年まれに見る大型ダンジョンだという報告があったようです。そのため多くの冒険者が殺到し、当時はお祭り騒ぎだったとか」

「……で、あれほどの宿を造ったりしたのに、終了、か」

「あっけないですよね」


 やはり悲しいものだ。

 ダンジョンには人生の悲しみが詰まっているんだなあ。みつを。


「にしても……リューンフォート南部ダンジョン、っていうのはありきたりですね」

「それは、まあ。もっと未踏破期間が長くなければ吟遊詩人も歌いませんし、各国にウワサも広がりませんし。それに産出するアイテムも平凡でしたから」

「えーっと、産出アイテムは」

「こちらに目録の写しがあります」


 ダンジョンからの産出アイテムは冒険者ギルドが確認を行い、目録として公文書になり、国の機関が保管する。

 見てみると、総額金貨2,000枚、銀貨5万枚など、金銭的にはなかなかだが、その他がしょぼい。鉄剣やナイフをもらってどうするんだ。しかも100個単位で。


「なんでも、行商や、国の武器を運んでいる運搬部隊が当時襲われたことがあったみたいで、そこから流れていたのではないか、と……」


 迷宮主が自分で金を稼ぐ術がないと、どこからか奪ってくるしかないよな。

 この迷宮主はかなり(カルマ)が混沌に傾いていたんじゃないのか。


「全18階層でした。出現モンスターはレイス、ゴースト、スケルトン、ゾンビ……」

「アンデッドに偏ってるね」


 やはり暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネスになっていたのかな。


「はい。そのため、特化した冒険者からすると攻略しやすいダンジョンだったようです」

「ダンジョンマスターは何者だったの?」

「公的な記録はなかったのですが」


 ロージーは最後のページを指した。


 ——迷宮主は、ウワサによると、白骨化した老人であったらしい。


 うーむ、やはり悲しい。

 ……待てよ? 俺も暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネスに進化したら見た目が変わったりするの?

 カヨちゃん! 教えて! 迷宮主が進化の種類によって見た目が変わったりするの?


《質問に関する情報はありません》


 あー、もう。知りたい重要な部分は教えてくれない!

 ていうか次の進化については棚上げになってるけど、そろそろ真剣に考えなきゃいけないんじゃないか? しばらく新しい迷宮魔法も覚えないし。自分自身のことにも気を払わねば。

 死んだダンジョン調査でなにかしらの手がかりが得られればいいんだけど。

 進化できても見た目が変わるなら、イヤだよなあ……。


 俺は一通り資料に目を通してから、ロージーに規定の金額を支払った。

 ロージーとしても出張調査というのは初めてだったようで、楽しかったらしい。


「ルーカスさんもとても頭のよい方で、ユウさんが同行させるようおっしゃった理由がよくわかりました」

「あいつ、なにか失礼なことはしてませんよね?」

「ないですよ、そんな」


 くすくすとロージーは笑った。

 ……笑った?


「質問を変えましょう。失礼ではないが、なにか変なことをしませんでしたかね?」


 ロージーは声を上げて笑った。


「変なことは、はい、いっぱいありましたよ。ルーカスさんがどれほどユウさんのことを尊敬していらっしゃるのかよくわかりましたもの。でも詳しくは言わないでおきましょう。ルーカスさんとも約束しましたし」

「……あ〜」


 俺は額に手を当ててのけぞった。

 あいつ、やらかしたな! やると思ってたけども!!


「それで——ユウさん、次の調査内容ですが……もしかしてダンジョン内部とかですか? もしそうでしたら私が——」

「え? いや、それはさすがに大丈夫ですよ」


 ロージーに危険を冒させるわけにはいかないからな。

 ダンジョンのことは専門家がやる。つまり俺だが。


「…………」


 するとロージーは形の良い眉をきゅっと寄せてなにか考え込むような仕草をした。

 イヤな予感がする。


「……どうしました、ロージーさん」

「ユウさんは……ダンジョン内部の調査を別の人に頼まれるのだなと思いまして……」

「あー、まあ。別の人とというか、俺というか」

「え、ご自分で行かれるんですか?」


 このロージーの驚きは、アレですね。「お前そんなひょろっちいのになに言ってんの?」というアレですね?


「い、いや、もちろんひとりじゃないですよ? それにこのダンジョンはすでに死んでいるということですから危険は低いと考えていますし。ダンジョンの専門家がいればなんとでもなりますし」


 つまり俺だが。俺の俺による俺のためのダンジョン調査だ。ただし迷宮占領(オキュペーション)一発で終わる。場所さえわかればチョロいもんよ。……占領魔力足りないなんてこと、ないよな?


「……ユウさん」


 ロージーは真剣な目でこう言った。


「私もダンジョン内部の調査に連れて行ってください。これは私のワガママです。調査料金の支払いは結構ですから」




 俺はなぜそんなにダンジョンにこだわるのかロージーにたずねたけど、彼女としては、ここで中途半端に切り上げられることが耐えがたいのと、自分自身が力不足で調査を完遂できないことがイヤなのだと言っていた。

 うーん……まあ、危険はないんだよな。俺はまず迷宮占領(オキュペーション)でダンジョン全体を把握するつもりだし。あとはトラップとかに気をつければ大丈夫だけど、もう踏破から25年も経っているならほとんどが経年劣化で動かないはずだ。


 ま、いいか。


 という軽い気持ちで同行にオーケーを出した。

 ロージーはタダでいいと言ったけど、さすがにタダで来てもらうのもなあという気がしたので、ダンジョン内で気づいたことがあれば都度報告してもらって、その報告内容に応じて報酬を支払うということにした。

 べ、別にロージーといっしょにいたいワケじゃないんだからね! イヤ、めっちゃいっしょにいたいです。なんかラッキースケベ的なことが起きないかと期待するくらいには恋愛奥手です。

 知ってるか? ラッキースケベは現実には起きない。だからラノベやマンガにできるんだ。

 あぁ……わかってるよ。こんなだから女の子との関係が進展しないんだよな……。


 しかし問題がある。

 ロージーの手前、「ひとりじゃないですよ」とか言ってしまった。

 同行者が必要なんだよな……俺がスケルトンといっしょにダンジョンに潜っているところは見せられないし。


「……で、おいらかよ」


 お願いしたのはもちろん我がダンジョンのヒキニート、魔族ミリアである。

 ロージーとはダンジョンに現地集合とさせてもらった。いろんな理屈をこねて。理屈をこねるのなら得意だぜ。なんせWebディレクター時代にはクライアント様に納期を延ばしてもらうために理屈をひねり出し、外注デザイナーにむちゃくちゃな修正をやらせるのに理屈をひねり出したからな。なお給料を上げるための理屈はひねり出せなかった模様。


 ダンジョンの入口——確かに草の生い茂るところに、俺とミリアはいた。

 すでにリューンフォート南部ダンジョンは我が支配下にある。死んだダンジョンだからか、巨大建造物の割りに占領コストは1,600万と格安だった。俺の最大MPは成長を続けて今のところ6,500万あるので、余裕だ。


「リオネルを他の人間の前に出すわけにはいかないだろ?」

「それはまあ……そうだけど」

「ヒマだろ?」

「うっせーなー。ヒマじゃねーよ。おいらだって忙しいんだよ」


 これはヒマなヤツですわ。


 そうそう、ダンジョン内にはいくつかの生命反応があった。

 敵性らしいものがちらほらあり、それらにはスケルトン部隊を送り込んで討伐を進めている。リオネルが育てた武闘派骨軍団である。


「安全なんだろーな?」

「大丈夫だよ。俺はロージーを危険な目に遭わせたりはしない」

「……ケッ」


 なにが不満なのか、露骨にイヤそうにそう言うヒキニート。なんだなんだ。ロージーに失礼な態度取ったらお前にフライドポテトはもう買ってやらんぞ。


「あ、ユウさん! お待たせしました!」


 声が聞こえてきた。

 俺はロージーに手を振る。彼女は護衛にひとりを連れてやってきた。

 ロージーをひとりで移動させることに不安はあったのだが、どうも冒険者ギルド員時代につながりがあった冒険者とリューンフォートで再会したらしく、個人的に護衛を頼めるということだった。

 それなら俺も安心だ。

 なんせその冒険者は女性だからな。


「アンタか? 死んだダンジョンを探索するだなんてもの好きなパトロンは——」


 と言ってきたのがその冒険者。名前はカデッサ。そこまでは知っているが会うのは初めてだ。

 うーん、デカイ。身長180はあるな。でもって俺より胸板がある。バストという意味じゃなくて胸板な。

 額に革紐をぐるりと巻いていて、よく日に焼けている。

 身体は赤色に染めたレザーアーマーで覆われていた。

 でもって腰には2本の斧をぶら下げている。

 蛮族かな?


「……おい、それがアンタの連れかい? 魔族じゃないか!」


 カデッサがミリアに気がつくと、ロージーを守るように移動する。

 悪いヤツじゃなさそうだけど魔族への偏見はあるんだな。


「あ? おいらが魔族だとなにが悪いんだ? おいらから見たら人間のほうが吐き気が出るんだけど?」


 なんだか機嫌の悪いミリアが反撃すると、


「魔族は邪神を崇拝していると聞く。人間と相容れないのは当然だ。——ロージー、ここは帰ったほうがいい」

「カデッサ、なんということを!」

「さっさと帰れよ人間ども。しっしっ」

「……ミリア、フライドポテト」

「おいユウ! それはずりーぞ!」


 俺が腕組みしてふんぞり返ると、横からぽかぽかと殴ってくる。ふはははは。まったく痛くなどないわ。むしろお前がバカスカ食うことで俺の懐が痛いんだわ。


「な、なんだか……仲が良さそうですよ?」

「……そのようだが……アタシは気にくわない」

「でもですね、せっかくここまで来たんですから。それにユウさんのお連れの方が悪い人のはずがありません」


 こんこんとロージーがカデッサに説いている。

 俺の連れだがミリアは善人(善魔? いやそもそも悪魔種族だから魔族なんだし悪魔だよな? まあいいや)ではないぞ。言うつもりもないけど。

 思った以上に魔族アレルギーみたいなのがあるんだな、人間には。だからこそ奴隷としての価値があってミリアは運ばれていたのかもしれないが。

 そういやあの奴隷を運んでいたヤツらは何者なんだろうな。ミリアの両親というか過去にもつながることなんだろうけど、相変わらずミリアが言い出さないので俺としては放置している。言いたいときに言えばええんや。けして面倒事に関わりたくないわけではない。


「あー、とりあえず俺から一言。ミリアはこのとおり人畜無害だから気にしなくて大丈夫ですよ」

「……ユウさん、その、ミリアさんがユウさんの護衛なのでは?」


 しまった。


「お、おお、おう。そうそう。ミリアはこう見えて魔法が得意でね。危険をほとんど回避してくれるんですよ」

「なるほど。——ほらね、カデッサ」

「アタシは最後まで反対だけど、依頼主であるアンタがそこまで言うなら従う。ただしなにかあればすぐに撤退するよ」


 警戒心を目に浮かべてカデッサは言った。

 うぅむ。正直面倒だな。俺としてはささっと調査して終わり、でよかったんだけど……。


「これが過去に冒険者が残していたこのダンジョンのマップ。危険度の高いモンスターは——」


 カデッサはロージーと俺に説明を始める。

 うん。大丈夫。全部わかってるから。あと崩落があったからこのマップ大幅に間違ってるから……。


「くぁ」


 ミリアが誰はばかることなくあくびをした。

 うぅむ。面倒だ……。

四半期ランキングに入れました! ばんざーい。個人的な目標だったのでうれしいです。

今後ともダンジョン(あるいはそれに類する建造物)しか出てきませんが、よろしくお願いします。

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