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第21話 迷宮主、町へ(地中)

 初級第2ダンジョンはなかなか盛況だった。金貨1枚という報酬の低さを嫌がる冒険者もいたが、攻撃も魔法もOKというのが気に入った冒険者が多く、初日の売り上げは銀貨212枚だった。


「やっぱりよ、1人で潜り込んだほうが成功率が高いと俺は思うぜ」

「バカ、なに言ってやがる。お前が足を引っ張らなきゃもっと奥へ行けたんだ」

「ゴーレムにびびってるヤツが言うんじゃねえ」

「なんだと!」

「止せ止せ。俺たちはここに、ダンジョン攻略に来てるんだ。ケンカしてどうすんだ」


 そんな会話が、宿やレストランのあちこちで繰り広げられている。

 まだ暖かい季節だ。客が多すぎて困っているルーカスのレストランは、レストランを奥に拡張するのではなくテラス席を増やすことで対応している。やはりダンジョン内部に席があることを嫌がる冒険者もいるようで「こういった、認識を改めるには時間がかかるのです、先生」と言っていた。やはりできる商人は違う。

 そのルーカスは初級第2ダンジョンができるや、アルスたちの次に飛び込んでいた。ひとりで。


「おおおおお! これが先生の新しいダンジョン!」


 なんて叫びながら突っ込んで行ったが、クリアはできなかった。身体を使った挑戦は頭脳派のルーカスには向いていないのだろう。

 それでもルーカスは他の誰よりも奥まで進んでいて、俺は肝を冷やしたのだが。


「では行きましょうか、ボス」

「うん」


 初級第2ダンジョンの評判をひとしきり確かめた俺は、リオネルとともに迷宮の街道側へとやってきた。


「今日中には行けると思いますよ」

「最初の町だな」


 俺の真上、街道をリオネルが歩いている。時刻は夜11時。さすがに通りがかる乗合馬車もなければ旅人もいない。山賊はいるかもしれないが、先日の騎士による大捕物のおかげでこの辺りにはいなさそうだ。


「ボス、右です」

「はいはい」

「ボス、行きすぎです。ここからぐるっと右にカーブしています」

「はいはい」


 ん、俺たちがなにをしているのかって?

 迷宮の拡張――ではない。まあ、拡張はしてるんだけど。

 俺は地中を掘り進めながら天井に向かって平面整地(ローラー)をかけ続けていた。これによって天井は硬くなる。どのくらい硬くなるかと言うと、剣をぶつけても剣が折れるほどだ。

 街道の整備である。

 雨が降ったり馬車が通ったりで街道は常にでこぼこだ。土が削れるのだからそれもそのはず。だが、平面整地(ローラー)をかけておけばどうなるか――柔らかい部分が取れ、硬い地面が現れるというわけ(俺から見ると天井だけどな)。

 初級第3ダンジョンをオープンするには、冒険者ではない一般客を増やすことが非常に重要だった。だからこその処置だ。街道が整備されれば交通量が増える。最初は商人が挑戦すればいい。ホークヒルが安全だとわかれば一般客が増える。その増え始めの段階で初級第3ダンジョンを公開する。


「もう1キロメートルほどまっすぐ行けば町ですぜ」

「おっ、もうそこまで来ていたか」


 俺たちが目指していた町は、こっちの世界にやってきて、初めて俺が目にした町だ。ルーカスの出身地でもある。

 名を、リューンフォートという。


「戻っていいぞ、リオネル」


 ぼこっ。俺は街道脇の草原に穴を空ける。リオネルがやってきて飛び込んでくる。俺は穴を丁寧に塞いで、街道地下まで戻る。

 地上を歩けないってことがここまで不便だとは思わなかったぜ……。

 天井に穴が開いていると、俺はそこを通れないのだ。要は垂直に天を仰げる場所は「迷宮の外」ということになる。軒下があれば大丈夫だが、あまりに吹きっさらしの軒下だとこれもダメらしい。

 ちなみに、突っ立って真上の土をどける――つまり強制的に俺が迷宮外に出るとどうなるか?

 吹っ飛んだ。

 俺、吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

 最初それに遭遇したのは単なる事故だったんだけど、なにが起きたのかわからなくて小便ちびりそうになったわ。敵襲だと思ったもんね。ついに勇者が俺を討伐しに来たのかと。

 ともかく、だ。天井の穴には要注意である。

 俺は天井を固めながらさらに1キロほど歩き――リューンフォートの町(地中)へとやってきたのだ。


「この真上には町がある!」

「そうですね」

「俺はついに、町へとやってきたのだ!」

「そうなりますね」

「……リオネル」

「ええ」

「……俺の視界が全然変わらないんだけど」

「そりゃ地中ですし」


 ちくしょー!

 せっかく町まで来たのにさっきからずっと俺が見ているのは地中だよ! クソ!


「はあ……とりあえず街道は整備できたから帰るか」

「あれ? 帰っちゃうんですか?」

「反対側もあるし」

「ああ……」

「なんだ。寺院にでも行って浄化してもらいたいのか?」

「ち、違いますよ……ボスって町になにか用があったんじゃないんですか?」


 用、だと?

 あるに決まってんだろ! 俺だって自分で食い物買いたいわ! 服だって選びたいわ! それで女の子と甘ーい恋に落ちたりするんだわ!


「あってもできねーんだよ! 外出る方法がイッコもねーだろ!」

「あ、確かに。でも室内ならいいじゃないですか」

「あん?」

「ていうかどうなるんでしょうね。地中から家に入り込んだら……屋根はあるわけじゃないですか」

「…………」


 その発想はなかった。

 地中から不法侵入した場合はその家をダンジョンとして認めるのかどうか。

 実はこれまで、巨大な空洞などには当たっていないので、そのあたりの検証はできていない。


「やってみよう。リオネル、近くに家がないか見てくれ」


 疑問に思ったらチャレンジだ。

 小さく穴を空けてリオネルが首を外に出す。


「うわあ!?」


 戻ってきた。


「なに、どうした」

「め、め、目の前で酔っ払いが寝ていたもんで……」

「……最近暖かいからな。で、周囲に家はあったか?」

「未確認です」

「さっさと行け」


 んもう、ボスってば人使いが……骨使いが荒いんですよね……とかなんとかほざきながらリオネルがまたも首を出す。


「失礼しまーす。ちょっとごめんなさいよ~」


 街中、地面からしゃれこうべがひょっこり顔を出す。うーん、想像するとシュールだな。しかも目の前には酔っ払い、と。


「ボス、ここから10メートルほど先に手頃なヤツがあります。侵入するにはおあつらえ向きの」


 どんなだよ。


「10メートルだな?」


 とりあえずまあ、家であればなんでもいい。俺はダンジョンを掘り進め、大体10メートルほどのところで止まった。平面整地(ローラー)をかけているので崩落の心配はないが、頭上に人がいる場合は足音や声が聞こえてくるのは不思議な感覚があった。

 よし、このあたりで10メートルは来ただろう。


「リオネル、一応聞くけど家の構造ってどうなってる? 床下なんだが」

「大体30センチとか50センチ開けて、板敷きがほとんどですよ」


 なるほど、床下はちゃんとあるんだな。

 よし。それじゃ実験開始――天井に穴を、オープン!


「いでぇっ!?」


 ばちん、って弾かれた!?

 なんだこりゃ。初めての反応だぞ。上に穴が空いてしまって吹っ飛ばされたときよりも強い拒否反応だ。


「どうしました、ボス。いきなり手をぶんぶん振り回して。危うく私に当たるところでしたよ」

「もうちょっと俺の心配をしろよ。穴が……空かないんだ」

「ふむ?」


 リオネルが手に持った剣――一応外出しているので剣は持っている――でもって天井を刺そうとする。


「……空きましたよ?」

「え?」


 お、おお、ほんとうだ。ぽっこりと穴が空いている。


「お前はそこから出られるか?」

「えぇ~不法侵入ですよ。空き巣ですよ」


 今さら言うか、それ?


「いいから行け」

「ああ、哀れスケルトンは迷宮主の犯罪に荷担することを余儀なくされたのであった……」


 行けっつの。


「出られますね」

「どんな様子だ?」

「えっと、まあ、ふつうの床下ですよ。結構広いですけどね、ここは。高さ70センチくらいありますが――おお、ネズミだ」

「ふーん」


 リオネルがネズミを追いかけていったので俺も穴の下に手を伸ばす。

 ……うん、大丈夫だ。やっぱり上に屋根があると平気だな。

 じゃあ、俺も出て行ってみようか。


「――いでぇっ!?」


 頭だそうとしたら! ばちんって! ばちんって弾かれる! 俺の頭頂部が危ない! うちは父の頭頂部が焼け野原なんだぞ! 遺伝してたらヤバイんだぞ!


「ちょ、ボス、うるさいですよ」

「だって痛いんだもんよ!」

「ここで騒がないほうがいいですよ」

「なんでだよ……ってまあ、あれか。人んちの地下だもんな」

「えーとまあ、そうなんですが、そうではなくて……」

「なんだよ、歯切れの悪い」


 って。

 その手!


「ネズミ持ってくんじゃねえよバカ野郎がぁあああ!」

「え? 可愛いでしょ」

「可愛いわけねーだろ! 捨てろ! 捨ててこい!」

「飼いましょうよ」

「飼わねーよ! よく見ろよ、そいつ、泥まみれでいかにも病原菌にまみれてそうじゃねーか!」

「あ、ボス、声が大きい――」


 リオネルが言いかけたときだった。

 どたどたどたと複数の足音。


「誰だそこにいやがるのは!」

「出てこい!」

「ずいぶんとまあ舐めたことしてくれるじゃねえか! この冒険者ギルドに忍び込むとはよお――」


 ……は?

 冒険者ギルド?

 この上が?

 ビッ。

 リオネルが得意げに親指を立てて見せた。


「ににに逃げるぞおおおおお!!」

「野郎ども、賊は地下だ!」

「刺せ! 刺すぞ!」


 走って逃げる俺と、追ってくるリオネル。直後に、銀色の輝きが床の踏み板を破って降ってきた。

 なんとか逃げおおせ、迷宮司令室に戻ってからリオネルを超叱った。

 ネズミも野に返させた。骨がネズミを飼いたいとかちょっとどうかしちゃってるだろうよ。


「ふう……」


 大変な目に遭った俺だけれども――収穫はあった。

 まず街道の整備が終わった。表面の土やら石やらが流されていけば、強靱な街道が残るだろう。

 そして、家への侵入ができなかったことだ。代わりに、屋根は認識していた。この事実について俺はあれこれ思いを巡らせたが、わからなかった。

 ちなみに冒険者ギルド以外にも試してみたが同じように穴を開けることはできても、侵入はできなかった。

 なぜこんなことが起きているのか――これについて答えが出るにはそれからしばらくの時間が必要だった。

 俺の最大MPが1,000万を超えたときにそれは起きた。

土日はお出かけなので更新できないかもしれません。

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