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第24話 メガネ巨乳ちゃんの貞操の危機と、ホークヒル脅威論

 そいつが酔っ払っていることはすぐにわかった。裏口から入ったと思うと、たたらを踏んで壁にへばりついたもんな。30歳くらいの男。ちょっと脂ぎっていて、頭髪が寂しい感じになっている。

 ギィ、ギィ、と俺の足音の10倍くらい音を立てて進んでいく。向かった先は——宿直室だ。


「……誰ですか」


 枕元の魔導ランプを点灯した、眠れるベッドの巨乳美女はメガネだってもうかけている。さすがにこれくらいうるさいと起きるみたいだ。

 俺? 俺は潜伏(サブマリン)で壁に半分身体を突っ込んで、残り半分は隣の部屋に出ている状態で息を潜めているよ。いや、完璧に隣に行ってもいいんだけど、ちょいちょい自分の目で様子を見たいじゃないか。壁から人間の顔が出てきたら軽いホラーっていうかジャパニーズホラーっていうかいわくつき物件になってしまうことは間違いないので、バレないようにひっそりと見るつもり。


「お、俺だよ……ロージーちゃん。っぷ」


 げっぷ混じりに言うなよ。

 呼ばれた彼女——ロージーちゃんは男が誰かわかってホッとした様子を見せる。


「……驚いた。レゲットさんじゃないですか。どうしたんですか——こんな遅くに」

「ちょっと部の連中と飲んでいたらこんな時間になってしまってね」


 ちょっと飲むだけで夜中の2時とか(俺のギルド内部探索は1時間くらいかかっていたみたいだ)、異世界の飲ミュニケーションやばくね? パワハラ・アルハラ上等なの?


「そんなに飲んで大丈夫ですか? 明日も仕事でしょう」

「ロージーちゃん、心配してくれるの? 優しいなあ」


 うぇへへへと笑いながら背中を壁にくっつけたレゲット氏はずるずるとその場に座り込む。アレだ。海外ドラマとかで銃で腹部を撃たれた刑事が反撃で相手を撃ち殺すんだけど、自分も重傷だもんで壁に身体をもたせながらずるずる座り込むような感じ。わかりにくい? 俺もそう思う。


「このベッドで休んでください。私は2階で予備の布団を出しますから」

「いや、いやいや、悪いよ。全然、酔ってないから」

「それが酔ってない人には見えませんよ」


 はあ、とため息をつきながら立ち上がるロージー。パジャマ姿だ。薄手のネグリジェに、上着を羽織っているだけの。下着をつけていないからだろう、胸がゆっさりと揺れた。ゆっさゆっさじゃない。ゆっさり、である。

 ごくり、とつばを呑んだ——レゲットが。


「平気だって、ほんと。むしろロージーちゃんが心配で見に来たんだよ」

「私をですか?」

「毎日遅い時間まで調べ物しているだろう。この宿直室なんて今や誰も使ってないのに、泊まり込みの部屋に改造して」

「ええ……まあ。でも、この件はしっかりさせないと、気味が悪いので」

「……『ギルドの危機』、だっけ」

「はい。レゲットさんは笑うのでしょうが」

「わ、笑わない。笑わないって! むしろ感心してるんだよ、ロージーちゃんの視点が……斬新で。なんだっけ、あの——」

「ホークヒルですか?」

「そうそう、あの新しいダンジョン。ホークヒルね」


 ん……ふぁ!?

 なに、なにいきなり我が迷宮の話が始まってんの!?


「あのダンジョンが……『町を侵略している』、だっけ」


 ふぁ!?

 バレてる!? もう俺が町の地下から建物を占領しようとしていることがバレてる!?

 誰だ。どこからバレた。やはりリオネルか。やっぱりな! あの骨、絶対口が軽いと思ってたんだよ!!


「……そんな、センセーショナルな言い方をしてしまったせいで、ギルマスからは疎んじられていますけどね」

「そりゃあ……この町の平和の一翼を担っているこのギルドを、貶めるような言い方だから」

「そういう意味ではないのです!」

「わ、わかってるよ、お、俺に言わないでよ……」


 ゆっさり、と近づいてロージーが強調するので、思わずごくりとつばを呑んでしまう。俺が。レゲットは両足で股間を挟み込んで、状態変化「興奮」になっているのをバレるまいと切ない努力をしている。

 ダメだよロージー。君は凶器なんだ。歩く凶器なんだ!


「ホークヒルは危険なんです! それを証明するためのデータを集めていて……ようやくそろそろ行けるかっていうところまで来ているんですよ!」


 ゆっさり、ゆっさり。近い。近すぎる。

 レゲット氏の視線がその胸元に吸いついて離れない。

 ホークヒルの危険度について俺もすごく気になっていたが、それ以上にゆっさりと揺れるたわわに実りし神の果実が俺も気になって仕方がない。これはもうどうしようもない。ライブで見てしまうとヤバイ。壁から俺の顔が半分出てしまうくらいヤバイ。血走った目の顔が壁面から浮かび上がっている状態とかどう考えてもヤバイ。


「ギ、ギルマスは、そうとう君のことを不快がっている」

「……そうかもしれません。それでも、思っていることを言わなければ、調査部の職員として仕事を続ける意味がありません」

「最悪、君は首を切られるぞ」

「……はい」


 ぎゅっ、と自分を抱きしめるようにするロージー。……あかん、あかんて、そのポーズは、神の果実が搾り出されるみたいになってるて!

 ふんす、ふんす、とレゲットの鼻息が荒くなる。あかんて!


「そ、そ、それじゃあ困るんだよ」

「はい——ギルドが危機のままでは困りますよね」

「そうじゃなくて、君がいなくなると、俺が……」

「そうだ、レゲットさん!」

「!?」


 壁際、座っているレゲットの肩をつかんだロージー。

 レゲットは体育座りのような格好だったんだ。

 そこに——ロージーが前屈みに入っていったワケ。

 そうなるとな……当たるんだ。ボクサーがジャブの練習する、上からぶら下がっている小さいサンドバッグみたいなヤツな、アレのようにゆっさりと揺れて——レゲットの膝にぴたんと当たったんだ。


「〜〜〜〜〜〜〜〜」


 レゲットの視線は完全に谷間に吸い寄せられている。


「レゲットさん、私がもし首になってもデータを引き継いでくださいませんか!?」

「あ、う、あ」

「そうすれば、多少でも私が調べたことが残って行くのなら……それで私はあきらめます」

「う〜〜〜〜〜」


 彼女が力説するたびに、ぴたん、ぴたん、とレゲットの膝に当たる水風船。

 これは……アレだ。思っちゃうよな。レゲットも。「誘われてる」って。


「ロージー……ちゃん」

「はい」

「うおおおおおおおお!!」

「きゃああ!?」


 やった。やっちまった。レゲットが飛び上がってロージーを押し倒した。


「お、お、俺! 俺も前からロージーちゃんのことがっ……!」

「なっ、なにを……レゲットさん、どうしたんですか!」

「すすす好きなんだ! ロージーちゃんも俺が好きなんだよな!?」

「はぁっ!?」


 ロージーがいやいやして逃げようとするが、レゲットはかなり体重がある。彼女のメガネは倒れた衝撃ですっぽ抜けている。


「ギルドの中っていうのも燃えるよね! 待ってね、今からひとつになろう!」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと、レゲットさん!」

「はい!」

「きゃあああああああああ!!」


 下を脱ぎ捨てたレゲットの——これはひどい。レゲットJrがぽろんしたのだ。見たくなかった。視界にモザイクが自動でかかる仕組みでもあればいいのに。

 そうしてレゲットが最後の一線を越えるべくロージーに襲いかかる——直前。


「あの、嫌がってる相手に無理矢理っていうのはよくないですよ」

「……え!?」


 俺がレゲットの背中に手を置いた。

 あ、うん、冷静に見つめてただけじゃないんだよ。俺なりにどうしたらいいか考えてたんだよ。女性が襲われるのを眺めて興奮できるほど落ちぶれてはない。……うん、他人がこんなふうになるのを見て、俺もすげー反省した。ものすげー反省した。俺、相手と同意の上でないと、ことを起こさないことにしよう。したことないけど、たぶんできるはず。絶対できるはず。

 で、レゲットが俺を見るよりも前に、俺は手にしていた青色の珠を彼にくっつけた。「転移」と書かれた青色の珠は初級第2ダンジョンではおなじみのアレだ。

 いやさ。金属の棒で殴ったりしたらヘタすると死ぬよな? 血も出るし。だから、転移。

 転移先はこの建物の上——屋根の上だ。

 隣の建物からも離れているし、ベランダもない建物だ。降りるに降りられない場所であることは、構造を知り尽くした俺にはわかっている。ちなみに言うとレゲットは下も脱いでいるからかなり情けない状況だ。朝になったら誰かに下ろしてもらえ。


「あ……あれ? あ、あなたは誰——」


 ロージーが、落ちたメガネを探しているうちに、俺は魔導ランプの明かりを消した。目は悪そうだから見られてない——と思う。

 俺は、わざとドアから部屋を出て、裏口へと向かい、ドアを開けた。そのまま潜伏(サブマリン)で隣接している部屋に移ったところで、魔導ランプを追ったロージーが追ってくる。


「いない……」


 ぶるっ、と身体を震わせたロージーは、それから服を普段着に着替えると短剣を腰に差して見回りの衛兵を探しに外へと出た。


「危ないなあ……」


 そんなふうにつぶやいた俺は、高速移動(ファストムーブ)で迷宮司令室に戻ったのだった。

 明日、どうなっているか見届けようと心に誓って。


「あれ? ボス、どこに行ってたんです?」


 骨が話しかけてきた。


「なあ、リオネル。お前、このダンジョンの秘密漏らしたか?」

「はあ? 私が誰と話をするっていうんです? って……ボス! なんか臭いですよ! うわー、臭うボス!」


 うっさい骨。

 仕方ないだろ、裏口の隣の部屋はトイレだったんだから。




 翌朝、ギルドの地下に移動してきた俺。どうなったか非常に興味があったので、ルーカスの店でサンドイッチを作ってもらい、それをかじりながら高見の……低見の見物である。


「ねぇねぇ聞いた?」

「聞いた聞いた!」


 ギルド職員の控え室らしき場所。女子職員の声が聞こえてくる。


「レゲットさんがロージーに襲いかかって話でしょ? ヤバイよね〜」

「うん。あいつってウチらのこともめっちゃ血走った目で見てたでしょ。ほんとヤバイ」

「でもレゲットって……一応貴族家なんでしょ」

「あー、そうそう。みたいね。だから立場を考えて、一方的にレゲットが悪いってギルマスは言えないみたい」

「ロージーもギルマスから目をつけられてたからね〜」

「今、上で話してるみたいよ?」

「マジ?」


 マジ?

 俺、3階を確認する。生命反応は2名。お偉いさんの部屋に入っている。高速移動(ファストムーブ)で廊下まで移動した。魔力はほぼ満タンだからな、高速移動(ファストムーブ)使い放題だぜ?

 注意深く生き物の気配を探りつつ、お偉いさんの部屋のドアに耳を近づける。……うん、魔法による障壁がない。中に主がいるときは発動しないのかな。


 ——またお前はそんな与太話をするのか。

 ——与太話ではありません! ホークヒルはほんとうに危険で——。

 ——今はレゲットの話だ。あんな格好で屋根の上に上がっていたから、言い逃れはできないだろうが、どうやってお前はレゲットを吹っ飛ばしたんだ。

 ——吹っ飛ばしてなんて……。

 ——ちょうどいいタイミングでやってきた、誰とも知れぬ若者が助けてくれたなどと、誰が信じる。


 信じてくださいよ、ギルドマスターさん。……勝手に、この渋い声の男性をギルドマスターだと思ってるけどたぶんそうだよね?


 ——信じてくれなくても構いません。

 ——いいのか? このままではお前は首だぞ。

 ——私は……調査部の職員としての自分に誇りを持っています。だから、今のギルドの現状を憂慮しています——。


 あ、ヤバイ。誰か3階に来る。

 俺はどこに逃げようかと考えて、2階を選択する。2階、まだ職員が出社してないんだよ。

 広々としたオフィスではあるけど、ロージーの机はすぐにわかった。同じメガネが置いてあったからな。予備だろうか。


「これか」


 置いてあった文書。「ホークヒルの脅威」という題名。え、えぇ……俺、そんなに脅威なことしたっけな……?

 俺はその文書を読み始めた。

 読んでいくうちに、認識を新たにする。


 胸がでかい女は頭がカラッポとかいう言葉は、迷信だ。


 ロージー、かなり仕事ができるぞ。

 そりゃ脅威だわ……ホークヒル。

 俺、この町のギルドに与える影響とか、全然考えてなかったわ。


脅威論で思い出しましたが今期アニメはオカルティックナインがめっちゃ面白いですね。

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