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第3話 異世界で赤髪の女神に出会った(陰からのぞいただけとも言う)

すみません、変態表現があります。苦手な方は今後もちょいちょい出てくると思います。

「――ひゅぉっ」


 うつぶせ状態で俺は目が覚めた。

 なんだ、俺、なにしてたんだっけ? ああ、そうか迷宮主になるとかいう変な夢を見て……。


「…………」


 素っ裸。

 土だらけ。

 夢じゃ、ない……。


 5分くらい「あー夢だと思ったのにィ!(じたばた)」を繰り返してから身体をむっくり起こす。

 洞穴の奥、1メートル四方の通路がくりぬかれているところで寝転がっていた俺。

 真っ暗のはずが、なんか知らんがよく見える。

 えーと、迷宮魔法使ってたら、いきなりぶっ倒れたんだよな……。

 なんで俺、倒れたんだ?


《魔力が尽きたためです》


 うお、びっくりした。

 そうか。カヨちゃんが教えてくれるんだっけ。


「魔力、って……あんなふうにちょっと使っただけで尽きちゃうのか?」

《…………》

「うむむ、こういう質問だと答えてくれないのか。融通効かねえな……えーと、それじゃ。昨日の俺が使った魔法は、俺が持ってる総量の魔力に対してどれくらいだったんだ?」

《昨日の魔力総量を10とすると、空間精製(リムーブ)空間復元(リロード)はそれぞれ1回ごとに1を消費します》


 10回しか使えないんかーい!

 しょぼっ! 迷宮主しょぼすぎ!


 ぐぅぅぅ……。


 がっかりしていると俺の腹が失望したような声を上げた。すなわち腹が減った。

 そりゃそうだよな……何も食ってないもんな……土食うわけにもいかないし。


「あ、そうだ。空腹無視(カロリーゲイン)って魔法あったよな。あれって魔力消費どれくらいなの?」

《10です》

「いきなり卒倒するじゃねえか! バランスおかしい! おかしいからな!」

《魔力切れにはなりません。1残ります》

「……え?」


 魔力総量が10って言ったよな?

 で、魔力消費が10なんだろ?

 じゃあ、0になるじゃん?

 ……合ってるよな? なんか不安になってきた。異世界転生して初めての算数だ。不安にもなる。


「俺の魔力総量が10だろ? で、魔力消費が――」

《11です》

「は?」

《魔力総量は、昨日が10とすると、今は11です》


 増えてる。


「毎日1ずつ総量が増えるのか? で、寝ると回復する?」


 しーん。

 答えろよ! これダンジョン的質問じゃん!

 って思ったけど、違った。

 カヨちゃんが答えてくれるのは1つの質問に1つの回答。立て続けに2つはダメ。


「毎日1ずつ総量が増えるのか?」

《いいえ。魔力消費量に応じて、およそ1割まで増えることがあります。睡眠のタイミングで総量が増えます》


 筋肉の超回復ってやつか。

 あれ、超回復って都市伝説だったんだっけ? まあいいや。


「魔法を使えば総量はずっと増え続ける?」

《いいえ。個体差があり、総量にも限界があります》

「……なるほど。レベルマックスってことか」

《レベルという概念ではありません》


 いいんだよ。俺が納得できればそれで。というかそういうところにツッコミはしてくれるんだな。もう君のことがよくわからないよ、カヨちゃん。まあ、元々香世ちゃんのこともよくわかっていたとは言いがたいが。いい子だったけどね。


「寝れば魔力は回復する?」

《大気中の魔力を吸収することで、時間経過で回復します》


 あ、そうなんだ。それじゃあやってみてもいいかな――空腹無視(カロリーゲイン)


「…………」


 空腹が、止まった。


「……俺の残りの魔力総量は?」

《1です》

「増えたり減ったりするたびに教えてくれない? ……ってそんな便利機能はないか」

《承知しました》


 できるんかーい。


「あ、それなら魔力量って言うの面倒だから、MPって言ってくれる?」

《…………》


 できないんかーい。


《……承知しました》


 なんでイヤイヤなんだよ。感情あるのかよ。


「じゃ、じゃあ、MPでよろしく……。空腹無視(カロリーゲイン)の魔法って、使ってれば俺は飯を食わなくてもいいのかな?」

《理論上はそうです》


 なんか気になる言い方だな。理論上って。

 いろいろ聞いてみると、エネルギーだけでなくビタミンやカルシウムといった必要な栄養素も摂取できるみたいだ。

 ただ本来俺は食事をする生き物なわけだ。口あるしな。それをしないとアゴが弱ったり内臓が弱ったりするぞ、ってことみたい。

 うーん、食事もしなきゃだなあ。いや、その前にトイレもなんとかしないと……今のところトイレしたい気持ちはないんだけど。ああ、あと水か。


「あれ? ダンジョンマスターの俺って人間なの?」

《人間と同じ生体機能を有していますが、迷宮主としての生体機能も有しています》


 迷宮主としての生体機能について気になったので聞いてみた。


 で、


「……ふごっ!? く、苦しい、くるしっ」


 俺はあわてて腕を突っ込んでダンジョンの入口を開けた。

 ひとつ目の生体機能。「ダンジョンは呼吸する」。

 ダンジョンの入口を閉じてはいけないらしい。閉じると窒息する。

 ……土砂崩れとか起きても死ぬの? やばくない?

 入口はいくつあってもいいらしいので、俺は、入口をいくつも作っておくことを決意する。ただそうするとあちこちから人が入ってくる可能性があるってことなんだよな。10センチ程度の空気孔にしておこう。

 リスクをヘッジするためにリスクを増やすなんて意味ないもんな。




「あー、ほんとだ。リアルに見えてくるわ」


 ふたつ目の生体機能。「ダンジョンは壁まで」。

 今のところダンジョンとして認められているのは俺がいる空間+壁や床や天井の厚さ30センチまで。

 どこがダンジョンの切れ目なのかは、ダンジョンマスターしか把握できないみたいで、じっ……と頭の中で集中すると、ダンジョンのすべての空間が3Dで把握できるらしい。やってみたらできた。


 ちなみにこの「30センチ」の幅に潜り込む迷宮魔法が潜伏(サブマリン)らしい。冒険者から逃げるのに使えそうだけど、気配はダダ漏れなので使い勝手が難しい。裏道みたいなもんかなあ。

 1歩ごとにMPを1消費するから今の俺にはあまり使えないけど。


 あ、そうそう、潜伏(サブマリン)に関連する魔法が被覆(カバー)だ。

 カバーは、迷宮の対象範囲が「空間+厚さ30センチ」となっている厚さを、分厚くする魔法なんだ。

 この魔法何に使うんだよ……って思ってたけど、サブマリンと組み合わせれば。裏道作りたい放題だな。


 裏道作ってどうするのか、って?

 俺にもわからん。

 人間にだって「盲腸」があるだろ? なんのためにあるのかわからないヤツ。


《6》


 と、頭の中でカヨちゃんの声が響く。MPが増えたんだな。

 三つ目の生体機能。「ダンジョン内の有機物を消化して成長する」。

 土を掘ってたら出てきたミミズ。コイツを殺して……かわいそうだけど、これも実験のため……ダンジョンの床に放ると、溶けるようにミミズが消えた。

 そしたら魔力が増えたってわけ。

 直前の魔力が3だったので、ミミズを消化して6に増えたみたいだ。

 ミミズのスキルを吸収するとかそういう便利機能はない。あくまで俺は迷宮魔法の使い手だ。ラビリンスウィザード、とか言ったらかっこよくね? 32歳のくせになに言ってんのかって? うるせー、男はいつになってもそういうこと言いたいんだよ!


 あと、時間経過で回復する魔力は、10分経つと1増えるくらいだった。10分で1割ってとこか。




 そんなことをしながら数日が過ぎていった。

 俺はその間、迷宮魔法を検証したり生活環境を整えたりしていた。


 まず、水な。とにかくこの生活は身体が汚れる。土しかないし。汚れても生きてはいけるんだけど、垢も出るから汚いのはイヤじゃないか。……その垢もダンジョンが吸収するからなんかすごく微妙な気持ちになるんだが……。ちなみにトイレもな。カロリーゲインで大のほうは出ないが、小は少々出る。ダジャレじゃないぞ? でもって出たものは吸収される。残そうと思えばできるけど、特に意識していないので吸収されてMPが回復された。俺知ってる。これマッチポンプってやつ。


 それはさておき、俺は水を確保しようと思った。

 一度雨が降った。

 そのときに水がじんわり染み出してくる壁があって、そっちをちょっと掘ったら、水がぽとぽとと垂れてきたんだよな。

 どうも湧き水に通じていたみたいで、そこを整備した。

 入口側の壁に水が落ちてくる場所を設置した。下には湧き水を溜める穴を掘る。水は有機物じゃないからダンジョンも吸収しない。ゆっくり地面に染みこめばいいやという感じ。

 溜まった水を使って俺は身体を洗った。洗ったあとは両腕を軽く広げて、ひとりタイタニックみたいな感じでたたずんでいた。乾かすために。寂しすぎる。


 あとこの洞穴、いつ何時誰に見つかるかもわからないだろ。

 だからダミーの壁を設置した。のぞき穴と空気穴だけ開けておいて、その奥にほんとうのダンジョンがあるという感じね。

 とりあえず訪れた人間が「熊の冬眠穴か?」「なんだただの洞穴か」くらいに思ってくれればいい。

 奥は掘りまくってどんどん拡張しているところだ。

 ただ水は、相変わらず他の場所に見つからないので洞穴の入口にしかない。




 どうせ誰も来ないだろう……俺は油断しきっていた。

 そういう油断って、ダメだよな。

 洞穴の入口付近で魔力回復がてらひなたぼっこをしてたんだ。俺、裸で。ここしか日の当たる場所がないからさ。


 ザザッ。


 足音聞こえたんだよ。

 今まで、鳥と虫の鳴き声しか聞いてなかったから、すんげえびびった。動物? 人間? 動物だったら殺せば肉食える? いやいや、武器がないっての。


「***」


 声! 声だ! 人間だ!!


 その瞬間、俺は回れ右してダンジョンに逃げ込んだ。ダミーの壁を空間精製(リムーブ)、で開けて、中に入り込んで、空間復元(リロード)で復元する。

 心臓がばくばく鳴っている。のぞき穴から向こうをうかがう。あれ、逃げる必要なかったんじゃないか? そ、そそ、そうだよな、俺を保護してもらって……保護ってなんだよ! 保護できねえよ、俺、ここから出られねーんだし。


 混乱しまくってると、洞穴の入口に人影が現れたんだ。

 逆光で見えづらい。

 背は……大きくないな。だぶついた服着てる。

 背中になにしょってんだ? ……弓? それに矢筒か?


 ファンタジーだ……ファンタジー世界だ……。


 いよいよもって俺は異世界にやってきてしまったことを痛感する。いや、待て。群馬なら弓矢で狩りをしていてもおかしくないんじゃないか?


 いまだに混乱している俺をよそに、その人物は警戒しながら洞穴に入ってきた

 手にはナイフを持っている。ちょっと錆びついているが、凶悪な切れ味っぽいナイフだ。デカイしな。


 その人物が、逆光じゃなくちゃんと見えるようになって――。



 女の子だ……。



 赤い髪は短髪で、かなり無造作に切られている。

 目も赤い。肌の色は白っぽい。狩人にしては白すぎるんじゃないだろうか。

 だぶついた服の上からでもわかる。胸が大きい。すんばらしい。


 心臓の鼓動が早くなる。

 ここは異世界だ。異世界に違いない。こんな山奥……たぶん山奥に、たったひとりでやってきた女の子。年齢は17とか18だろうか。わからない。日本人じゃない。ここは俺のダンジョンだ。なにをしたって、なにが起きたって誰にもわからないはずだ。いざとなれば迷宮をずっと拡張して、ここの入口を塞いで別のところに入口を作ることだってできる。そうしたら、あの子が油断した隙に壁を開けて後ろから襲いかかって……。


 はっ。


 な、なに考えてるんだ、俺……危ねえよ。危なすぎるよ。考えが。発想が。素っ裸で誰とも話さず数日も生きてるからこんな危ない発想するんだ。


「******、********?」


 独り言をつぶやく彼女。

 首をかしげている。なにに疑問を覚えているかはわからないけど、ここは安全ですよと言ってあげたい。ていうか言葉通じなさそうだな……。聞いたことある言葉じゃないもんな。

 そう考えるとカヨちゃんが日本語を話してるのはなんでか、ってことだけど、まあカヨちゃんだしな。俺の中にいる存在だから日本語なんだろうな。


 赤髪の彼女は俺のシャワースポットを発見した。そちらに近づいていく。

 壁面から伸びている石から垂れている水を手で受け止め、ニオイを嗅いでいる。

 きゃっ。そこは、アタイが毎日水浴びをしながら「んもう、お肌がガサガサしてきたわあ」とか言ってる場所なんだからねっ。

 ……いやさ、ここんとこひとりだったから、そういうことしたくなったんだよ。しょうがないだろ。カヨちゃんはもちろんガンスルーだけどな。


 で、赤髪の彼女は水を飲み始めた。安全だと思ったのかな。俺もまあ飲んでるけど。

 ふう、と息をつく彼女。


「…………」


 なにかを考えるようにしてから、弓と矢筒を下ろした。


「!?」


 俺は目を疑った。

 服を脱ぎだしたんだ、彼女。

 ぽいぽいぽーいってな。もう清々しいほどの脱ぎっぷり。


 服、脱いだら人間がどうなるか知ってる? 裸になるんだよ! 俺は服持ってないけどな!!


 俺は声も上げずに見てた。っていうか見る以外の人間的機能をすべて忘れてた。

 なんてことだ……。

 服の下から現れた、たわわな果実がふたつ。

 肉まんとかそんなちゃちなもんじゃあねえよ。

 若々しいすべすべの肌に、ふだんは服の下だからだろう、ものすごく肌白くてな。

 サクランボのピンク色がすばらしい……いや、俺はサクランボの話をしてるだけだからな。勘違いするなよ? 急にサクランボってピンク色ですばらしいよな、って思い出しただけだからな。おい、ノクターンノベルの話はするな。これくらいならセーフだよな? 累計トップのほうにもエロ描写いっぱいある小説もあるし……って俺はなにを言っているんだ!


 ちなみに下も脱いでた。パンツだけはしたままだったけど。こっちのパンツって、男物のトランクスみたいで、色気もへったくれもないな。

 彼女は手ぬぐいを水でひたして、身体を拭き始めたんだ。

 みるみる汚れが落ちていって……そこにはぴかぴかになった彼女がいた。


《8》


 まるで俺の行為を咎めるようにカヨちゃんの声が聞こえてきた。あ、すみません。のぞき行為ですよね、これ。

 ……ん、待てよ。このタイミングで魔力が回復するってことは……あれか、彼女の垢を吸ったのか。

 おおおおい! なんだよそれ! グッジョブ……じゃなかった、節操ないなダンジョン! ていうかダンジョン=俺だけど!


 俺は柏手を打ちたい気持ちを抑え、そっと両手を合わせて彼女を拝んだ。

 彼女は女神である。

 孤独な俺の心を安らげ、MPまで与えてくれた。

 赤髪の女神である。

 異論は認めない。


 女神に触れるなどもってのほかだし、話しかけるなんて不敬もいいところだ。信者たる我は、こうしてひっそりと拝み奉るだけである。


「!?」


 とか考えていたら、俺はさらにとんでもないシーンを見た。

 女神が……女神が、パンツを脱ぎながらしゃがみ込んだのだ……。


 シャアアアア。


 …………。

 …………。

 ……さて、ここで世界の平和について考えてみたい。平和についての定義は人によって様々だ。争いがないことを平和と言うべきか、あるいは自分にだけ争いがない状態であれば平和と言っていいのか。戦力を持っていない状態が平和なのか、戦力を持っていても争いがなければ平和なのか。そもそも――。


《26。召喚(サモン)スネークが使用できるようになりました》


 え?

 カヨちゃん……カヨ様? 今なんて? 今僕のMPは?


《26です》


 俺がダンジョンマスターになった日、10。

 翌日、11。

 今朝の段階では16だった。当然だ。毎日1ずつしか増えなかったんだから。


 それが……え、なんで?


「****、**」


 女神がなにかを言っている。気づけばすでに服を着込んでいた。

 え……もしかして、女神の……女神が放出された、おしっ……聖水? 聖水を吸収したの? そうしたらMPが上がったの?

 えーと……女神の聖水で、マックスMPを超えたぶん含めて18回復したということに……。


 いつの間にか赤髪の女神はいなくなっていた。

 俺は壁のこちら側に、女神をあがめる神棚を作るべきかどうか真剣に検討することにした。

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 ◆  ◆ 新しい小説も始めているので、そちらもご覧いただければ幸いです。 察知されない最強職《ルール・ブレイカー》 ~ 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう http://ncode.syosetu.com/n5475dz/
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