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第39話 カルマな迷宮主

 俺が前に進化をしたのは「迷宮主」から「中級迷宮主」になったときだ。

 あのときは最大MPが50万に到達したタイミングだったので、迷宮主の進化条件は単に最大MPなんだとばっかり思ってた。

 でも今回は「上級迷宮主」じゃなく「静寂と反響の迷宮主ダンジョンマスター・オブ・エコー」と「暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネス」という2種類の進化先を提示された。

 明らかに違うよな、この2つ。

 なんかこう……「中級」にステップアップしたときは「正統進化」って感じだったけど、今回提示されている候補は、脇道というか、ニッチ化というか、一芸特化っぽい感じだ。


「カヨちゃん、静寂と反響の迷宮主ダンジョンマスター・オブ・エコーってどんな迷宮主なの?」

《音を利用したトラップ製作に特化した迷宮魔法を複数覚えることができるようです》


 できるようです、という言い方が気になる。

 だけどまったく情報がないよりはいい。


「それじゃあ暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネスは?」

《迷宮魔法以外に暗黒魔法への適性を得るようです》


 暗黒魔法!

 アレか? 自分のHPと引き替えに相手にダメージを与える「あんこく」を使えるのか? FF4は名作だったよな。


「それじゃあ、他の候補はなにがある?」

《情報がありません》

「上級迷宮主になるのはどんな条件なの?」

《情報がありません》


 出たよ。

 情報がないんならどうして進化できるようになっていきなり情報が出てくるんだっつう話だよ。


「あーっ、もう」


 舌打ちして迷宮司令室のテーブルで頭を抱えていると、


「あれ? ボス、帰ってたんですか」


 リオネルがやってきた。……泥だらけで。

 これはアレだ、またしゃれこうべサッカーをやっているんだ。こいつらときたらヒマさえあればサッカーサッカーサッカーだ。


「リオネル。お前、ちゃんと身体洗えって他の骨にも言っておけよ。汚い手で迷宮内のあれこれを触るんじゃねーぞ」

「わかっていますって」


 なんか、軽く見られた言われ方にムカッとくる。


「あのなあ? お前らは俺がMPくれてやってるから骨としていられるんだぞ? それをなんだよ――」

「ボス」


 リオネルが押し殺したような声で俺の言葉を遮る。つかつかと歩いてきて、俺の前にやってくる。


「な、なんだよ。あー、アレだろ、マジなフリしていきなりおちゃらけるいつものパターン? たいがいにしろよな、そういうの。いい加減俺だって——」

「……ボス、なにをしました?」

「はあ? なにをした、って、なんだよ? 俺がやったことをいちいちお前に報告しなきゃいけないのかよ」

「ボス、これは冗談でお話ししているのではありません。数日前から気になっていましたが……ボス、(カルマ)混沌(カオス)へと傾いている気がします」

「へ? カルマ? なに?」


 いつものとおり、真面目なフリして冗談でもかましてくるのかと思ったら、リオネルはマジな様子を保ったまま話を進めている。


「業とはそのものずばり、行いの属性です。善なることを行えば業は『秩序(オーダー)』へと傾き、悪なることを行えば業は『混沌(カオス)』へと傾きます」

「? ?」


 なんか、そんなふうなパラメータをどこかのRPGでやったことがあったような気がするが、それがなんだっていうんだ?


「ボスにしてはおかしいと思ったんです。言葉使いも荒い感じがしますし、纏っている空気がざらざらしています。正直に教えてください。ボス、なにをしたんですか」

「な、なんだよ……別に俺がなにをしたっていいだろ。それで俺が混沌だか秩序だか知らんけど、傾いたらどうなるっていうんだよ」


 リオネルは首を横に振った。

 そのそぶりは――悲しげに見えた。


「……話したくないのならそれでも結構です。ボスは我々のボスですから。ただ、私たちはここを結構気に入ってるんです。仕事は忙しいですが、しゃれこうべサッカーは楽しいですし、身分の違いもないし。混沌に傾いていくのであれば、和気藹々とした空気は失われるだろうと思っただけです」


 では、と言ってリオネルは去っていった。


「……アイツ、身体も洗わずに行きやがった」


 またサッカーやる気かよ、とうんざりした。

 だけど――リオネルの言ったことには心当たりがあった。

 俺の行いの「悪」たる部分。

 冒険者ギルドの襲撃だろう。

 いくら人間を襲わないようにしたからといっても、破壊行為だ。暴れるゴーレムを見て恐怖を覚えたギルド職員は多いはずだ。冒険者ギルドだけに損害を与えるなら誰もいない夜にでも仕掛けるべきだった。それを俺は、一時の感情ですぐさま実行した。


 ロージーに対して、後ろめたい気持ちを持っていたからだ。

 俺がいなければ彼女は冒険者ギルドをクビになんてならなかった。調査の仕事を与えているのも贖罪の気持ちから来ている部分がある。

 そんなロージーを悪し様に扱われて、いわばキレたんだ。


「……くそっ」


 好きな子をからかわれた中学生かよ。

 情けない。


 ロージーとともに行動しているルーカスは、俺を裏切らないはずだ。今のところは。そんなルーカスに嫉妬するのだって間違ってる。

 わかっている、理性では。

 感情が暴れているのは――俺の業が混沌に傾いているから、ということなのか?


 そうか……それで、出てきたんだな、暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネスが。

 ギルドの襲撃に関して「当然だろ」と俺は迷いなく肯定した。そのとき、業が混沌へとさらに傾いたのだ。そうして進化の条件を満たした。


「俺が暗黒なんて……柄じゃねーか」

「ん? どうしたんだ、ユウ?」


 そこへちょうどミリアがやってきた。


「……ミリア、最近の俺、ちょっと変だったか?」

「あー」


 ぽりぽりと後頭部をかく仕草を見せるミリア。

 わかります。変だったってことですね。


「わかった、いい。変なこと聞いてすまなかったな」

「どこ行くんだ?」


 歩き出そうとした俺へ、ミリアが聞いてくる。


「孤児院」

「……へ?」




 俺はいくつか占領していたリューンフォートの建物のうち、孤児院について思い出していた。

 教会の下部組織のようで、教会のちょうど裏手にある。

 ちなみに今、教会を占領しようとしてみたら必要MPが「9億4,220万」という数字が出ていた。すげーな教会。まあ、貴族街に入るには411億必要だから、それに比べれば少ないけど。孤児院の占領は15万程度だった。しょっぱい。


 孤児院の真下に転移して、誰もいないことを確認してから入口へとやってくる。


「なんでこんなとこに来たんだ?」


 どうしてもついていくと言ったミリアを一応連れてきたが、俺としてはさっさと帰るつもりだ。

 孤児院の入口は見るからにしょぼかった。ドアの建て付けは悪く、魔導ランプではなく質の悪いロウソクを使っているせいか、壁のあちこちがすすけている。

 だけれど、ひび割れた廊下は掃き清められ、差し込む光の向こう、子どもたちの歓声が聞こえてくる。

 きちんと運営されているんだ。


「お心ある方は」と書かれた紙が壁に貼られてある。

 その下には寄付金箱がある。

 のぞきこむと中には数枚の銅貨が入っている。

 お心ある方はどこにでもいるのだ。いいことだ。額は小さいけどな。


「ん……ユウ、それって」


 俺は革袋を取り出して、寄付金箱に突っ込んだ。じゃりじゃり、と硬貨のこすれる音がする。


「帰るぞ、ミリア」

「え、もう終わり?」

「俺が孤児院に、寄付以上の用事なんてあるわけないだろ」

「やっぱ寄付したのか。いくらしたんだ?」

「きん――」


 言いかけて、止めた。

 こういうのは威張って言うことじゃない。


「なんでもいいだろ。帰るぞ。帰らないなら置いていくからな」

「あ、待てって!」


 俺はミリアとともに迷宮司令室へと戻る。

 多少はすっきりしたものを心に感じつつ、耳にはカヨちゃんの声で、


《条件を満たさなくなり、暗黒迷宮主ダンジョンマスター・オブ・ダークネスへと進化することができなくなりました》


 という言葉を聞きながら。

 金貨10枚で心の平穏を買えるなら、安いものだ。……いや、高いけどね?


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


ちょっと短いですがきりがよいので。

次回はファナとリンダがゴーレム襲撃事件を調査します。

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― 新着の感想 ―
行動で変わるって Wi◯やん 懐かしい とはいえ 昨年、SwitchでもPSでもリメイクされたので 今は知る人ぞ知るって感じかな?
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